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年始に複数の新聞のコラムで取り上げられたのは、アニメ作品「らき・すた」の経済効果。キャラクターの家に設定された実在の神社がファンの「詣で」ブームにより、参拝客の驚異的な伸びを見せたという。この作品、原作は4コマである。美水かがみ『らき・すた-Lucky
Star-』(角川書店)は、2004年に開始されている。で、数年前にアニメ化され、昨年社会現象として取り上げられるまでになった。
やっかみを言いたくはないけれど、同時期すでに4コマ専門誌でもアニメ化に足る作品は数多存在していた。ブレイク要因がメディアミックスにあって、そこはお家芸の角川、いかに3強といえどメガヒットを生み出すにはまだ経験値が足りぬ、ということも分かっている。しかし..トレンドを掴んでいるはずなのに、一向にメジャー視されない現状を、少々歯がゆく思う。
もっとも時を経て、すでにアニメ化を果たした作品は幾つもある。先日久しぶりに訪れて気付いたのだが、今や隆盛を誇るアニメ専門店(駅前には書店よりも多くある!)にも4コマ専門誌の単行本が並ぶようになっていた。それは画期的であり、確実にシェアが伸びている証左。喜ばしいことなれど、メインコーナーにどーんと据えられるにはまだ遠い感じ。まして、新聞にまで取り上げられるような事態になるには..。
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UP-
出版社の、ビジネスとしてもそれを望むのは当然。しかし金の卵がニワトリになる前に、飛び出してしまっては水の泡である。この貴重な人材流出、不幸な事に過去事例がある。
「らき・すた」より早い(別に目の敵にしておるのではないヨ)、03年ごろビジュアル系の看板を背負っていたのは、海藍の『トリコロ』(芳文社)であった。最近読み返しているのだが、未だに作者が4コマ誌生え抜きというのが信じ難い。純然たるアニメ絵といっていい、カラー画の映える作風である。母娘二人で住む一軒家に、地方の知人の娘二人が居候することになり、同級生が3人いる暮らしが始まった。ということでトリコロール=トリコロ、なわけだが「きらら」誌発刊時からもう一人、両親が留守がちで家庭料理(家族愛)に飢えていたクールビューティーが加わる。結局全盛期は、この「4人」の日常が描かれた。タイトルとの矛盾は、本作がオチまできっちり想定して始まったわけではないことを示している。つまりは試験作が異例の大出世を果たしたと言える。(注1)
それが災いしたと言っていいだろう、メディアミックス戦略の先鋒として八面六臂の活動を余儀無くされ(注2)、最終的には目次差し換えの間に合わない休載や次号予告に載るも掲載されず、で表紙絵だけが載り、ようやく復活するも最後は傑作選と称したダイジェスト版再録を経て、中断のまま消えてしまった。ところが。本作は何と「電撃大王」誌(メディアワークス)に移籍したのだ。『トリコロMW-1056』と題された(内容的にではない)続編は、しかし作者病気療養につき再度の長期中断となっている。単行本も昨年出されたものの、ほぼ半分は「きらら」「キャラット」掲載分である(あるいは再録されたのだろうか?未確認)。
電撃大王と言えばかつて業界を騒然とさせた話題作『あずまんが大王』(あずまきよひこ)を送りだした漫画誌で、アニメ化もされている。もし、「トリコロ」がアニメ化されていたら..。ビジュアル系黎明期に起こった、これは三方悪しの不幸な事例であるが、金の卵がゴロゴロ転がっているのが今の4コマ(専門誌)界である。何とか、ヒットメーカーを「慎重に育て上げて」欲しいものだと、今や収集範囲の限られてしまっている海藍の作品を読んで複雑な思いを抱く。(注3)
(注1)連載が長くなるにつれてメインキャラクターが増えていくのは寧ろ当然のこと。本作の場合はたまたまタイトルが3にちなんでいるので、当初は3人がメインであったことが明白になっているだけでそれが弊害であるわけでは決してない。
(注2)ビジュアルファンブック(イラスト集)、スペシャル仕様の単行本(たしか予約のみの限定版)などが相次いで出されたから描き下ろしは相当数に上ったであろう。イメージアルバムに至ってはミニドラマの脚本まで当人が担当していたようだ。
(注3)「MW-1056」の限定版に、商業誌掲載作(で、単行本未収録のもの)のほぼ全てが収録されたブ厚いおまけ本が付いているそう。これを入手すれば個人的には読了したことになるか(蛇足)。
-REVIEW-
さて久しぶりにビジュアル系括りで語らせてもらった回なので、新紹介もそちらから。
以前は魔王陛下という名前で描いていたように記憶しているが、読み出したのは最近。そしてその頃には異識という名前に変わっていた。どちらにせよ珍妙なペンネームではある。『あっちこっち』(きらら)は、男女入り交じった仲良し5人組の学生生活を綴った学園もの。引っ掛かった理由は珍しく非人間的に完璧な男性キャラがいたから。ビジュアル系において男性キャラは「そもそも登場しない」「特徴が無い」「ヘタレである」とサブキャラクター以下の地位に甘んじているので、男性キャラが目立つ作品は自然浮き上がってくる。常に冷静沈着なその男、精神が異様に強い。つまり女性が震え上がって喜ぶような言動を全く臆することなく行ってしまう。結果仲間の中で一番ツンツンしている女の子が真っ赤になりながらすり寄ってしまうのだ。
内容的にはだから甘〜いラブコメディである。本作を読むと極めて勝手ながらかつて単行本化されず終了してしまった、くがみそら『ヒメぷりハニイ』(紹介済み)を思い出す。両者に失礼ではあるが足りなかった部分が本作にはある。「強い、優しい」男性キャラの天然な殺し文句(行動)、それに対する周囲のツッコミ。これらは共通している。だがしかし、それに照れる相手がいなかった。天然受けで返していて、コメディとしては成立していたものの、ラブ要素が欠けていたのではなかったか。ここが分かれ目か、本作はドラマCDも発売される模様(最新情報)。