新・現在4コマ漫画レビュー 第13回

(初出:第158号 10.6.20)


-TOPIC-
昨年の推測通りと言っては手前味噌ながら、今年の芳文社の新人賞改め植田まさし賞はやっぱり..といった感がある。地味だが骨太というよりは、大将のお眼鏡に適っただけ、の作風が上位を占めてしまった。別に投稿者がそれを意識したわけではないから失礼極まりない話ではあるが、主流からは完全に外れてしまっているのは否めない。新人賞の意義は明日の4コマを担う逸材を発掘という主旨ではないということになるか。各誌のステップアップ登用者にそれは託されており、新人賞はゼロからのスタート者を後押ししてあげるだけの単なるワンステップに過ぎない。それなのに毎年「まんがタイム」各誌に結果が発表され、講評が付く。まだ数年の試みながら早くも形骸化というイメージがちらついて仕方ない。無論、受賞者の今後の活躍については期待するところであるけれど。
形骸化と言えば竹書房の方がより強い感じ。Y−1グランプリは2年連続大賞該当無し。月間の各受賞者の中からデビューは続々生まれているのだけれど..。1回目の伊藤黒介の当たりを踏まえて二兎目を追っているのだろうか。しかし一体そこまでの権威付けは必要なのか、はなはだ疑問である。グランプリ覇者と言われてどこの4コマ読者が目の色を変えて喰い付くのだろう。発表を、イベント形式でやっていたと記憶しているが、大賞いませんで何の反応が得られるというのか??
同人で人気実力実証済みのセミプロを即戦力としてヒット作を生み出している構図が現在の状況なのだから、掲載前の金の卵にこだわらず、賞とか年度代表とかはそういうところから出した方が良いと思うのだが。漫画賞をビジネスライクに捉える姿勢を良しとしない歴史は、4コマには無かったはずである。時流に乗り続けて発展してきたジャンルだ。現状をきちんと分析し、世間の注目を集める盛り上がりを見せる新人賞レースのあり方を考えて頂きたい。

-PICK UP-
のっけから毒吐きまくりだったが、このところ本当に、4コマ誌が楽しくて仕方ない。読み出した作品がまた徐々に増えつつあるし、改めて面白いなと感心し直すのもしばしば。
例えば宮原るり『恋愛ラボ』(ホーム)は少年少女漫画の王道的展開で新章に突入している。ライバルが仲間となって核心に迫っていくのが少年漫画のヒット要素。これを恋愛の図式に直すと少女漫画の王道となる。本作もこの流れでもって、問題を次々と解決していきつつ、いよいよ恋愛実践編に近づいてきた。作者は当初主人公2人の性格設定しかしておらず、ストーリー構成など考えていなかったようだ(むんことの対談、芳文社WEB企画より)が、同じ図式、関係性に留まることなく変化させていく姿勢はストーリー4コマの描き手といって差し支えないレベルに達している。今後個々の恋愛においてドラマティックに進行し得る伏線も張られており、くれぐれも「彼女たちの青春はこれから!」といったところで止まる着地(ラスト)にはならないで欲しいと。それは早すぎる心配。
読んで色々と考えさせられる作品と言うのは、やっぱり良作なのではなかろうか。伊藤黒介『イブ愛してる』(MOMO)は何ちゃってではない悪魔(淫魔)が契約を交わすために選んだイイ男が同性愛者でさっぱり誘惑に乗らず..という、神話を現代に持ってきたらコメディになっちゃいましたと確信犯で狙っている作品。本格派というか、4コマらしからぬジャンルを開拓しようとするとどうしても肩肘張って読者を置いてけぼりにしてしまいがちだが、笑いに上手く包み込んだ上で、出してくる知識見解に、感心したり反発したりしてしまうのはペースにはめられた証拠といえる。まだ有無なく圧倒されてしまうような世界観ではないものの、新たな4コマ読者をも獲得出来うる可能性があることは間違いない。
どこから読んでもどこで止めても構わない4コマにあって、続き(次号)が気になるというのはつまり、ストーリー4コマの要素となる。残念ながらクライマックスに向けての場合がほとんどの中、後藤羽矢子『シスコなふたり』(タウン)はギリギリの線で保ってきた三角関係が一気に傾きそうな展開になってきた。二人の秘められた関係を打ち明けることになるのか、それともごまかして過ぎてしまうのか、それは来月になってみないと分からない。泥沼になるほどこんがらがっていないのがちょっと物足りないところなのだが、それでもまた一つ、本作は楽しみな修羅場を迎えることになった。
そして悲喜こもごも。芳文社で連載を持っていた、しまこ美季が竹書房Y−1グランプリの月間賞で佳作に入っていた。デビューしていても実績が伴っていない(単行本未刊)と、掲載を目指して一からの出直しとなる、厳しい世界である。他方同様に単行本未刊で連載が終了した夢枕人しょーが、枕辺しょーまと改名して「ジャンボ」誌にゲスト登場(『さくらいろスナップ!』)。順当に3ヶ月連続掲載にランクアップ。いずれも一作でつまずかずに階段を昇っていってもらいたい。

-REVIEW-
水谷フーカ
先日水谷ゆたかを紹介したときに、同じ「ファミリー」誌で連載が始まっていて、同じ水谷..ということで気になっていたのだが、面白ければいずれ、とスルーしていた。気がつけば『うのはな3姉妹』(ファミリー、ホーム)は「ホーム」誌でも掲載することになり(こちらは隔月)、巻頭カラーを務めるほどに人気沸騰中。豆腐屋の3姉妹を主人公にしたホームコメディは、今や懐かしめの王道、黄金率なキャラクター設定のトリオ立てになっている。
作者はストーリー漫画を描いていた時期が長いようで、他方イラストレーターとしての顔も持つ。どのような関わりで4コマ誌に登場したのかはちょっと不明だが、パッと見栄えのする絵柄といい作風といい、近い将来4コマの顔と呼ばれることになりそうな、大いに楽しみな大器と言えそうだ。

ひらふみ
同人界での実績を踏まえ、即戦力で登場する一人である作者は数年前から4コマ誌に登場しているが、なかなかロングランに恵まれていない。『つくねちゃん+30』(くらオリ)がようやく連載1年を越えそうな辺り。そんな中での新作『でり研』(ジャンボ)もまだ始まったばかりで、ちょっと方向性のブレた回があったりして未知数ではある。しかし女性だらけの大学サークルの中で唯一の男性が、ド素人なのに食通のお嬢様を唸らせる腕前を持つという非人間的キャラクターで女性関係もこなれているのかと思いきや。主人公の女の子とひょんなことからお互い初のデートをする、なんて妙な展開になってきて目が離せない状態に。
絵柄やキャラ立てが及第点なら、次の課題は展開の付け方になるか。一歩、踏み出した感がありヒット作となるか注目したいところ。


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