久しぶりにビジュアル系で新規参入を果たした出版社がある。「まんがぱれっと」誌(一迅社)は06年9月創刊、まだ増刊扱いながら早くも月刊化を果たしている。アニパロ、ゲーパロアンソロジーを主力にした新興の出版社で、いわゆるファンタジー系の月刊誌も出しており、培ったマスを4コマへ流す事に成功したようだ。しかし..「きらら」シリーズを踏襲したような表紙デザインで、ロゴなんかもう、そのものと言って良い。当初の執筆陣も大半が見知った顔ぶれであった。
ただ猿真似で漁夫の利ですか?と、一概には責められない。同様のコンセプトで挑んで軌道に乗せられなかった例は幾つもある。先駆者たる芳文社は5月に新規「まんがタイムエール」誌を創刊予定(キャラット増刊)。「男のコのためのガールズコミック」という不思議なコンセプトだが初めての試みであろう4コマ作品のノベライズ、「きらら文庫」シリーズ刊行も始まりビジュアル系でも本格的な量産体制に入った模様。
看板作家が被るなど、画一的になっていた4コマ界にビジュアル系は新風を吹き込んだ。かつてとは少々趣の異なる、「同人活動」を兼業する「半」プロが一作品のみを提供する状況は個々人のファンという新たな読者層を取り込み、誌名(執筆者)を選んで購入する、4コマ誌のブランド化に一役買っている。
しかしその新機軸も、ジャンルとして確立された途端、供給過多気味とも思えてしまう作品が目立つように。設定はもちろんのこと、さすがに似通った画風、作風が多くなってきた。まして単行本化が当り前になった今、実力ある作家は永続的な活動が可能になり、自然リスペクトされる率も高くなっていく。
今回紹介する方々もそんな時代を反映してか、どこかで見たような..絵柄やノリを持つ作品を発表している。軽々にパクりと断罪する必要はなかろうと思うが、感じたのは事実なので一応指摘だけはしておく。むろん、面白いと思うから挙げるわけである。
北条晶
ツリ目がちの二頭身キャラが一読私屋カヲルと勘違いして以来、そのイメージが離れなくなってしまった。ただこれはタイミングの問題でもある。ちょうど「だめよめにっき」(タウン)が二頭身キャラを使った作画的に新境地の作品で、その画風が作者のそれに近いのだ。ということは逆に私屋が参考にした可能性もある?
こんな冗談を言いたくなるのも、作者は同人作家として実績があり、今は亡き「もえよん」誌(双葉社)ですでにデビュー(「眠らぬ森の姫さまたち」単行本は未刊)していたから。道理で絵柄の整い具合が半パでなく、もはや大御所ともなった私屋と同列に語ってしまったわけである。
『お父さんは年下』(ライフ)、『はっぴぃママレード。』(ファミリー)と設定はどちらも主人公と同じ立場(学生)に肉親が?という学園&ホームコメディ。コンプレックスを上手く利用して友達とも恋人とも、まして他人とも違う立場に義父、母を立てている辺りは脇役の使い方として斬新だ。
「お父さん〜」は今月から「MOMO」誌(竹書房)でも連載に(最新情報)。4コマ3巨頭の一が縮小で手放した代わりに他2社が引き継いだとばかり、早くも新人らしからぬ活躍を見せている。
竹林げつ
竹林月名義ではウェブコミックサイトにてショート作品(「ことこと」)を配信中。ゲストまでだったが4コマデビューもビジュアル系(「三人甘女」MOMO)。そんな今ドキの作者は作風も今ドキか。『およめに鬼嫁』(ライフ)はジャガー○田も真っ青なワイルド妻が旦那相手に暴れ回る。ジャガー夫妻は(テレビで観る限り)男女が逆転したような関係性で円満を保っているが、本作は基本ツンデレで旦那は打たれ強いけれどMっ気は無し。テレ隠しが過度であるといった程度の甘々新婚路線である。この暴力×→全身ツッコミのノリが真島悦也「ちとせげっちゅ!」(MOMO、ライオリ)と被って見えた。
独特な展開と思えるのは3コマ目、起承転結の「転」の部分。ここを作者は間に使うことが多い。きっかけ〜リアクション〜一呼吸置いて〜オチとなる。内容的には実質3コマになるのでスピード感があって良いのだが、頻出するせいかオチがマンネリ気味に思えてしまう。
HPでは何故か4コマ作品に触れておらず..力を入れていないわけではあるまいが、含めてもう一奮起が欲しいところ。
ちはやいくら
冒頭で触れた一迅社の月刊誌、から4コマに引き込まれた漫画家は意外に多い。その辺りが隠れた因縁を感じてパクリ雑誌と言い切れないところ。
