続・現在4コマ漫画家レビュー 第16回

(初出:第131号 08.3.20)

さて、今年もまたボチボチ昨年の収穫を..とまとめていたところへニュースが飛び込んで来た。
かつて4コマの代名詞であった森下裕美「ここだけのふたり!!」の復活である。しかも掲載誌は「漫画アクション」(双葉社)。長年に渡り「まんがくらぶ」(竹書房)の顔であった本作がライバル社のしかも一般誌の表紙を唐突に飾っていた(タイトルは「!」が一個減って『ここだけのふたり!』に)。どういう経緯かは知る由も無いが、これで「らしく」なかったラストから続編へとつながった。実に6年ぶりの邂逅である。
それは私が4コマを本格的に語りだした頃と同じ時期になる。あれから早6年、後継は育ち、環境も激変した。作中時間はあまり経っておらず、妻が妊娠というのを新ネタにしている。そしてこれはサービスであろう、旧作では明かされることのなかった2人の名前が登場。往年のファンは掲載誌で確認して欲しい。変わらぬ面白さを保っている。
しかし創刊46年を数える老舗週刊漫画誌は今や隔週刊となっており、残念ながら過去の名作を呼び込んでみても伝統のカミカゼは吹かないのではないかと思われる。皮肉なことに4コマというジャンルでみればこの一般誌、現在一番充実している感じなのだが。相変わらずジャンル毎の戦略がバラバラな双葉社という印象が垣間見える。無論作品自体については前作同様息の長い連載を望む。
そんなわけで隔世の感を強く感じる2007年版4コマ漫画レビュー、始めてまいります。今回はこの前フリを活かすべく、往年の大作を改めて取り上げてみましょう。

愁☆一樹
「まんがタイムきらら」(芳文社)も創刊から6年を数える。すでに連載陣は様変わりしており、安定期を迎えているのだが、黎明期を支えた作品がまだ残っている。『1年777組』がそうだ。学年999クラスあるという超マンモス校にあって、舞台となる777組はとりわけ個性派揃いの問題クラス。まあ幽霊がいて小人がいて、忍者がいて姫がいて..という何でもアリなその実和気あいあいとしたのどかな学園生活ではあるのだが。中で、片思いのきつねの呪いで普段は猫の男の子がいて、猫が大好きな主人公の女の子を好きなのだが、猫の姿では相思相愛なのにその愛の力で人間に戻ると思い伝わらず..というのが中核になっている。
作者はずいぶん昔からその名を知られている(はず)が、おそらく本作が最初の代表作となろう。というのも有名なのは専ら同人界での、だったから。「きらら」シリーズの功績はまさに作者を始めとする著名同人を多数、商業誌での定期連載に引きずり込んだことにある。読者からしてもなかなかお目にかかれない新作をコンビニ、一般書店で即座に入手出来るというのは画期的であったろう。個人的にはあまり興味が無かったので有り難みは感じられなかったが、それでもこうしてかつての知る人ぞ知る存在を身近に読む事が出来るようになったのはタナボタと言える。
そんな歴史的作品「1年777組」が大団円に向かってクライマックスを迎えている(最新情報)。予定調和的な展開でやや物足りなさを感じてしまうのは、今まで時折見せていた主人公の無心な好意の方がキレがあったと思うからである。相手の好意に気付かずにスリ寄っていく辺りが何ともタマらなかったのだが。同い年の兄妹、実は血がつながってなくて..!?というこちらも学園ラブコメディの『兄妹はじめました!』(MAX)も、妹を異性として好きな兄に対してハッキリと身内としての親愛しか示さない妹という関係性がステキなのだ。
「自分も好き」と気付いた瞬間ハッピーエンド、といった簡潔なオチを望むのは、長期連載に対して無体な注文か。ともあれいよいよ大オチを迎える大作、単行本も絶賛発売中であるから今からでも遅くはない、堪能されたし。

ととねみぎ
同じく「きらら」誌において創刊当初、まだ増刊扱いで中綴じだった頃から連載されている作品が『ねこきっさ』。作者もまたメジャーな同人作家である。魔界?の喫茶店を舞台にしたファンタジー色の強いコメディであり、主人公の成長譚も加味されている。
日常を活写するのが王道である4コマにおいて、異世界を日常に落し込み普遍的な笑いに変えるのは同人漫画家の編み出した手法ではないかと思う。つまりその前身にゲームをメインとするパロディがあり、例えばゲーム世界では戦いに明け暮れるキャラクター達を(その特徴は残したまま)現実世界に連れ込み、ギャップで笑いを誘う。このような作品で掴んだノウハウをオリジナルの作品世界で発揮しているのである。今では当り前のようにNOT人間が活躍する4コマ界だが、せいぜいここ10年ほどで一気に定着したジャンルになる。
こちらもロングランとなりつつある『0からはじめましょう』(MAX)も、幽霊が主人公のファンタジー作品。ホラー色は微塵もなく、といって単に奇を衒っただけのキャラクター設定ではない。事故にあって魂だけ抜け出ている状態は、いつか元に戻るという結論を目指していて芯のしっかりした世界観で構成されている。

