新・現在4コマ漫画レビュー 第20回

(初出:第169号 11.6.20)


-TOPIC-
双葉社が、植田まさし『かりあげクン』の通算1500万部突破記念増刊でトリビュート企画を行ったのが6年前。時は流れ先月は芳文社「まんがタイム」誌が30周年で記念企画に『おとぼけ課長』をトリビュート。そうしたら何故か竹書房まで『フリテンくん』特集号(まんがライフセレクション)を作ってこちらもトリビュート企画をメインに据えている。轍を踏んで大手が企画揃い踏み。は置いといて、それぞれに代表作を置いている植田まさしの4コマにおける地位というのは未だに揺るぎない証左であろうし、トリビュートした漫画家たちはやっぱりこの系統に連なっているのだと再確認出来る。そんな御大の冠を付けた芳文社の新人賞は地力のありそうな安定感を感じさせる受賞者が並んだ。しかし竹書房Y−1グランプリは今年もまた大賞作該当なし。どうも、時勢とのズレを感じてしまう。キラ星の如き新人は毎年現われているのに。正統としてとりあえず据えておく、といった意味合いでしか無いのだろうか。すでに昨年の受賞者たちはデビューしているが、新創刊誌などで見かけることもなく、数多おられる新顔の一人でしかなくなっている。投稿→デビューのルートはあって然るべきなので、企画自体の存続をどうこう言うわけではないが、大仰な冠、企画運営には年々疑問符を重ねざるを得ない。10年後に御大がご健在だとして、近年の受賞新人がトリビュート企画に名を連ねることになるような。ビジュアル系への後乗りを拒みたいなら、そんな地に足の付いた新人育成企画こそ必要と思われる。すでに冠の名称を変更した芳文社には少なくともその志向が伺える。皮肉にも、ビジュアル系を強く押し出している方が伝統も大事にしている感じだ。

-PICK UP-
その、芳文社新人賞の準大賞(まんがタイム賞)に高校野球を舞台にした4コマが入った(金山ぶぅ『もいんの高校野球日誌』)。プレイヤーが主軸ではなく、マネジャーのプロ顔負けの野球知識にやり込められる選手、監督というコメディ。植田まさしの選評「これからの(4コマ)漫画は狭い世界をマニアックに描いてもいい」というのは的確だ。あえて(4コマ)としたのはストーリー漫画ではすでにマニアックに特化した野球漫画は存在しているから。アニメでしか見ていないがひぐちアサ「大きく振りかぶって」(講談社)ではそれまでの野球漫画とは一線を画し、メンタル面や戦術、理論を駆使した現代野球の駆け引きを見所にしている。すでにサイエンス・ベースボールの面白さはコアな野球ファンにとって常識。4コマではストーリー仕立てで描くことは難しそうだが、専門用語の羅列それだけで笑いを生むオチになり得る。
ストーリー仕立てでマニアックな野球ドラマを描くのが難しいとしたのは、秋吉由美子『チェンジアップ!』(ライフ)を読んでいてそう思っているから。エースとマネジャーの恋模様を軸に描かれる高校野球は、作者の野球好きが効を奏して試合もきちんと描かれているが、結果の気になる展開には残念ながらなっていない。周りの選手や、勝たなければいけない状況がもう少し見えて来ないとチームプレイ(野球)を舞台にした意味が薄れてしまう。このままでは勝っても負けても爽やかにハッピーエンド、ではないだろうか。真のストーリー4コマに必要なのはズバリ「ドラマティックな展開」。おっ!と食い付く展開に、今後なることを願っている。
ところで狭い世界と言えば、「部活」を舞台にした4コマ作品が気が付けば増えている。学園ものジャンルの拡大というだけでなく、これは読者層の変移に伴う現象と考える。特に「きらら」系列誌ではほとんどの作品が中高生を主人公に立てており、読者もほぼ同年代がメインとなったから、共通項としての部活動がモチーフとして成立しているのではないか。年齢層の高い一般誌では昔と変わらず数えるほどしかない(いずれも看板作ex.重野なおき『じょしもん』(ジャンボ)、遠山えま『ぽちゃぽちゃ水泳部』(ファミリー)ではあるが)。
今のところ部活という「狭い世界」と「仲良し仲間の学園生活」が同義に描かれており、マニアックさには欠ける..いやいや、思い至ってみればマニアックな世界を描いた作品は隆盛ではないか。専門学校を舞台にした作品や、特定業界を描いたいわゆる「ルポもの」作品はいずれもマニアックでありながら好評をすでに得ている。そしてアマチュアバンドと部活という狭いマニアックな世界で空前のヒットとなったかきふらい『けいおん!』(芳文社・続編連載中)がある。
御大の評におこがましくも添削を入れるならば、「すでに4コマ漫画は狭い世界をマニアックに描いていい」段階にあるのだ。だから金山ぶぅの受賞は目新しい人材の登用ではなく、必然的なものと言える。


-REVIEW-
白滝キノコ
前回「謳い文句と違って系列他誌との違いが分からない」とした「まんがタイムきらら増刊ミラク」(芳文社)だが、読み込んでいくとどうも..他誌よりも面白い作品が多いと感じている。エッジが効いているというか、それぞれ独自の世界観を完成させている漫画家が揃っているというか。いずれ紹介が増えてくれば詳しく言えると思う。
今回は野球つながりで作者の『びぎなーず9』(きららミラク)を紹介。タイトルが表す通り、初心者が集まって女子野球部を創設しようという部活もの、である。有象無象が集まって最終的に勝利を目指すのはスポーツ漫画の王道。それを4コマでやろうという意欲作であり、少なくとも周りを引きずり込む魅力を持った主人公は及第点だ。唯一の経験者?であり相応の知識も持っており、作中で豆知識を披露したりもする。狭いマニアックな世界が描かれているわけである。そのせいか、台詞がかなり多くなってしまっている。本来なら4コマではタブーであるが、今のところフィールドには出ていない状態なのでまだ気にならない。4コマのビギナーであるならば今のうちに改善して欲しいところ。
絵柄はどうもどこかで見たような..感じなのだが前歴は辿れなかった。根拠無く言えばアニメーターだった人の描く漫画のような..表情が豊かだし、頭身なんかもきちんと踏まえて構図を取る辺りが。だから問題なく動き(野球シーン)は描けると思う。4コマに慣れて、洗練されてくれば大化けする可能性がある。楽しみなので青田買いしてみた。


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