-TOPIC-
往昔の未刊作品を何とか形にと、一貫して言ってきたがどうも難しいようだ。
芳文社で始まった「まんがタイムカプセル」なる、オンデマンド方式のコミックス。「名作が帰ってきた」と謳い、FAXやネットからの注文に応じて製本→お届けとなるこの単行本、未収録分に作者コメント入りの完全版仕様だがラインナップが今ひとつ。たしかに懐かしいものもあるものの、全て長編看板作である。そして連載中のものも含まれている。軌道に乗って採用範囲が拡がれば、せめて人気作家の未刊作品辺り..と想像してみたけれど、送料込みで千円を超える代物に、果たしてどれほどの食いつきがあるだろうか(ちょっと毒)。同じ方式で出されるストーリー漫画の方は、最初からマニアックなラインナップなのに..。
竹書房でも新たな試み、「傑作4コマ電子配信」がスタート。1冊100円でダウンロードするレンタル(というからおそらく期限付きなのだろう)電子コミックとの事だがこちらもラインナップは全て既刊の単行本からとなっている。
例えば増刊あるいはDVDなど、廉価版の雑集で良いから2年3作とある程度の分量を描いた作者を改めて取り上げて欲しいのだが..。まだまだ、4コマはマスとしては小さく、数少ない愛読者の懐古趣味は商業ベースに乗せられるものではない、ということなのだろうか。年初から何だか打ちのめされてしまった感。嗚呼、そしてまた一つ、未刊のままで作品が終わっていく..。
-PICK UP-
前号からの続き。近年惰性といっては失礼だが、特に注目し続けるでもなく漫然と読んでいた作品が、恋愛要素を前面に押し出してきたことで俄然、読み込むようになっている。今回はそんな作品をお勧めする。
佐藤両々の作品では、最近『こうかふこうか』(くらオリ)に釘付けである。意外な三角関係に発展してしまい、すでに単なるコメディとしての糸は断ち切られている。この流れから、さあどうオチが付けられるのかと興味津々である。エンディングに向かわず、さらに二転三転..と転がるようなら間違い無くストーリー4コマの称号が与えられよう。
桑原ひひひの学園コメディ、『きつねさんに化かされたい!』(きらら)もこのところ恋バナづいている。初期の常連たちはすでに卒業して、保健室を訪れるのもマレだったのだが、恋愛相談という武器を引っさげて返り咲いた。あくまで傍役たちの、決して本筋ではないはずの恋愛談義、なかなか新鮮である。
森島明子の『お江戸とてシャン』(ホーム)は、単に時代ものの設定が珍しいだけの初恋物語と考えていたら大間違いであった。告白は済んでいる、でも結論は出されていない。その前に、聞かせたいエピソードがあるから。今はまだ半歩先の、大人たちが若かった頃の恋物語がじっくりと描かれている。
最後は樹るう『そんな2人のMYホーム』(タウン)。永らく続いてきた幼馴染みとの因縁話が急展開しそうな予感。しっかりと?張られた伏線が徐々に効果を発揮しだしている。残念ながら完結したとして、単行本でじっくり読み返したい作品となることは間違いなし。
基本軸コメディで、恋愛要素は付加価値とばかり考えていたら、色々な角度から語られることが多くなってきた。ストーリー系4コマの未来は明るい。
-REVIEW-
伊藤黒介
竹書房主催の年間新人賞、Y−1グランプリ栄えある第1回チャンピオンである。
話はいきなり逸れるが以前、作者と袖山リキを読み比べると竹書房と芳文社の戦略の違いが分かると書いた。いい機会なので詳述しておくと。両社の誌名から推し量れるのが、ジャンル分けの有無。「ファミリー」「ラブリー」と、向けの強調される芳文社に対し、全てオールジャンルなのが竹書房(唯一「MOMO」誌が「今後」ビジュアル系に特化されていく模様)。そして新人採用に、芳文社は年間新人賞の他、色々な独自選考を実施している。もっとも年間新人賞はこれら全てから、決められるのだが。竹書房はWEB4コマ(ライブドア・デイリー4コマ)での新人賞を併せ持つ。ここから分かるのは、芳文社は手堅い人材を、竹書房は革新的な異才を、それぞれ「年間新人賞」では求めているということ。第1回の受賞者に、まさしくそれが表れていると思う。つまり芳文社の新人賞は万人受けの描き手が受賞対象となるべきで、ちょっと気になっていたのが第2回の大賞受賞作が連載に至らなかったこと。特徴ある作品を選んだなあと、思っていたので結果論だが悪い予感が当たった感じ。どうやらこの方はストーリーもので今後活躍していくらしい。決して芳文社は保守的でないと駄目、というのではないが(3強で、現在一番守りに入っているのは双葉社であろう。蛇足&失礼)、アクの強い作風を上手く取り込むのは竹書房に一日の長がある、と見ている。芳文社の場合はジャンル分けが逆にネックになっていると思われる節がある。
ようやく作者に話は戻る。単純な第一印象で、絵柄が個性的、と誰もが思うだろう。小学生とペットの面白おかしい日々の戯れを描いた、(犬が人語を解すなど)ギャグに近い内容で、絵柄共々マニアックな作風と言えなくも無い。しかし本連載にあたって、親しみやすいデフォルメを随所に入れる工夫がされてある(デイリー4コマで発表された方が本来に近い絵柄だそう)。これによって『ベルとふたりで』(ライオリ、くらオリ)は軌道に乗った、と考える。実力があっても芽が出ない場合と、ほんの少しの差。これを会得している作者は今後存分にその力量を振ってくれるだろう。芳文社にも早速ゲスト登場を果たしている(「ファミリー」3月号『橘さんのトリセツ』)。