新・現在4コマ漫画レビュー 第30回

(初出:第183号 12.8.20)


-PICK UP-
「ネタバレ注意」、この文句を4コマ作品を扱って出すことになる日がついに来たと思った。現在のところは残念ながらそこまでのターニングポイントとはならないようなのだが、2つの連載作品が単なる登場人物同士のコラボレーションではなく、ストーリーのリンクを試み始めた、と瞬間勘違いしてしまったのだ。
その作品とは伊藤黒介『ベルとふたりで』(くらオリ、ライオリ)と『イヴ愛してる』(MOMO)。ギャグ作品である「ベルふた」の主人公(少女と犬)が「イヴ」に出てきたのは「MOMO」誌8月号。そう言えば、と思い出したのは同月?「ライフオリジナル」誌で音楽学校の先生として登場した外国人女性。眼鏡を掛けたお固い感じだったのですっかり流していたが、あれは「イヴ」の主人公だ。そして音楽学校を舞台に両作とも少女を巡った争奪戦に突入する。「ベルふた」の視点から立てば、大人たちをすり抜けて同じ境遇の女の子とその場を逃げ出す鬼ごっこのような微笑ましい内容。しかし「イヴ」の世界観からすると、この女の子は凶悪な存在であり、少女を拉致してしまった。それを追う女性と犬。
少女はどうなってしまうのか?というより、あくまでギャグ作品であったはずのキャラクターがブラックコメディに登場した途端、強烈な違和感を感じてしまったのだ。振り回すキャラが振り回される、圧倒的な無力感に打ちひしがれる様を見ることになってしまうのか、と。これをどうまとめるつもりなのか。最新号がかなり待たれるとともに、ここに至るまで気付かなかったことを猛烈に悔いた。立ち読みでは把握しきれない情報量を、すでに4コマは持っている。また悩ましいことに「ベルふた」は「くらぶオリジナル」誌では全くの通常営業を貫いている。それを挟んで読んでいるから両作のシンクロに佳境を迎えるまで気付けなかったのだ。
そして「ライオリ」の今月号。読んで力が抜けた。相変わらず主人公は主人公で、結果無罪放免。やっぱり音楽に目を向けさせることは今回も出来ませんでした、という話。さらに改めて隅々まで読めば、両作の単行本が2ヶ月連続でリリースされる、記念のコラボ企画であると明記されている。つまりはあくまでゲストなんである。それぞれの作品でのキャラクター性はそぎ落とされ、それぞれの作品にあった設定に微修正されて登場している。だから女の子に根拠の無い敵対心を向かわせる犬などの違和感が散見される。一応事無きを得た結果、事情を知らない少女の視点からはこのように見えた、という深読みも出来なくは無いが、少なくとも「ベルふた」内では作品世界が一変するような状況を見せずに収束してしまった。半面はホッとしているものの、ちょっと未熟さを感じてしまっている。番外編や独立したエピソードで出さずに、「イヴ」本編しかもかなり重要な局面で別世界の主人公を使ったことがそもそも無謀だったか、絡めながらも関係の無いところでストーリーは進行していってしまいそうである。
けれどもまだ、分からない。「イヴ」のオチは今月末売りの「MOMO」誌になるからだ。このコラボ企画が4コマ界の新しい試みであったかどうかの結論はそこまでお預けである。ただ今のところは8割方、単なる企画もの、に終ってしまいそうなのだが..。何らかの爪跡を双方に残す内容を期待したい。

-REVIEW-
えのきづ
やっぱりというか当然というか、震災以降断捨離せぬままチマチマと購読していけば4コマ誌は本棚からあふれ、積み上がりきれば立ち読みで済ませることが多くなり、立ち読みでは新規が増えず。たまたま旅の供に買った「まんがくらぶ」誌で『ご近所あどべんちゃー』が3ヶ月連続ゲストだったのを読んで注目した次第。すぐにアンコール登場となったから連載は間違いないところ(最新情報)。冒険家を志す少女がまず目指したのは近場での大発見、ということで友人を無理やり巻き込んでおいて盛り上げる演ヤラセ出まで期待するという問題児が振り回すギャグ作品である。いや、ギャグというよりコントに近いか。当初は二人だけのやり取りが続いたので特にそう感じた。ボケとツッコミ、すかしや逆ギレなど、お笑いのテクニックが取り入れられている。今やそういうのが自然に使われる時代になったと言える。
作者は同人との2足のわらじを今も履き続けている。というのもHPで公開していた作品「琴浦さん」が出版社の目に留まって単行本化されて有名になった経歴を持っているから、プロ志向は元々希薄だったのだろう。とはいえ「まんがタイムジャンボ」誌での『桜乃さん迷走中』はこのほど単行本が出た。..「ジャンボ」は近年決まった作品しか読んでなかったから気付きもせず。単行本で、しっかり復習します。

櫁屋涼
方や、購読する確率の割合高い「ホーム」誌でずっと読んではいたのだがイマイチハマれていない『そよ風そよさん』。風を擬人化してコロボックルのようなチンマリとしたキャラクターに仕立て上げたのは見事ながら、皆に愛されるアットホームコメディだけでは少々、物足りず。人情ものはほんとにあふれ返っているし。だから所変わって得意分野で勝負した感じ(作者は関西在住とのこと)の『腹黒舞子さんとの京生活』(くらぶ)の異文化コミュニケーションにて合格点。関西ネタというのも大概出揃っているが、やっぱり他所者から見た驚きの地域性という流れは間違いが無い。特に本作のような大学を機に関西へ足を踏み入れるというのは、実際そのまま居ついてしまった知り合いもいるように何かハマる要素を含んでいる。そして一筋縄ではいかない偏屈な京美人がパートナーとくれば眇めでいたはずがついつい読み進めていってしまうように。


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