森ゆきなつ
さらに同時期創刊の「まんがライフMOMO」誌(竹書房)に長期連載されているのが『いんどあHappy』、ゲーム好きの座敷童が主人公のホームコメディである。座敷童が主人公、というのは近年実に良く見るようになり、本作はその先駆けとも言えるのだが、残念ながら当初は全くノーマークであった。というのも「MOMO」誌はそもそも看板たる「せんせいのお時間」(ももせたまみ)が今も健在であり、「きらら」誌と違いまだ「ライフ」傘下にある誌面構成(執筆陣等)なのでどうも新規を開拓する感じではないのだ。個人的には芳文社に進出した近作『(不思議猫)タマさん』(タイム、タイオリ)の、オヤジ口調でしゃべりまくる猫にヤラれて読み返した形。何故しゃべるのか、その辺りは本作においてはさほど重要ではない。ファンタジーというよりギャグだからである。ナンセンスで大いに結構、作者はストーリーものも手掛けるファンタジー系の漫画家だが、ブサイクネコを主人公にしたギャグ漫画の系譜にきっと連なっていくはず。

ともち
今は無きスコラ社の出していた青年向け「コミックバーガー」誌は「コミックバーズ」と名称を変えソニーマガジン→幻冬社へと引き継がれている特異な漫画誌(そういえば「スコラ」自体も復刊している。蛇足)。かつて「バーガー」だった頃の描き手が作者。しかし当時こそショート、4コマがアツい「コミックバーガー」として読んでいた読者だったので、作者のストーリーラブコメディはマトモに読んでおらず。時代変わって4コマメインで漫画を読むようになり、4コマ誌で4コマを描きはじめた作者とようやく巡り合えた次第。
とはいえ(おそらく)ストーリー時代から一貫されている甘〜い関係性はどうにも手が動かず、注目し始めたのは最新作から。『おはよ♪』(タイム)は夫の突然の死にひとまず居候してきた母娘と、若い未亡人に魅かれまくる学生という、何とも成人向けのようなシチュエーションで繰り広げられる健全アットホーム(ラブコメ)。面白いのは小学生なのに大人な身体の娘が道化役で二人をかき回すところで、身体は大人、心は子供のギャップが素直に笑いを誘う。娘の活躍は家に留まらず、学校でもいかんなく発揮されている。間違い無く純真無垢、天真爛漫なキャラクターの完成形といって良いだろう。

有元美保
麻雀誌出身の女性漫画家、というだけでかなり差し引いて見てしまうのは罪である。先人、西原理恵子の存在があまりにも大き過ぎるのだ。作者は安達哲が原作を務めた「ギャル雀」という麻雀ものの異色作で知っていたので割と昔から注目していたのだが、4コマとなっては差別的な物差しで計ってしまっていた。反省。
そんな訳で先日とうとう終わってしまったのだが、『もてもてねーちゃん』(ライフ、終了)は横目でとはいえ一応読んでいた作品であった。誰もが恋慕してしまう絶世の美「少女」が主人公のコメディで、そのモテッぷりがメインのネタだったのだが、根底にはあまりのモテ過ぎで自閉気味の姉に何とか人並みの恋愛を、という主題があり、ラストにきちんと押さえられていたので今さらながら紹介することにした。後半に登場した同じく自分に自信が無くて顔を紙袋に包んだ男とのやり取りは師弟の関係性で時に哲学的でもあり、また明らかにこのキャラクターがオチのカギを握ると分かっていながらあっさりとその後を予見させる程度で締めくくった辺りが好評価。ストーリーものでの少々ドギツい描写が4コマでは見られなかったので結局原作ありきかなと思っていたのだけれど、ノーマルでも充分読みごたえがあった。
単行本(最終3巻)では書き下ろしで完結編が収録されているという。この豪華なオマケとも言うべき書き下ろし追加エピソード、4コマ誌におけるページ数の少なさが生み出して現在かなり頻繁に行われている。単行本化が当り前になった証し、読み捨ての作品=4コマではなくなった証しとして大いに歓迎すべきものであるが..本作においてはどうしようか..個人的には迷っている。
ちなみに古巣の麻雀誌では現在、「雀荘で遭った愉快な人々」(近代麻雀)というルポものと読者投稿半々の作品を連載中。これは1本8コマ進行のものなので詳述は割愛する。



「過去原稿」ページへ戻る

第17回を読む