-TOPIC-
シビレた回だったから、何度も読み返したし、そこで気付くべきだったのだ。最終ページの柱には「次回クライマックス」と載っていたはず。それに気付かなかったばかりに、ついつい今後が楽しみで仕方ないなどとしてしまった。..うーんでも、芳文社は最終回告知が突然出るパターンも多いからなあ..。ともかく、えのきづ『桜乃さん迷走中!』(ジャンボ、終了..)は翌月あっさりと大団円。夢物語みたいな展開は所詮漫画だし、と切り捨てるのではなく、結果はどうあれタイトルである「迷走中」ではなくなった時点で語り終えるを良しとしなければ。少なくとも、作中語られた様々な体験が経験となって活かされた、との自説が最終回まさに明言されていたので以て瞑目する。
そしてまた、ここが4コマのいいところであり困ったところでもあるのだが、その翌月号(今月売り)にはすでに新連載スタート。『ナデシコ!』(ジャンボ)は日本好きで何とか日本語を話せるようになって来日した外国人が主人公。ところがステイ先で配属されたのが「お客様相談室」という..トラブルにならないわけが無く、早くも次号が楽しみ過ぎる。前作への未練があっという間に霧消してしまう。このぐらいのぶっ飛んだキャラ設定というのは実に良い見本とも言えるわけで、ちょっと苦言を呈することになるけれども、枕辺しょーまの新連載『うぶコメ!』(スペシャル)は社会人1年目にして早くも契約の場に立たされているなどの設定の難がキャラクターの普通さで違和感を払えないでいる。特徴や相関図はパズルのように組み替えていても、及第点では替えが効いてしまう。作家性を、もっと真摯に追及した方が跳ねると思うのだが。ご当地漫画家としてついつい見過ごせないばかりに辛辣になってしまった。閑話休題。
しかしストーリー4コマの繚乱はいつに..と思っていたら、意外な作品がほころび始めている。野広実由『大正乙女カルテ』(タウン)は女医志望を諦めるかどうかの山場を経て、「私の未来はこれから!」という王道の締め方になるんだとばかり。それが何と続くと!単行本一巻分で一応第一部、完とはなるものの、学年が1つ上がって新しい一章がスタートという流れにほくそ笑む。これはなかなか練られた構想の元に進行しているのではないか。同期作である、うず『きぐるめくるみ!』(タウン)も最終章のようなトーナメントが繰り広げられているが、これがクライマックスでないなら、同じくストーリー4コマを目指す作品として挙がってくる。一方で鳴り物入りで引き抜かれた梅川和実『となりの工学ガール』(タウン、終了)をあっさり終わらす、近年さっぱり4コマを描かなくなったオザキミカ『ふうちゃんとおじいちゃん 出張版』(タウン、ゲスト。本編は「月刊アクション」誌(双葉社)でのショート作品)を呼んだり、これは嬉しい田中なつ『ママはパートマスター』(タウン)は改題して連載再開という流れで再登場。このところ「まんがタウン」誌のラインナップが独自のものになりつつあり、巻き返しに真剣さが見て取れる。他社で描かないような人、描けないようなテーマが揃うのだとしたら、単純な寄せ集めではなくなり寧ろトレンドとなっていくはずだ。
最終回ネタでもう一つ。真島悦也『ちとせげっちゅ!』(MOMO、終了)が単行本10巻を数えるロングランでついに終了。見事に肩透かしを食わされたような現状維持のまま、そうでなければ主人公の立つ瀬が無いと言われれば納得のフィナーレ。ところでかつてポスト真島は一体誰になるのやら?という一説を講じたことがあるのだが、この破天荒ラブコメ、後継者は果たして現れたのだろうか。あ、安西理晃『お姉ちゃんが来た』(ライフ、MOMO)か!!
