このところ、「作品集」と銘打って未刊で終了した作品がまとめられている。むろん作者は限られているが、それでも一昔前の刊行状況に比べれば雲泥の差、うれしい限りである。前シリーズの100人目で希望として述べた、作品を財産として記録に残す「文化的事業」に各社とも取り組み始めたと言える。同人や習作時代のものまで引っ張ってくる辺りは「商魂」が透けて見えるけれど..。
ともあれ劇的な進化、変化を遂げている4コマ界にあって王道は廃れず。学園、夫婦、ファミリーものと基本形は健在である。今回はそんな中でもよりスタンダードな作風で安定した実力を発揮している方々を紹介する。
久保田順子
ファミリーもので今各誌から引っ張りだこなのが作者。芳文社(まんがタイム系)ではおそらく地元なのだろう京都を舞台にした作品が目立ち、上方生活ルポといった趣の『おこしやす』(ファミリー)や元祖京女?のおばあちゃんとの2人暮しを描く『ひいばぁチャチャチャ!』(ホーム)は長期連載の人気作。対して竹書房(まんがくらぶ系)ではヒネりを入れてド田舎出身のOLが野趣溢れる活躍を見せる『いなかっこ』(くらオリ、終了)や、忙しい母に代わり姉が弟の面倒をみる『13歳のりとるママ』(くらオリ、試験作?)と新機軸を目指す。ネタ的には少々古臭い×→古き良き、といった感じの人情話がメインなのは全ての作品に共通するところ。
作者に代表されるように、芳文社はビジュアル系に手を広げながら一方で王道4コマ路線も確保と各誌ごとにカラーを分けているが、竹書房は既存誌の範疇で今風に染まっていこうとしている。と言っても読者としてはガッツリ自分の好きな世界観だけに浸るも良し、同じ作者の毛色の違った作品を読み比べて楽しむも良しと選択肢が広がっているわけで、どちらが正解という話では無い。
ほへと丸
以前はギャグに近い作品を描いていた記憶がある。家庭科部の真の目的は顧問の先生の花嫁修行?という女子高生をメインに据えた『ヨメけん-お嫁さん研究クラブ-』(ホーム)は今までと違い学園コメディで、作者の意欲作といえる。ベテランらしからぬ(失礼)試みもあり、主役の転校による途中での引退劇というのは4コマでは初めてみる展開ではないだろうか。代わりに登場してきたのがお嬢様キャラと、やや今ドキに迎合している感じに取れなくも無いが、間違い無く作者の代表作となるであろう。路線変更でも得るものは多かった、ということになろうか。むろん私も新たに獲得された読者の一人である。
オザキミカ
食欲魔人のチビ妻と、ヤセでノッポの凸凹夫婦。『だてまき。』(スペシャル)は王道夫婦ものながらストーリー漫画を読んでいるような違和感で登場即注目するようになった不思議な描写力を持っている作品。いや、独特というのではなく、普通、なのだが4コマという均一かつ小さいコマ割りにあって、各自デフォルメを施したり線が細かったりと工夫してみせている中、作者の場合は何故か狭く感じることなく比較的太い線で等身大のようなキャラクターが登場してくるのだ。もちろんバストアップが主体になっているけれど、たまに出て来る全身像にバランスの崩れは無い。前歴にたどり着く事が出来なかったのでハキとは言い兼ねるのだがおそらくストーリー漫画から何の苦労もなく4コマ(サイズ)に移行出来た、これは奇跡的な例といえる。
カタクラユキ
懐かしい「まんがタイムポップ」の頃から様々描いていて、4コマメインで活動しているのだがなかなかなかなかロングヒットに恵まれない作者。父の再婚により有名人に囲まれてしまった平凡な女子高生の贅沢な?苦悩を描いた『ふぁみコン!』(スペシャル、終了)も面白かったのだが..。「ジャンボ」での『まごまごBOOKS』もまた、古書店主の祖父とライトノベル好きの孫娘という違うジャンルの書通同士の関係をうまく血縁に絡めているのに未だゲスト止まり。絵柄、設定とも完成の域に達していると思う。後は表情の付け方と、キャラ立てになるか。
ところで以下蛇足。「まんがタイムジャンボ」誌(芳文社)はゲスト登場や短期集中などが全体の1/3を占め、相変わらずジャンボの名に恥じぬ多彩な連載陣を誇っているのだが、中で強烈に異彩を放っているのが何と巻末目次ページの1本もの。まさにオマケであり、試験作や近況ものがメインなのだが、いつの頃からか本誌ではリレー連載になっていて、しかも登場するのは芳文社とは縁の無い(と思われる)漫画家ばかりの作為なし、完全紹介パターン。これが80〜90年代に活躍した先生方のオンパレードなのである。今は亡き女性漫画誌「ZIPPER
COMIC」(祥伝社で良かった?)で同様のエッセイ漫画のリレー企画があって、心なしラインナップも被っている感じ。懐古と言っては失礼になるが健在ぶりを知る事が出来るのは有難い事限り無し。おそらく今回も単行本化されることはない貴重な企画もの、特に記しておく。
田中なつ
一誌体制に逆戻りしてしまい、9割方紹介が済んでしまっている双葉社の4コマから久々にご紹介。『飼われもの夫婦』(タウン)は猫のような妻と犬のような夫という微笑ましいくらいに平凡な設定の夫婦もの。犬猫に借りた好敵手の関係性はツンデレ要素もあってトレンドと言えるか?とはいえ凡百の域は出ず、しかし王道の安定性は抜群で..と強力にプッシュするようなところは見当たらないと思っていたのだが。最近号で出張から帰ってきた夫に向かい、妻が殊勝に「おふろにする?ごはんにする?」と出迎えて「それとも..それとも..」とあとはひたすら遊ぼうとせがむオチ(あ、ネタバレ失礼)の一本を読んでこの夫婦ものがマンネリに見えて魅力的な理由が分かった気がした。一緒にゲームをして飽きない関係というのは現実世界でも理想ではないだろうか。王道から外れない設定はやはり強い、のである。