ともあれ、作者も同様の経緯で4コマ誌デビューとなった。社内カップルが主人公の『課長と呼ばないで』(ライフ)はさすが業界慣れしていないというか、王道オフィスラブものと違いすでに結婚しており公認の夫婦である。そのせいで会社ではバリバリの管理職とドジOLの関係、家に戻ると甘々新婚もののメリハリは早くも崩れ気味。ただこのハジケ全開のノリは同僚たちから総ツッコミされること必至でオフィスギャグものに分類出来る。これもまた恋愛ものであって恋愛ノリでない「ちとせげっちゅ!」の作風と被ると見ていたのだが..単なる直感に過ぎず逆につくづく真島作品の印象度の高さを感じてしまう。今や竹書房の4コマ主軸の一と言え、代表するのが彼(等)の作品群だ。ただ、ポスト真島として先人を越えられるかどうかは今後の展開によるだろう。
ボマーン
「もえよん」休刊で終わってしまったが、作者の4コマデビュー作は単行本化されている(「でゅあるてぃーちゃー」双葉社刊)。日本通の外国人がパン屋で修行中の『ほほかベーカリー』(タウオリ→タウン)も休刊を生き延びた。芳文社でも小学生とミステリー作家の探偵コンビでご近所の難問?を解決する『ヒントでみんと!』(タイム)が即連載と取り巻く状況は荒波でも執筆は順風満帆といったところ。元々はゲームデザイナーということで、キャラ立てがしっかりしている上に話も画風にあったホンワカ系で近作は統一されている。ギャグ仕立てだった頃は笑いの持って行きかたがOYSTERに近かったように感じていたのだが..ともかくコメディ仕様に転向したのは良い判断だったと思う。
マスコットキャラ作りも得手のようだしメガヒットも狙えるだろう。惜しむらくは現状の掲載誌が老舗過ぎて起爆要素に欠けるところか..(失礼)。しかしビジュアル系に返り咲くのはちょっと望まない。アットホーム路線で築き上げつつある持ち味を活かし、地味でも末永く愛される作品をこそ作ってもらいたい作者である。
岡嵜もの子
書店でバイト中のいわゆる二足のわらじ状態のフレッシャーである。タドン目のキャラクターや背景描写(効果)は雰囲気的に小池恵子を想起させる。そして作品世界は竹本泉風。『津村くんちの星子ちゃん』(タイオリ)はデビュー作だが新鮮味に欠ける代わり安定感がある。アパートを追い出され押し掛け居候の身分である主人公は童女キャラで相方の物静かな青年と保護者、被保護者の関係で同居中。色気そっちのけで繰り広げられるドタバタ劇はそれでも何故か少女漫画のエッセンスを感じてしまう。つまりいわゆる低学年向けの、ファンタジー系のそれである。
少女漫画からの転向は常々指摘の通り隆盛であるが、彼女達は転向の言葉通り4コマのノリに合わせてくる。4コマで少女漫画のノリを出す作品も数多あるが恋愛物語がメインである。そうしてみるとこの少女漫画出身ではないのに非恋愛ものの少女漫画の雰囲気を持つ本作は密かに新しいタイプと言える。キャラが一人歩きするようになれば意外な大作に、なるかも知れない。
矢直ちなみ
内容に昔話を絡ませるのは昔からあった手法だが、近年は設定そのものを昔話に借りてくるものが多い。先鞭を付けたのはナントカの「新釈ファンタジー絵巻」(ジャンボ)で来月いよいよクライマックスを迎える(最新情報)。この古典をいじる、遊ぶという話が4コマの新しい定番で、作者の『乙姫各駅散歩』(ラブリー)も竜宮城の乙姫を地上に迎えての異文化コミュニケーションを軸にしている。新人グランプリ(投稿時代)からの作品で、順調に短期集中→本連載ときた。数年を費やしたナントカと比べ時代の趨勢を感じてしまうが..乙姫のキャラ立てを見れば早々に支持を受けたのも納得出来る。長い黒髪、和服姿で天真爛漫とくれば大抵の読者は参ってしまうに違いない?
作者はもしかしたらストーリーからの転向組かも知れず(未確認)、そのせいか話の流れもスムーズだ。単発ネタの連続ではなく、毎回一つの題材をメインに据えた構成は近年特にビジュアル系作品によく見られるようになった。ショートストーリーを4コマで見る、そんな新しいスタイルはいつの間にか完成していたのだ。本作はビジュアル系とは言えないけれど、ともかく色恋沙汰で盛り上がるわけでもなく、ぬるま湯のような状況に包まれたままの乙姫の日々は確かに一昔前の4コマ王道であり、それでいて成長していく様が見られる。
マイノリティから生み出された新手法が一般に普及されるようになる、ギャグ作品によくある展開が4コマでも起こっていた、これは一つの好例と言える。