新・現在4コマ漫画レビュー 第45回

(初出:第206号 14.8.20)


-TOPIC-
久しぶりに4コマ作品の新たなアニメ化の話など出てきているものの、なかなか大型新人、新作が出てきていない昨今である。新人不作、というよりは、大御所から中堅どころまでぴっちりと隙間なく人気作、実力者が揃っている状態で即戦力需要が無い、と言った方が良いようだ。まさに今、円熟期であると言ってしまおう。そうなると歴史の必然として衰退期がやってくるわけだが、逆にもう一山越えるチャンスでもある。その為にはマイノリティ保護としての幅広い受け皿を用意してもらいたい。前回「まんがタウン」誌(双葉社)の独自路線について記したがそれもまた一つ。近年もう一つ、ちょっと期待出来そうな4コマ誌を見つけた。
「主任がゆく!スペシャル」誌(ぶんか社)は通巻78号を数えるからすでに7年くらい前から出ていたものの、当初はタイトル通りたかの宗美『主任がゆく!』(みこ半→主任)を始めとした作者の作品の総集編に近い作りであんまり熱心に読んではいなかった。いつの間にか本作の掲載誌自体が本誌となっており(つまり毎号描き下ろし新作)、だいぶややこしい経緯を経たようだが今ではかつての「クレヨンしんちゃん特集号」→「まんがタウン」となった双葉社の4コマ誌同様、ぶんか社唯一の非エロ4コマ誌となっている。当然というか、売れっ子が抜かりなく連載陣に並んでいる中、注目したいのは他社でとんと見なくなった顔も結構頑張っているということ。竹書房Y-1グランプリ入賞者のおりはらさちこは受賞作がWEB作品でその後の活動もほとんど見ないままだったのでほぼお初。『愛しの桜さん〜人妻いちねんせい〜』(主任)はエロに向かわないお色気コメディで充分及第点なんだが、どうして出身社で連載持てなかったのかしら。同じく芳文社の4コマ競作から出てその1作で消えてしまったと思っていたテンヤが『黒森さんの好きなこと』(主任)でネガティブキャラを主人公にロングラン連載中。さらにすっかりストーリーに転向したと思っていた桜沢鈴が『プライスレス家族』(主任)という貧乏から突如大金持ちになってしまった姉弟を主人公にした、あれ、どっかで聞いたことのある..でもちゃんと、視点を変えて貧乏時代からの交友関係にスポットを当てた人間ドラマを描いている。また、近年他社誌で見かけなくなってしまった久保田順子も『スマイルユウミさん!』(主任)は従来通り京都(の和風喫茶店)を舞台にした作品で一安心。
ぶんか社では投稿系の4コマ誌にもっとたくさんのあの人は今、があるんだけれども、投稿記事を4コマ化している状況は正直ネタの切れた4コマ漫画家の生計とも思えてしまうのであんまり読みたくはない。
オリジナル作品を描き続けているということが嬉しいし、他社誌で読めない漫画家の作品が読めるというのは本誌の強みともなりうる。彼らが逆輸入で他社誌でも見かけるようになれば、また新たな流行漫画家の誕生、という1ページが出来上がるわけである。


-PICK UP-
ポストビジュアル系、というのを考えてみた時に、読者層というものが浮かんでくる。つまり「きらら」系列は20年読み続けることは難しい。ビジュアル系は新規読者(若年層)を取り込んで発展していく。それは作り手側から言っても同じである。20年、読み続け大人(というより、いい年)になった読者は何を読めばいいだろう。それまで通り、学生が主人公の作品で充分楽しめますが。その通り、でも立場変わって親の視点から描かれる作品も楽しめますよと。同じく。20年、描き続け大人になった漫画家は何を描けばいいだろう。それまで通り、学園を舞台にした作品で充分通用してますが。その通り、でも立場変わって親の視点から描く作品も作れますよと。
ビジュアル系に限らず、学生を主人公にした作品をざっと見渡せば、彼らの親が出てくる作品の少ないことに気付くはずだ。親の存在が描ける、というのがポストビジュアル系、次の20年のヒントになってくるのではないかと思っている。
小池定路『父とヒゲゴリラと私』(くらぶ)は娘が主人公だがエピソードの大半を父とその弟(叔父)が占めるようになってきた。それぞれの恋路もそうだが妻に先立たれた父、その存在がクローズアップされるのはドラマ性溢れて読み込める内容になっている。
伊藤黒介『ベルとふたりで』(くらオリ、ライオリ)も家族のエピソードに事欠かない。最新話では男の甲斐性が存分に描かれていて、めでたいんだけれども思わず泣けた。
安西理晃の新連載『幼なじみリレイション』(ライオリ)は学校で馴れ馴れしくしないという秘密の恋要素満点の設定の裏に家族の反応というややこしい事情を絡めてきた。こういう描きづらい世界観に挑む姿勢は必ず次の一歩となる。
4コマと少女漫画の関連性については予てより述べているが、この流れも少女漫画からレディスコミックへと読者作者の成長と共に発展してきたことと重なる。過激な性描写がメインでは無い方のレディコミの愛憎劇には家庭、家族の在り様が描かれているものが多い。4コマでもこれらが描かれ、支持を受ける状況になってきたと言える。
ちなみに今回挙げた作品は奇しくも全て竹書房の4コマ誌からである。芳文社も家族を描いた作品は色々あるが、それらは寧ろ伝統的な、典型的なファミリーものの域を出ない。キング・ビジュアル系たる芳文社に対し、他社はそれぞれの新機軸を打ち出しつつある。包囲網は着々と張られてきている。
あ、佐藤両々だけ例外的に、近作はいずれもきっちり家族の存在も描いております。


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