新・現在4コマ漫画レビュー 第6回

(初出:第145号 09.5.20)


-TOPIC-
芳文社の第3回「新人4コマ大賞」が発表された。残念ながら初めて大賞が該当なしとなったのは、前回の反省を活かしてのことだろうか(第3回記事参照)。続いて発表された、竹書房の新人賞第2回「Y−1グランプリ」も今回は大賞=グランプリ該当作無しであったから、芳文社だけを特筆するのはちょっと毒だが、各賞受賞作に対して今までは「まんがタイム〜連載決定」としてあったのが「まんがタイム〜掲載権獲得」と微妙なニュアンスに格下げとなった辺りも踏まえると事実であると言えよう。
しかしここで評価されなくとも、相変わらず各誌独自の選考会から続々とデビューは果たされている。新人賞に応募することで、それらチャレンジ企画に参加する道も生まれてくるので投稿者にとっては損の無い取っ掛かりでは依然あるものの..。読者の評価を直接受けずして決まるというこの新人賞は一体、読者にとって魅力ある企画なのだろうか、少し疑問が出て来た。
次回からは「新人賞」の冠はそのままに、大賞は「植田まさし賞」と名付けられた。その意図するところが、時流に流されない(読者の受けのみにこだわらない)、良質の4コマ作品を提供してくれる可能性を秘めた新人を発掘することである、というなら、その意思を明確に(選考結果に)出して欲しいし、副賞たる掲載権とやらがどの程度の押し出し方なのか、その如何によっては大御所のお眼鏡に適った作品のみが取り上げられるという、はなはだ形骸的なものとして写ることになる。
一方で、おそらく同人界で確固たる支持を得てきた無名の実力者を登場即連載の待遇で迎え入れているビジュアル系4コマ誌を抱え、未知の新人には通例通り読者の支持=ステップアップ方式でデビューとなる採用基準を用いている。これらと矛盾した本賞の意義を、今一度確認させてもらいたいところ。
ついでにもう一言。以前触れた「まんがタイムカプセル」なるオンデマンド形式の単行本が、驚いたことに第2期刊行。しかしその注目のラインナップは..やっぱり既存単行本ありの作品から。未収録分がおまけとして付くのは良いとして、続刊してきちんとパーフェクト版となるのだろうか。そうなれば手に入れたい作品が2、3あるものの..。どうもそこまで好評を得る企画とは思えず。何より、埋もれたままの名作に再び日の目をというなら他にもっと、「新たに」刊行して然るべき作品がたくさんあるはずだ(何度でもこれは言う)。

-PICK UP-
昨年末、突然全連載が休載となり、復帰するのかすら分からなかった井上トモコの諸作品が目出度く各誌にて連載再開。やきもきしたのは理由が述べられていなかったからで、復帰後も作者本人の近況コメントが載る形式ではない4コマ誌ばかり(芳文社系列はほとんどそう)で、経緯は明かされず。
そこでネットで調べてみたところ、本人のブログにて、いわく「(掲載誌の)欄外にある通り、産休に入ります(11〜12月記事)」とのこと。あれ?ということは休載を知らせた時点ですでに理由は明らかにされていたと。掲載誌の情報伝達不足を、我々読者は自分の手で補わなければならないのか!という話にしようかと思っていたら、どうもそうではなかったようで..。しかもそもそも、それほどに心配ならすぐに調べて然るべきで、そうすればあのように「復帰を願う」など記す必要も無かった訳で..。反省しきり。
気を取り直して。何事も無かったように(当然ながら..)再開された諸作品を読んで改めて、アットホームものの底力を感じてしまう。ちょっと几帳面な夫に、少し要領のいい妻のコンビ『明るい夫婦計画』(タイオリ、ホーム)で描かれているのは日常に起こりうる、クスッとするだけのささいな話題。これが読めなくなった途端に取り乱すほどのコメントを書いてしまったのでアル。心から、復帰を祝したい。

-REVIEW-
今回は芳文社バッシングと取られても仕方のない内容ばかりだったので、せめてもの罪滅ぼしに「まんがタイム」系列からのご紹介。何のかんの言いつつ熟読しています、芳文社の4コマ誌。ということで皆さまにも注目して頂きたく。

神戸ゆう
もう10年選手と言っていい、ひそかなベテランは別名義で描いていた頃はなかなか芽が出ない状況だった。前作の主人公であるサッカー少年を、温泉旅館の跡取り息子だったとして主人公を変えずに始まった『旅館府和屋四代目!』(ジャンボ、ラブリー、終了?)の途中で改名してから、本作は長期連載に加えとうとう単行本化までされる人気作に。改名が効を奏した、いやいやそうではない。本作からは目の離せないヒットキャラクターが生まれている。典型的に間違った日本通であるアメリカ人の父に連れられてきた金髪(おそらく..)の美少女が、この旅館を気に入って滞在することになる。この異国人の目を通して日本旅館の日常が描かれるようになって、安定した人気が得られるようになったわけだ。ただ、もう一つウンチクが足りない。人情話もコメディ要素も多分に含まれているのだが、例えば久保田順子の京都を舞台にした作品連のような、突っ込んだ取材が出来ていないような気がする。単なるコメディで終わるか、ルポもの(職業もの)の要素も加味できるか、その辺りが実力作となるかの分かれ目と思われる。最後辛口になってしまったのは、改めて掲載誌を確認したら載っていなかったから。終わってしまったの?だとしたら、次回作にこそもう一押し出来る要素を求む。

浦地コナツ
前作「ももこんティーチャ−」(芳文社刊)が、連載を獲得し単行本化という結果を出せたものの、新作はゲスト登場までと苦しい時期が続く。母息子の二人暮しを描いた『ムスコン!』(タイオリ、ゲスト)もなかなか本連載へと至らない。先日載った試験作『Papaっとパパ』(ファミリー3月号)は父娘の二人暮し..やや、設定に平凡さがあるか。「ももこん〜」の面白さは男勝りな体育会系家庭教師の主人公と、魔女っ子アニメ好きヘタレメガネくんのやり取りにあった。オタク的な部分では時に先生をも凌駕する根性を見せ付けたりと、ハイテンションコメディらしい逆転劇も変化球として十分に効果的であった。新作はどうもこの辺りの、主人公足り得る資質が見えてこないような気がする。繰り返すようだが設定が凡の域を出ない。奇しくも当号、次に載ったのは順調に試験作から本連載へと移行した、矢直ちなみ「一緒にかえろう」。これもキャラクター設定は明るい元気娘と気後れがちの美少女の取り合わせで平凡といえる。しかし彼女たちには幼少時の初恋誤解話という背景がある。高校で再会して..から物語は始まっているのだが、単なる学園コメディとは、この一点で括れない魅力が付いているのである。比べる話ではないとはいえ、エピソードの積み重ねが昨今4コマの本流であるから、ストーリー性はどうしても不可欠なところ。コメディ要素はすでに十分持ち合わせている。背後に見え隠れする、読みたいと思ってしまうような設定が加われば大躍進も間近と言えるだろう。


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