新・現在4コマ漫画レビュー 第19回

(初出:第168号 11.5.20)


-TOPIC-
震災による物流の途絶、一説には紙不足で発行部数が激減せざるを得なかったせい、で、丸々一ヶ月定期刊行物がこちらでは販売されなかった。ネット公開に踏み切った週刊誌と違い、4コマ誌は軒並み「被災お見舞い」コメントを出しただけで救済してくれず..恨み言を吐くつもりとてないが、お陰で「きらら」誌の新増刊は今月売りのvol.2でようやく入手出来た。
芳文社に関しては、前回「Lovely」誌リニューアルでビジュアル系にウエイトを置く姿勢を感じていたら、直後にこの新増刊のリリース。「きらら」「キャラット」「MAX」の既存誌に加え「Lovely」と、今のところ隔月発行となる増刊「まんがタイムきららミラク」。本誌ではビジュアル系の更なる進化形を見せると謳っているものの、系列他誌とのはっきりとした違いは見受けられない。しかし人気作を引っ張って枝分かれしていった黎明期と打って変わって、「Lovely」同様ほとんどニューフェイスで固めた執筆陣に量産体制の本格的施行を見る。ある意味で今年のトピック、と言える。つまり一から育てるダイヤの原石を磨く手法ではなく、川の水を攫って手っ取り早く金塊を見つけようとしているからで、もし成功すれば今後ますます、同人作家の商業誌へのゲスト的参入は増えていくだろう。トゲのあるような言い回しになってしまったが、特に他意は無く、時代に適合した流れなのだと思っている。
一方で、残念なニュースが一迅社「ぱれっとLite」の休刊。増刊から抜け出せず、3年ほどで撤退となった。連載陣の半数は「ぱれっと」本誌に移籍し、即ち同社では4コマ誌は完全に半分に縮小されたことになる。スピンオフによるマスの拡大は困難であることが実証された感じで、アニパロ、ゲーパロ主体のメディアミックス戦略による4コマ誌の限界が伺える。
これら創廃刊と奇しくも軌を一にして角川書店から「4コマnanoA(エース)」誌が登場。「少年エース」増刊で隔月発行となる本誌も同じく、メディアミックス4コマ誌と銘打っているが、違うのは4コマ発のヒット作を看板にしているところ。返す返す4コマ誌からのヒット作ではないことがもどかしいけれど、初めに4コマありきで展開されれば当然本誌のような形で4コマ漫画に恩恵が付与される。ここから、更なるヒット作が産まれることを切望する。

-PICK UP-
前回に触れた終わるかも知れない展開を見せた作品が、今年は案に相違してほとんどクライマックスへ。意外だったのは「まんがタウン」(双葉社)の看板、樹るう『そんな2人のMyホーム』の終了。ポスト作品が見受けられない中でどうするのかが注目される。今月号では何と、20年も前の森下裕美「少年アシベ」(初出は集英社)が表紙&再録。これは同社から選集が発売されるPRと思われるが、もしや「COMAGOMA」「ここだけのふたり!!」以来またも続編が!?と思ってしまった。順当に考えれば「クレヨンしんちゃん」の返り咲きか、本誌自体の大幅な路線変更は無いはず。
そんな中、震災を絡めた作品がほんの数作あり、目立ったので紹介しておく。まず目にしたのは先月号の小池恵子『ななこまっしぐら!』(ライフ)。久しぶりの泊り旅行にテンション上がりまくり、の回で、行き先ははっきりと明示されておらず、ただし地元民ならピンと来るアイテムは登場していた。そして「あの時はこんなことになるなんて思いもしなかった」というモノローグから、「せめて自分たちの出来ることをしよう」というメッセージで締めくくられている。4コマ作品は時事を扱うのが基本にあるものの、まず発行月が現実より1月前であり、先渡しで描いている漫画家はさらに数ヶ月前に旬を先取りする。まさに本人の本作品で「クリスマスにバレンタインモチーフのイラストを描く」なんてネタがあった。だからおそらく構想済みであったろう今回の話は中抜きするなりしてラストに後日談を挿入したと思われる。そんな訳でちょっと、唐突に見えた展開ではあったが正直ジンと、きた。次に今月売りの佐藤ゆうこ『嫁の名はキリコ』(タウン)。同じくラストに衝撃を受けるシーンが登場するが、こちらはどうやら後半を書き換えたものと思われる。しかしそんな主人公に、普段は冴えない旦那が優しくも力強い励ましをくれるオチが、綺麗に本作の本来の筋、妊娠が分かった嫁を労わる夫という回に治まった感じ。
語ることが非常に難しい出来事であるし、そもそもモチーフに無い時事ネタを無理やり取り込む必要は全く無いものの、ともかくも触れてくれた両者には感謝の気持ちしか浮かばない。

-REVIEW-
小池定路
第一印象でピンとくるものがあった。これは間違いなく面白い、と。立ち読みだけでたまたま目に留まり、読んでそう確信出来た。『父とヒゲゴリラと私』(くらぶ)は先日3号連続ゲストの枠で登場し、いわゆる試験作なのだが決して目立つ感じでは無かった。だからこそ、注目していたのだ。これもまた、震災のせいで..と言ってしまうのは、ゲスト登場に引き続いてすでに本連載となっており、紹介が一歩後手に回ってしまったこと。久しぶりに青田買いが出来たと思ったのに。でもまあ、作者のHPを拝見したところ、すでに昨年秋には「まんがタイムラブリー」(芳文社)の方でゲスト登場していたそうなので結局のところは「たまたま」の域を出ていない模様。
ともかく、本作は幼女と父とその実弟という、ちょっと妙な3人暮らしを描いているだけの、一見ごくフツーのファミリーもの。母親を交通事故で亡くし、父娘で在宅勤務の弟宅へ居候しているのだが、この幼児がヒゲのオッサン(弟)に「なつかない」。といって脅えているわけではなく、家事全般不得手である父(と、亡き母も)と対比してソツなくこなす叔父をライバル視しているのである。この設定の説得力が作品の完成度を示していると思う。絵柄も流行りのでなく、どちらかと言えば地味、でもヘタウマでなく、面白いんだけどギャグではない。平凡のようで凡じゃない、実に不思議な味わいを持った作風とストーリーである。
作者はゲーム会社に所属する絵描きさんで、漫画の仕事も会社を通して受けるというこちらも一風変わったスタイル。4コマに是非やり甲斐を感じてもらいたいところ。


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