続・現在4コマ漫画家レビュー 第15回

(初出:第122号 07.6.20)

漫画誌のサイクルは何とはなし年度単位で、新連載を誘水にご新規の対象年齢層を迎え入れる仕組みになっている。4コマ誌も慣例通り大規模な入れ替えが行われた。この春は特に顕著だったように思われ、竹書房4コマの顔であった「ちびとぼく」(私屋カヲル)がその看板を下ろし、ヒット作で固められたような「まんがライフMOMO」誌(竹書房)では1/3ほどが相次いで終了。また芳文社「まんがタイム」シリーズ各誌でも長編作品が続々クライマックスを迎えた。唯一双葉社に動きが無かったのは昨秋既に大幅な改編があったからと思われる。
というわけで総じて一つの時代が終わったと括れるような傾向は見られないのだが、人気作家の続投は変わらぬながら一部後継には新人が起用されている辺り、注目したい。登場即戦力の華々しい新人が多かった頃に比べ、昨今の新顔は少々泥臭い..。もとい、同人界からの青田買いは一段落したようで、気が付くと各(系列)誌独自の新人育成プログラムから登竜門をくぐり抜け、フレッシュな顔の作品が現れ出してきた。

鳴海柚来
芳文社では全誌対象の年間新人賞が新設され、ステップアップ方式の新人登用も復活。「ジャンボ、ラブリー合同新人グランプリ」は競作による読者投票1位を獲得で3ヶ月連続掲載となる。作者の応募作『どこ行く?』(ラブリー)がこの流れに乗って短期集中掲載後、即ゲスト扱いで再登場となり、すでに半年ほど連載されているが今月号からようやく本連載に(最新情報)。
内容は女性3人組によるお気楽キャンパスライフ。前号でも述べたように、いまやトリオはメガネ=キレキャラが本流で、本作も正しくメガネキャラが一番の道化役になっている。なお本連載に先駆けて4人目のメインキャラクターが先月登場。定着すればトリオ立ての法則から発展を見せるわけだが残念、一人がマトモなので亜流止まりか。といってこのキャラを除くとストーリーが無軌道に暴走してしまうわけで..難しいところ。いずれにせよ全員に備わる独特のハイテンションは充分ウリになっている。
グランプリ主宰のもう一方、「ジャンボ」誌でも『みずきちゃん009』という小学生スパイの活躍?を描いたスラップスティックものが始まり、特に初回の、不都合さを徹底的に流して勢いだけで描き切った感じが新人らしく好印象。と思ったら作者同人時代からこの手のヒロイックファンタジーが得手だった模様。初手から全開の実力が見られそうである。

マシュー正木
作者名は「マシュー麻咲」から改められた(最新情報)。掲載誌を見ると作者も上記「新人グランプリ」出身なのかも知れない。残念ながらノーマークで連載もだいぶたってから注目するようになった。『こどもブロッサム』(ラブリー、ジャンボ)は当初個性派揃いの小学生たちと、翻弄される担任の日々を綴ったごく一般的な学園コメディであったのだが、この担任を慕って自身も教師を目指しやってきた優男(元はデヴ)の登場から魅力満開。元々担任には片思いの同僚がいて、恋愛要素も含まれていたのだが基本的にはギャグ仕様の扱いで主題ではなかった。ところがこの後輩の思いは一途でしかも説得力がある。担任としては嫌いになる方が難しい。まあ若者らしく馬鹿の付く陽気さで頼り無さは充分マイナス要因になるのだが。逆に生徒たちの目線に近く、担任が教えられることもしばしば。とまあ、この男の登場から恋愛もコメディも、全ての要素がグッと濃くなってきた感じに思えるのである。
勢いづいて進出した竹書房での『あゆみフルスロットル!!』(ライフ)も、ひ弱なお坊っちゃま先生が元気一杯の女生徒に文字どおりノックアウトされて..という学園ラブコメディ。
どちらも男性からの猛アタックに困惑しつつ、本心はどうもまんざらでもなく..そして男性の方にも密かな思いを寄せる女子がいて..。三角関係ならぬ恋のトライアングルがコメディ路線にひと味もふた味も加えている感じである。ラブコメ4コマの新たな旗手として業界を席巻出来るか。

