先日久しぶりに安田弘之の新刊を発見。新刊と言いつつ昨夏発売のもの、というのはご愛敬。その「気がつけばいつも病み上がり」(秋田書店)は副題が「本当にあった安田の話」ということから分かるように初出は投稿メインの4コマ誌。「チャンピオン」秋田書店が4コマ誌を出しているのにビックリ、というか類似タイトル多過ぎ。とはいえあまりの濫立に十把一絡げにしていた投稿系4コマの底の深さがこれでボンヤリながら計れた。本作はエッセイコミックなので詳述しないが、同シリーズで榎俊もABJも子育てものを発刊している由。やっぱり注目すべきジャンルなのかも知れない。
今回の本題はここではない。御三家以外の進出を近年阻んできた4コマ界にあって、このように牙城を崩した投稿系に続いたのはこれも失速(休刊)が相次いでいたビジュアル系。一迅社の「まんがぱれっと」誌が増刊扱いながら姉妹誌「ぱれっとLite」を3月に創刊。相変わらず芳文社チックな造りには少々困惑するものの、作家陣も新顔が多くなり勢力図に加えて良さそうである。またB4サイズの分厚い4コマ誌、「まんがドカン小町」がメディアックスなる出版社から先日創刊(さくらミステリー増刊)。新条るる『LOVE
ME DO』(芳文社刊)の安物メイドロボが少女漫画版といった別ストーリーで登場というのが個人的には気になる。少女向け4コマ誌は新たなトレンドになるかも知れない。
ただ残念ながら読み慣れていないせいもあって、今年は紹介出来そうにないのだ。昨年の総括と言いながら時代を2、3歩遅れて進行しつつある本シリーズ。今回もまた超のつく人気漫画家を今さらながら紹介致しマス。
かがみふみを
「まんがライフMOMO」誌で当初から連載されていた「ほんわかちづる先生」(竹書房刊)を、読んでいなかった訳では無い。しかし奥手同士の塾講師が生徒達に焚き付けられてというラブコメはあまりに青臭く、正直ラストまでハマれなかった。ところがこれはストーリー漫画になるが、双葉社の出しているファンタジー路線の「コミックハイ!」誌でやっていた「ちまちま」(双葉社刊)を読む機会があって、背の低い女の子とノッポの男の子の初恋話は似たようなテイストだったにも関わらずかなり面白かった。思うに主人公たちが学生なのと、好意を抱くきっかけが良かったのかと。そんな訳で改めて、読みたいんだけど4コマは..と思っていたら程なく新連載が始まった。『アシスタント!!』(タイム)は芳文社への進出作となる。超人気連載を持つ漫画家に、担当の妹がアシスタントに入ることに。技術は拙いけれど、作品に対する愛情は人一倍。それがお互いに内向的な漫画家共々、良い影響を与え合って..という、内容はともかく設定は作者の経験に基づいているそう。好評を得てスピンオフ、作中作品「ローリンすっしー」がキャラクターのペンネームで短期連載までされた。本作はラブ要素はあるものの、一応主人公の成長譚がメインであって作者の新境地と言える。
前作の評判をあまり快く思わず、紹介が遅れてしまったが、すでに4コマ大手を渡り歩いている人気漫画家なのだ。
御方屋はるか
4コマからストーリー誌へビジュアル系戦略を転換したのが吉と出たか、創刊3周年を無事迎えた「コミックハイ!」誌(双葉社)。今は亡き「もえよん」誌から移籍継続して看板となっているのが『ぽてまよ』である。突如冷蔵庫から現れた謎の幼女、その家の主人公がたまたま持っていた「ポテトマヨネーズ(パン)」から「ぽてまよ」と名付けられる..実にユニークな冒頭だったが、さて、今ごろどうなっているのか..残念ながら定期的に追ってはいないので申し訳ないが詳述は避ける。作者はイラストレーターとしても活動。ゲームアンソロジーもこなし、何と成人向けも描いているようだが、絵柄からどうも想像が付きづらい。4コマではその辺を全く感じさせずコメディに徹している。
