新・現在4コマ漫画レビュー 第21回

(初出:第170号 11.7.20)


-TOPIC-
出版社のビジネスとしての出版物、という現実に戦慄すら覚えた。先月売りの「まんがタイムLovely」誌(芳文社)7月号の、巻末に「休刊」の告知。何と全面リニューアルからわずか5号、寧ろそのことが寿命を縮めたと言える急転直下で、17年の歴史を閉じることとなってしまった。
「ラブリー」表記を「Lovely」に変え、「本格的ストーリー4コマ」という新しいジャンルを志向して既存読者と隔絶したのが大きな誤算を生んでしまったようだ。孤高の存在となることを期待していたら孤立無援の四面楚歌..。笑えないほど売れなかったのだろう。原因は色々色々あるだろうが、これは間違いないところ。
そんなわけで突然の最終号では、一昔前の4コマでよく見られた最終回パターンが軒並み見受けられた。つまり「私たちの物語はこれから!」「そんな日々がこれからもずっと続く..」という、ラスト1本で「おしまい」が語られる尻切れトンボ。「本格的ストーリー4コマ」が聞いて泣く展開だらけであった..描かざるを得なかった作者たちの無念さは計り知れない。物語の完結とせずに「序章・幕」とした作品が見られたのはそれを窺わせる。あるいは全く関係無しに、寧ろヒキの展開で終わった作品もあったがそれは挑戦的な態度でなくて移籍が確定している余裕からなのだろうか。ともかく大混乱の撤収だったと言える。
一言、この休刊に対して言いたいのは一体「ストーリー4コマ」をどう見ていたのか、ということだ。物語性のある作品を、作品群に対して半年ほどの反応(売上げ)で雑誌ごと切り落とす、というのはあまりに性急過ぎる。また描き手に対しても、単にストーリー漫画を4コマのコマ割りで描けば良いと誤解していなかっただろうか、疑問が残る。それはコマ割りが均一な、だからはっきり言って面白みの無いストーリー漫画に過ぎない。手前味噌な話ながら、随分前に私が定義した「ストーリー4コマとは、従来の4コマ作品のように4コマ1ネタで短い完結を続けながら、物語自体も次々に進展を見せる形を言う」ことを知らなかったようである。編者も、描き手も。そんな冊子に対する読者の反応はさすがに厳しいものだったのだろう。
一方で、同時期増刊で始まった「まんがタイムきららミラク」誌の存在が遠因として挙げられそうだ。つまり天秤に掛けられて、近い将来のミラク誌の月刊化、独立創刊を取ったのではないか。余談になるが同時期創刊、角川書店の「4コマnanoA」誌は来月売りのVol.4より月刊化が決まった。メディアミックス最大手のすべり出しは上々のようだ。すでに「ラブリー」誌の穴を埋める形で、タイム系列は「まんがタイムジャンボ」誌が今月より毎月4日→12日発売に変更された(「ラブリー」は13日発売だった)。皮肉にもミラク誌創刊を知らなかった当初の推測通り、タイム系列1誌減のきらら系列1誌増というバランスに、どうやらなっていきそうである。
栄枯盛衰、あって然るべき4コマの歴史とはいえ、個人的には胡桃ちの「つなみティーブレイク」が表紙であった頃、系列中一番好きだっただけに往時を想うと慙愧に耐えない。出版社には「売れる」「売れない」のみで動いていれば、必ず強烈なしっぺ返しを喰らうことを覚悟してもらいたい。

これが勝者の驕りとするならば、巻き返しを図るサードパーティの迷走とでも言ったら良いだろうか。ずいぶんな辛口から切り出したが「ぱれっとLite」誌休刊のニュースをお伝えした一迅社は「ネット配信」分野に進出。縮小幅を何とか抑えて、ローリスクで作品を提供しようという志には賛同するものの..どうもこちらは商売しようという意図が感じられなさ過ぎる。
何しろ配信作品の公開状況があまりにもバラバラ。本誌連載作品の第1話のみを公開していると思えば、残念ながら本誌連載から外れてしまった作品の、第1話〜2話を公開して概要を掴んでもらった上で、さてネット上では新作の第11話から、第23!?話からとなると..登場人物がいきなり増えてたり、するんですけど..。しかも公開期間が大きく明記されていて、2031年までだそう。20年経って読めなくなるのを告知されても。何らかのルール、なんでしょうか。
読めない部分は本誌で、既刊単行本で、という販促効果を目論んでいるならあまり期待できないであろうと一読者としてお答え申し上げる。これもまた、制作者サイドは最近の4コマ作品の傾向をあまり理解されていないと言うしかない。昨今の主流は「エピソード積み上げ型」であり、だからこそ掲載話はもれなく収録されなければ真価を発揮しないのである。続きが読めるというのに食いつくのは既存読者であり、それはあまりにも小さいマスでしかない。大部分は別の媒体でという形では、その場所から何かが生み出される可能性は低いのだ。メディアミックスを熟知しているはずの出版社にしては中途半端なことをやっているなと感じている。ちょっと、言い過ぎた。試行錯誤の途中であるのだろう。だがしかし、大手がすでに先行している分野であるから悠長に構えてはいられないはずだ。

-PICK UP-
正直なもので「まんがタイムLovely」誌の休刊を知ったのは立ち読みで。今月売りの「まんがタイムきららミラク」誌は購入。確実に結果の万分の一を担っております。やっぱり総体的に見た上で、面白いと思えば自然と財布は開くもの。
前回も言ったのだが、系列他誌に比べて確かに何かが違う。というか、はっきり言って本誌のラインナップは「Lovely」誌のお株を奪う、ストーリー4コマが目白押しなのだ。しかもメディアミックスに対応出来るような、動的な世界観、設定が多く見られる。学生の女ヒ主ロ人イ公ン立てというのが共通項ながら、ジャンルは多彩だ。特に幻想的なSFや、ナンセンスギャグに近いものなど、クセの強い(=個性的な)作品が多いと感じる。誌名のサブタイトルに「FreeStyle 4komagazine」とあり、後半部はトホホな感じだが「FreeStyle」というのはいい目の付け所であり、体現できていると思う。新しい流れの胎動が聞こえる。
ただしマニアック受けしそうな、という商業的なマイナス要素も多分に見え隠れしている。例えば創刊号がこちらでは手に入らなかったので、理解ある?友人に都内での購入を依頼したものの、結果「エロ漫画っぽくて買えない」と言われてしまった。ビジュアル系4コマ誌と美少女漫画誌、表紙だけ見れば混同されるキライは確かに、ある。いや中身も似て蝶、か。さておき。「けいおん!」好きなのだがアニメから入った友人は、原作が載っている4コマ誌の増刊だという点が購入に結びつかない。これは一般の人の感覚に近いと思う。つまり本誌の購読者はほぼ、系列他誌の読者であり、先に天秤にかけてと言ったが実際のところ爆発的な売れ行きを見せているわけではないだろう。
ところが将来的な可能性という点ではかなり期待が持てるものと断言してしまう。マニアックといってもメディアミックスを見据えた、トレンドを踏まえた作品が多いからだ。かつての講談社の「マガジン」「ヤンマガ」ありつつの「アフタヌーン」「モーニング」路線を思い出す。部数的な格差を問題とせず、クオリティの高い作品を追求していけば、結果注目度は対等になることを明らかにしてくれた事例である。
本誌は「学園もの」縛りで閉塞気味のビジュアル系から一歩、突き抜けた存在になるはずだ。その最初期から立ち会えるというのは読者冥利に尽きるわけだが。まだ隔月刊の3冊目。まだ、間に合います。


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