続・現在4コマ漫画家レビュー 第14回

(初出:第121号 07.5.20)

今シリーズはサブタイトルが付いてないの、お気付きだろうか。テーマ括りが相当苦しくなってきたので何とか誤魔化そうという腹である。一応それらしいトピックを前フリとしていたのだが、今回こそはギヴ。あえてまとめるなら「異能」とでも言おうか..一風変わったノリや設定が気に入っている作品を挙げてみた。

月見里中 『となりのカワンチャさん』(きらら)
作者名は(月見里やまなし・中かなめ)と読む。本作は今でこそ様々なキャラクターが賑やかに動き回っているが、当初は主人公と同居人の悪霊娘とのやり取りがメインで、部屋でのエピソードというワンシチュエーション縛りだった割に強烈な印象をもたらした。「グーチョキパーで何つくろう♪」という歌で一本書いてしまうなど、相当なセンスの持ち主であろう。そう、作者の特徴はハイテンションなノリやコケティッシュなビジュアルもさることながら笑いのナンセンスさにある。言葉遊びやリアクションのみのストーリー性の無いネタも頻繁に出て来る辺り今ドキのギャグ作家と言える。
作画的な話になるが髪の毛が黒ベタ一色からツヤ(ホワイト)部分にトーンが貼られ陰影がボカされた不思議なタッチに変わっていった。元々イラスト描きとしてカラー原稿が得手なようなので、むしろ今までが地味過ぎたのかも知れない。連載中に絵柄が進化を見せるのは長編ならではの現象、さてどこまで楽しませてくれるかと思っていたら..。来月ついに最終回を迎えることに。ただ朗報もあるとのこと(最新情報)。単行本化されるという話か、それとも直前に出された試験作『神がふたりに私がひとり』(キャラット5月号ゲスト)が連載となるのか..どちらでもあると嬉しいところ。

蕃納葱 『教艦ASTRO』(キャラット)
学園もので定番は生徒の話。あるいは先生と生徒との絡みがメインになる。作者は先生(同士)のみを舞台に上げる。本作は朝潮総合高校教職員が全キャストである。実はこの傾向、今に始まったわけではない。作者はマックのフリーソフトを作ろうとした事があり、その作品は体育教師と養護教諭の恋愛アドベンチャーゲーム「H10高等保健体育」。構想成立は高校時分だそうで、未完成ながら発表は02年である。つまり相当前から一貫した、筋金入りの先生描き、と言える。
チョイ役に至るまで名前から性向まで細かく設定し、身内内での相関関係が非常に密であるなどストーリーは同人誌的なノリが色濃いものの、屈託ないやり取りの中に先生という職業の特異性を適格に表現している。教師とはいえただの人間、しかし生徒の前ではやはり指導者と、その二面性がメリハリとなって現役にとっては大人の世界を垣間見るような新鮮さを、退いて久しくもはや彼らの立場にある者にとっては案外地続きなのだと親近感を抱かせる。
永遠の学生生活を、年を重ねるほど夢見るもので学園ものはそれを具現化していると言っても良い。言わんとしていることは同じであろうが、本作は従来とは違った視点からこの聖域=学校を描いている。

kashmir 『○本の住人』(MAX)
ビジュアル系も裾野が広がってさすがに付いて行くのが辛くなってきた。新創刊「コミックエール!」誌(キャラット増刊、芳文社)は「きららフォワード」誌の流れを組みストーリー漫画がメインで、執筆陣も初見の嵐。一体、「きらら」本誌はビジュアル系4コマ誌として「キャラット」誌へと続いているが、当初ショート作品と半々だった「MAX」誌はさらに分派して「フォワード」誌、「エール」誌へビジュアル系ファンタジー誌の道を作ったようだ(私見)。そんな訳で4コマメインに変わったものの読むものが近年決まってしまっている「MAX」誌において当初から読んでいた数少ない一つが本作。
前置きが長くなった。萌え対象として理想的な存在に仕立てあげんと企む兄と、必死に抵抗しながらも憎み切れないでいる妹の確執をメインに、現実と虚構とが入り乱れるような不思議な世界を形成する、えーつまりは学園ギャグである。
妹萌えは4コマでもメジャーなジャンルになっているが、本作は兄の設定が奇抜である。絵本作家なのだが発表作は妄想渦巻く奇想天外な代物であり、編集者に無理やり書かされた不本意な作品は世間をして傑作と言わしめる。まさにマイノリティ万歳を標榜するかのようなキャラクターで単なる妹好きの甲斐性なしとは一線を画す。
このところは口癖が「ググれ!」の濃いい友人など、クラスメイトたちとのやり取りだけでストーリーが成立してしまい、新キャラも続々登場している。いずれにせよ一個の道化役が周囲をかき回して..とこれはギャグの定式であるから軌道に乗っていると言えなくもないが、兄の暴走を外さずに本作は語れない。

saxyun 『ゆるめいつ』(くらぶ)
ゲーム関連の企画記事にイラストを寄せるだけでも十二分な反響を得ているようで、漫画はあくまで依頼に応じてという、淡白な姿勢の作者である。このスタイルがそのまま作品(名)に反映されているようだ。アパート内でそれぞれ一人暮らし中の3人がお気楽な予備校ライフを送る、学生生活そっちのけの言ってみればアットホームテイストなギャグ作品。
主人公のトリオ立ては基本の黄金率であるが、近年はツッコミ役不在が主流である。あたかもお笑い界の流れと同調するように、ボケの噛まし合い、ボケ倒しが多く見られるようになった。特にメガネキャラは本来知的、物静か、お固いetc...一般的な常識人で周りを止める、話の軌道を修正する役回りだったはずが今では一番のキレキャラになっている。いわゆるマッドな性向の..ということで、本作以前にもそういう使い方は見られたが定着に一役買ったのが作者ではないかと思っている。
他に4コマ作品としては「電撃マ王」誌(メディアワークス)にて「空想科学X」を連載中。