-PICK
UP-
不定期で載っていたイタリア旅行記、橘紫夕『ヴェネツィアひよわ紀行』(くらぶ、終了)が最終回。結構続いたような気がしたけれど、楽しみが一つ減ってしまったなあと思っていたら、最終ページの柱に気になる話が。どうも単行本化、されるらしい。これは珍しい!企画もので単行本にまとまるなんて初なんじゃないか。
昂ぶってみたものの、思い返せば「ホーム」誌(芳文社)での青沼貴子のBL漫画家に挑戦したまさに企画ものがすでに単行本になっている。青沼貴子『青沼さん、こっそりBL漫画家をめざす。』(イースト・プレス刊)いやしかし、これは別出版社からの個人作品集の一環としての刊行だし、やっぱりこの流れは初めてなのでは。と、先日10年を経てついにネタ切れと告白し完結となった胡桃ちの『極上!お宿五ツ星』(主任がゆく!スペシャル、終了)では当初年産30ページしかなく、ずいぶん長い年月をかけて1巻は出されたというエピソード。見渡せばエッセイコミックは育児ものを中心に溢れているし、何も特別なことではなかった。それでも4コマ誌での単発読み切り作品(=企画もの)が不定期ながら続きものになり、単行本化に至るというのは稀有な例であろう。作者急病で本編休載という大事の中、コミックス発売記念の定例企画は掲載されたが、佐藤両々「非スイーツ菓子探訪」(タイム)はコミックスに収録されていたっけか。駒倉葛尾は『教師諸君!』(芳文社刊)で思い入れがあるという企画ページを加筆して収録していたが、これも稀なケースである。
反響次第というビジネスライクな判断に拠るのだろうが、作品収集の観点から言えば企画ものといえどやっぱり単行本化というのは文化的事業として赤字覚悟で行われるべき。掲載誌購読のお楽しみだけに留める必要は無い、集録の流れが当然となっていくことを望む。
-REVIEW-
王嶋 環
前作『紫乃先生〆切前!』(芳文社刊)から読んではいるものの、ラブコメとルポもののバランスがあまり上手く取れていない感じでなかなか挙がって来なかった。先日終了した『オトメシュラン』(タイオリ、終了)も恋路に山があるでなし、レストラン経営も深くは掘り下げず、普通のコメディ止まり。読んでいて楽しいのだけれど、プラスアルファの部分が足りない気がしていた。そこを動かしたのがSF要素。『夢からさめても』(タウン)はラブコメ+市の観光課職員という従来と全く同じ作りながら、予知夢が見られる主人公というのが肝。近未来が分かるので、基本それに従っていけばいいと生きてきた主人公が、好きな人との予知夢に右往左往。見た夢が悪ければ何とかしなきゃと考えるのが自然だし、その過程が恋に仕事に反映されていく。キャラクター各々の視点で語られる型なので、ヒロインの心変わりが見えてしまっていてドラマ性にやや欠けるが、これでさらに思わぬ展開に転がるようなら大河ロマンの大作になるはず。実際、「タウン」誌では気が付けば古株の長寿作品になっている。
水瀬 るるう
下宿、ビンボー青年、大家さんが女性(女の子)というのは鉄板設定なんだけれども、4コマでヒットするカギは大家さんが昭和テイストというところ。サンプルは少ないんだけどね。『大家さんは思春期!』(タイム、ファミリー)は中学生ながら超の付くお祖母ちゃん娘に育った大家さんで私服も制服(スペアが大量にある)、思い付くイケメンは時代劇役者etc...見事に浮世離れしたキャラクターが大人気。過去にほぼ同じ設定で秦泉寺こまき『他人どんぶり』(芳文社刊)が当時ヒット作の証であった単行本化を果たしているし、ほぼ同じ設定ながら大家さんが昭和テイストでなかったこなみ詔子『青空・ハイツ』は単行本未刊のまま尻切れトンボ。
懐古趣味の詰まった今さらな設定ながら、外れない需要がある。ポイントは、読者作者共前作を忘れた(知らない)頃に登場させること。そして本作のように主人公が女性のあらゆる面を内包している女神であることだろう。「めぞん一刻」以来のこれは真理でアル。
瀬野 反人
毒舌キャラが受けるのは何も奇を衒っているからではなく、我々が普段の会話でよく行っているからだ。ただ現実では当の本人が目の前にいては出せないセリフを、漫画はキャラクターの特性として吐いても許容されるので小気味よく感じる。この型は相方として脇役を固めることが多いのだけれど、主人公にもってきても十分通用することが実証された。『ポイズンガール』(ライフ)は来月単行本1巻が出ます。
そして個人的に意外だったのは、ルポものの秀作として注目し始めていた『いぬにほん印刷製版部』(ホーム)の作者と同一だったこと。点があるから中小企業、の印刷会社を舞台にした新人社員の奮闘記は、残業徹夜当たり前、休み無しのブラック会社の実態を暴く..作中まさにそんな愚痴をこぼしまくってあるのだが、辛い辞めたいのネガティブ思考に陥ることなく、寧ろ主人公は会社をかばうような言動を家族にする。現実に置き換えても、結局会社の雰囲気、人間関係が問題なんだと気付かせてくれる作品。
リアルを上手くすくい上げてフィクションに昇華させる、なかなかなタレントを持っているようです。