田中未来
一昔前「きらら」誌で気になる作品があって、程なく見なくなってガッカリしていたらようやく新作で復帰した!..と、思っていたのだが。改めて確認してみると「MAX」誌に載っていてその作品は別人でした。
そんなわけで勘違いから読み出した作者は元々ストーリー漫画家で、4コマ転向も04年の「MOMO」誌(ゲストまで)という新人とは言えない経歴を持つ。しかし現在の連載『キッチン少年』(ジャンボ)はまだゲスト扱いである。主婦顔負けの高校生が、教授とキャリアウーマンという外弁慶な両親の専属シェフとして毎食のメニューに悩む日々..という要素が加えられた学園もの。面白いのは家では息子に頼りきりの夫婦の外での様子も描かれているところで、ちゃっかり息子の料理の腕(内助の功)を借りて乗り切り、時に尊敬すら集めている。このように舞台が家と学校に留まっていないので話題は豊富なのだが全てが主人公に集約するこの形式は..そう、一昔前のもの。となると主人公のキャラが相当立たないとなかなか本連載にはならないだろう。でも、間近、のはずである。

古川紀子
竹書房は年間を通じた新人賞を今年からパワーアップ。ネット界とタッグを組んでのプロジェクトにし新たな読者と描き手の一挙両得を目論んでいる。今までの受賞歴を見てみるとやはり一時、輩出が滞った時期があったようだが近年は着実に一線級の新人が登場している。そんな中、トレンドをまるで無視したような作風でしかし人気を集めているのが作者。
『おたやん。』(くらぶ)はお多福のようなポッチャリ顔の、そのコンプレックスを前面に押し出してネタにした今ドキ珍しい笑われ系主人公のコメディである。ヘタウマともダサダサとも違う..そう、コケティッシュな魅力を作者はモノにしている。「一杯のかけそば」(!)を逆手にとった初老の詐欺師が逆にやり込められる、なんてネタが定番になっている『ほんわかぱっぱ』(くらオリ)も主人公の食堂のおばあさんは食えない因業ババア。もう一人の主人公も無口でパンキッシュな少女(何と富豪の娘でばあさんの孫)とサービス精神には完全に欠ける。ところがこれも憎み切れない、というより無視出来ない愛くるしさ、を持っているのである。
垢抜けない絵柄にはどうしてもレトロチックな情感を感じてしまい、またそこがウケているようなのだが、作者の場合はそれに輪を掛けて名前も実に没個性。検索して調べてみたら一般人のヒットが多かった。いやいや、単に古き良き..とは括れない強みを持っている。

山口舞子
4コマ作品の単行本は大判薄型で、自然本屋でもそのサイズの集められた棚を漁る事が多い。そこで専門誌以外に掲載された4コマ作品を発見する事もママある。作者は「花とゆめ」誌(白泉社)で「もうすこしがんばりましょう」という学園コメディを描いている。当初はストーリー漫画家だったのだが、適性を見定められ即ショートコメディへと転向させられたようだ。これが大当たり。ただ本作では4コマは冒頭1本のみで、あとのページはショートものなので残念ながら詳述は避ける。
少女漫画家でコメディ巧者は..と、多分に漏れず4コマ誌へも進出を果たした。『カギっこ』(ライオリ、MOMO)はタイトル通りの鍵っ子が主人公で、母子愛や隣人愛に加え嫉妬まで絡んだ愛憎テンコ盛りの実に少女漫画テイスト溢れるアットホームコメディ。オーバーアクションやユーモラスな擬音がスピーディな展開を産みストーリーを盛り上げるが、全体的にホンワカした雰囲気が漂う良質な人情話でもある。またなごみ系の画風がマッチしていて..主人公の笑顔に参ってしまうのは登場人物達だけではないはず。



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