中島沙帆子 『シュレディンガーの妻は元気か』(くらオリ)
デビューは小学館でレディース系だったようだ。絵柄からにわかには信じ難いが現在も連載を抱えている(JUDY誌、ただしエッセイコミック)。
本作は理系夫と文系妻の夫婦もので、主に夫の理解しづらい生態をネタにしている。何に関しても理詰めで言動する様は確かに面白く、山下和美「天才柳沢教授の生活」(モーニング)を彷佛とさせる。前作「電脳やおい少女」(竹書房)はネット同人界のオンオフ交流とプライベートでの(ノン気との)交際を現実的に描いたドキュメントタッチのラブストーリーで、共にルポものに分類しても良い。
作者自身は副業の万華鏡製作で脚光を浴びているそうだが、その確かな観察眼で日常も覗き見ているのだろう、作品も注目を集め続けている。

真田一輝 『the Airs』(キャラット、終了)
駆け出しと自ら謙遜しているが、デビュー作の『落花流水』(MAX)は危ない?恋に友情にスポーツにと、部活を中心に描かれた女学園もので順当に支持を得ている。個人的に評価したかったのは残念ながら先ごろ終了した作品。ヒコーキ乗りの主人公が、流れ着いた港町で騒動を起こしてしまい、結果小さな空輸会社で弁済する為に働くことになる。いわゆるファンタジー作品で飛行シーンは迫力を出す為だろう、大ゴマを使って変則的な作りにしていた。4コマの枠内で表現仕切れないのかと難を唱えることも出来る。しかし使用していない回もあったりとあくまで4コマ作品としての姿勢は保っており、話がつながっていくストーリー4コマにあっては寧ろコマ割がずーっと均一過ぎるとよっぽど内容に起伏を持たせない限り出来の悪いショート作品に成り果ててしまう。ジャンルが多様化された昨今の4コマ界にあっては如何に効果的に均等なコマ割を崩すか、崩し過ぎないかが命題になりつつある(類例も非常に多くなった)。本作はそこをバランス良くクリアし、本格的ファンタジー4コマとして期待を持っていたのだが..。
ファンタジー系ストーリー4コマはなかなかヒット作が産まれず、結果4コマ作家をして通常のストーリー漫画に流れてしまった(ex.フォワード誌)。本作もまた単行本未刊行に終わってしまい..。最終回、主人公がつぶやいた台詞「こんな毎日がいつか無駄じゃなかったって思えれば〜」は作者の心境に則しているかも知れない。新機軸がコケて執筆自体止まってしまうケースも見受けられるイバラな現状ではあるが、作者は駆け出しとしてメゲることなくこれからも挑戦して欲しい。

片桐みすず 『まりん・かりん』(ジャンボ、終了)
バストアップ主体であまり動きの無い絵柄と、双生児、シスコンものという素材は類似型が多くあまり熱心な読者では無かったのだが..。最終回の一回前(ジャンボ11月号)、ちょっとパターンに異変があって面白かったので挙げておく。4コマ作品は、ストーリー4コマであっても4コマ、あるいは8コマと4の倍数コマで一旦オチが付く。しかるに当回は連綿と会話が続き、あれ、おかしな流れだな..と思っていたら後半8コマを使って衝撃の事実が語られる(またページの折り返しが効果的)。言ってしまえば4コマ一本の定式を外れショート作品化しているのだが、全編会話シーンで途切れる事なく一定のペースで読めるような進行になっていて形式崩れのアヤフヤさは無かった。これは最終回でも同様で、コマ外に「今回で終了です云々」と記されるだけであっけなくバイバイとなりがちな4コマにしては注目度の上がる画期的な手法と言える。
現在の主流はグランドフィナーレを飾るという意味付けであろう、大ゴマを使った決めシーンをオーラスに持って来る方法で、この線は段々発展を見せている。例えば岬下部せすなは「ことゆいジャグリング」(キャラット、終了)において、最終回は1本「毎」に大ゴマを使用してストーリー漫画に進出した成果を還元しているような作りになっていた。そんな中、あくまでコマ割は均等なまま作品世界を語りで閉じた本作の手法は興趣の違った4コマ作品の締め方として大いに参考になるだろう。惜しむらくは単行本が未刊であること..作者自身が本作をステップとして更に活躍されることを望む。
終わるのは勿論寂しいことなのだが、いずれにせよ工夫を凝らした最終回が見られるようになったのは読み捨てで済ませない4コマが増えてきた証のように思えて好ましい。最期の一矢であっても確実に読者の心を貫くことは出来るのである。



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