芳文社へも進出を果たしている。試験作を経て現在連載なのは『はなたま』(ホーム)、隔月連載である。「ホーム」などまんがタイム各誌は作者の活動状況もあるのだろうか、隔月連載を常に抱えているようだ。このパターンで思い出すのは「ヤングマガジン」誌の連載陣、こちらも隔週連載の多い作り。遅筆家が多いというわけではなく、人気作品を数多く抱えようという出版社側の戦略の一つなのかも知れない。さておき。本作も神様を目指し修行中の幼女が主人公のアパートに住み着いて..という内容。いわゆるキャラものが得手なようで、マスコットキャラの天真爛漫な言動に主人公や周りの人間が巻き込まれる様が実に楽しく描かれている。
里好
作者名は、さとよしみ、と読む(蛇足)。
「まんがタイムきらら」系列誌の、今も定期読者ではあるが、近年はさすがに全部読み通すことがなくなってしまった。『うぃずりず』(きらら)は、その「きらら」本誌で連載中なのだが、定期購読していた頃にしっかりと読んだ記憶が無い。しかしすでに単行本は2巻を数える。購読しなくなってからの月日を感じさせる作品である。学園もののトリオ立ての黄金率は進化を遂げ、4人組、5人衆が当り前になっている。無論4コマ作品の王道に変わりは無いわけで、もはや冗談では無く星の数ほどある。中で本作を読み続けることになったのは主人公が金髪ハーフの容姿でありながら祖父譲りの江戸っ子というギャップに萌えた、ということになろうか..。
ところで、芳文社(に限ったことではないが)の販促企画はネットでも盛んに行われている。本作もネット上でうごうご四コマ「もっと!うぃずりず」が配信中である。私の通信環境では1作取るのに何と10分も掛かってしまうのだが、閲覧はスムーズ。滑らかに台詞が浮かび、細やかにキャラが動く。コマ間の「間」も表現されている。フラッシュアニメは元々個人ページでよく見られたが、もはやミニアニメの領域で商業サイトに載っているのもうなずける。4コマを携帯で、というのもここまでやれれば大いに有意義なものとなるはずだ。
榛名まお
ずいぶん前に「ぱわまゆ」(竹書房刊)という作品があって、ビジュアル系の黎明期を支えた漫画家の一人であるのだが、当時はあまり熱心な読者ではなかった。ところが老舗(失礼?)というのは凄いもので、個人的に年々読む作品が少なくなっている「きららMAX」誌(芳文社)においていつの間にか欠かせない一人となっている。『ぐーぱん!』(MAX)は単行本も刊行されている長期連載作品。王道学園コメディで、安定した面白さを供給している。絵柄は今となっては素朴ともいえる太めのタッチ、かつてはチャラ系の典型と思っていたのが時の流れを感じさせる..。
作者はイラストレーターでもあり、同人では主に成人向けを描いているそう。こちらも4コマ作品からは想像がつかなかったが、ページにサンプルがあって一目納得。
鈴城芹
ビジュアル系百花繚乱の現在にあって、気になることが一つ。個々人の知識に拠った設定ばかりで似たようなストーリーが多いということ。本来4コマは日常生活(身近な体験)を活写するのが得手であるからビジュアル系に限った話ではないように思うが、ファミリー向けを除けば一般4コマ誌にはルポもの、職場(職業)ものといった取材が必要な作品が必ず存在している。
なので単に絵柄の好みで選択しなくとも、そういったちょっと珍しいジャンルを設定に加えている作品は数多あるビジュアル系の中で浮き出て見えてくる。『看板娘はさしおさえ』(MAX)は、米問屋の娘だった幽霊と質屋一家の交流がメインだが、質入れされた行李に憑いていたというきっかけだけで質屋の設定にしたご都合主義ではなさそうなのだ。最近の質屋事情といったネタも絡んでおり、タイトルの「さしおさえ」は主人公の名前でもある。つまり質屋を舞台にしたファンタジックホームコメディといった趣き。繰り返すが単に可愛いだけのキャラ押しでは行き詰まりが見えてくる。本作がわざわざ縁遠い業界を取材したという確証はないのだが、現状を打破する画期的な設定といえるのではないだろうか。
最後余談になるが作者のHPは「おじゃ魔女どれみ」のファンページで止まってしまっている。懐かしい!ハナちゃんの壁紙が実にキュート。あれ?絵柄の好みで選択しなくとも..?