新・現在4コマ漫画レビュー 第5回

(初出:第144号 09.5.10)


-TOPIC-
こだま学の『えきすとら以蔵』(芳文社)が4/7に単行本になった。この事を何故特筆するのかというと、本レビューの第一シリーズですでに取り上げているので、少なくともリストアップの済んでいた、02年末には始まっていた作品だから。
当初は不定期掲載だったとはいえ6年以上を経た作品が、遂に単行本化された。出版社側がようやく形に残すという作業に意欲的になってきたかと喜びたく、ここが歴史の転換点と言い切ってしまいたいところなのだが。
こだま学と言えば、他の作品はほぼ単行本になっている人気漫画家。そして本作は長編の現役作。単純に、今までは作者の意向もあって単行本にならなかっただけとも言えるし(その辺りは後書きで綴られているか)、年初にもチラと触れた通り相変わらず未刊のまま、終了してしまった作品がこの年(度)末も見られたから、いずれにせよハードルはまだ高いまま、と写る。
先頃OVA化もされたsaxyun『ゆるめいつ』(竹書房)の第1巻は、業界では異例の10万部を超える大セールスであるという。裏を返せば10万で大騒ぎなのだから、通常のヒット作でせいぜい数万、キリは千部単位の売れ行きでしか無いのだろう。週刊漫画作品などに比べれば、確かに差がある。
しかしマスとしては、相変わらず4コマ専門誌は月間20冊を越える発刊ペースであり、投稿系など枝葉もかなり広がり隆盛である、と言える。何度でも言う、2〜3話で打ち切られた試験作ならともかく、2年以上連載されていた作品なら分量は申し分無いであろう。たとえたとえ3ケタの部数しか売り上げが見込めないとしても..無謀を承知、赤字覚悟でまとめてもらいたい。冊子掲載だけではどうしても「読み捨て」の慣習から脱することは出来まい。記憶だけでなく、記録に残すことは出版社の文化的責務ではなかろうか。

-PICK UP-
本シリーズで良く使う単語について、ちょっと説明してみると。「ストーリー4コマ」というのは「展開が劇的で、一連のストーリー性がある4コマ作品」となる。つまり何回か、読み逃すと話についていけないことがある。現在の一般的な4コマはこれとはちょっと違い、「各回(話)毎にストーリーがあり、エピソードが積み重なっていく」タイプ。読み逃しても支障は無いが、例えば季節ネタで昨年使われたエピソードが前フリになっていたりすると分からない場合がある、と。また別に、どこで読んでもどこで途切れても何ら問題ない4コマもある。一時代を築いた「ギャグ4コマ」の典型である。決められているのはキャラクターの設定のみ、一本一本のオチが読みどころの4コマはしかし、今ではあまり隆盛でない。そんな中、意外や売れっ子がこのタイプの描き手であることに気付いた。
小坂俊史の諸作品は、若干ストーリー性を含んだものもあるが、ほとんどが単発ネタで占められている。例えば『やまいだれ』(くらオリ)は世相を反映させた奇想天外な症例を次々と出していく、まさにアイデア一本の作品だし、代表作の長編『せんせいになれません』(くらぶ)も、2〜3本が連関していたりするも、一話を通しての繋がりはほとんど見られない。
ただつまり、いつ読んでも楽しめるわけで、立ち読みで済ませてしまう時にパラパラッと飛ばしてしまうことも少なくない..。近年は何となくマンネリも感じてしまっていて、やや遠ざかっていた作者の一人だったのだが。
近作『中央モノローグ線』(ライオリ)は読み飛ばせない作品となっている。都心を横切る中央線の代表的な各駅にイメージを象徴する、住んでいそうな女性キャラクターを配し、彼女たちの日々の気付きをネタにした、ギャグではなくタイトル通り各々のモノローグ(独白)で微苦笑を誘う、ちょっと珍しいテイストの作品。都会の若者の、理想や夢と現実の狭間で漂う日常活写というのは80年代までのストーリー漫画で良く取り上げられた題材で、個人的に大好物。それが今、4コマで繰り広げられていることに時代の移り変わりを感じつつ。手詰まりになることなく次々とネタを提供してくれる作者の力量を存分に享受している。間もなく単行本化もされるはず、である。

-REVIEW-
結城心一
書店でしかお目にかかれない、一迅社の4コマ誌「まんがぱれっと」を、どうしても継続して読むことが出来ないのは自分の熱意不足。置いといて。創刊時から注目していて、ようやく単行本でまとめて読むことが出来た『ちろちゃん』(ぱれっと)をご紹介。本作の前身として「まとちゃん」(一迅社刊)という作品があり、虫好きの女の子(小学生)が主人公だった。続編たる本作は転校生がやってくるところから始まる。気の強い、権力欲の強いこの新たな主人公、実は虫が苦手(というより怖い)で、早々に前作の主人公と因縁浅からぬ出会いをしてしまう。リーダーシップを発揮したいものの、結局この弱点がネックになって、いいように振り回されてしまうのが見所になる。前作は萌えジャンルであるいわゆる「妹本」に掲載され、少女と虫というマニアックな取り合わせで奇妙なSFギャグを展開させていたが、本作はツンデレ要素を付加してややコメディ寄りになった。より4コマらしくなったと言い換えても良いのだが、個人的には吾妻ひでおの系譜につながる、SFギャグの非日常世界をもっと出してもらいたかったりする。
以下余談。作者は同社のファンタジー誌でストーリーものも手がけている。そして実妹も漫画家で、同じ漫画誌に連載している。武梨えり..どこかで聞いたような、と喉まで出かかって引っかかっていたのがようやく思い出した。「かんなぎ」という作品が、昨年アニメ化され、その作品舞台は仙台〜塩釜の各所をロケーションしてあって前号「らきすた」現象の宮城版と、話題になっていたのだ。調べてみたら案の定、彼等兄妹、宮城出身の漫画家であった。末永い活躍を祈って止まない。

夢枕人しょー
ジャンルが違うものの、久しぶりに地元漫画家を紹介したので、続けてしまう。
郷土愛というか、ご当地ラブは結構な需要が見込めると思うので、折りあれば公表して頂きたいところ。作者に関しては昨年秋の掲載誌企画、おすすめ旅行編で近郊の温泉を紹介していたので「おや?」と注目し、読み出した次第。作者は出身地であるかは定かでないものの、大学時代から在仙している漫画家フレッシャー。『ふぁみにゅ?』(ホーム)は住人同士が擬似家族を構成すると、家賃が格安になるという寮に暮らす、何とも奇妙な設定の学園?コメディ。高校生の男女が一つ屋根の下、両親息子の設定で何のトラブルも無く住むという、正直漫画世界でしかあり得ない状況ではあるが、昨今流行りのゆるめのキャラで違和感無く展開されている。
ところで実に最近まで、作者のペンネームは読めなかった。「ゆめまくらーしょー」と読む。「ゆめまくら」は作者が抱き枕を愛用していることから当初「抱枕〜」としようとして、さすがに恥ずかしく「夢枕」と。「らー」は英語の「〜する人」の接尾語「-er」。そして「しょー」は「show」であると。由来を知れば納得出来るものの、読みの難しいペンネームはそれだけでハードルが一つ上がるような気がする。現に私は同郷ということを知って初めて読み始めた訳で..。是非名前負けせずに大ヒットを飛ばして欲しい。


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