ストーリー漫画から4コマへの移籍は、少女漫画家を中心にもはや定番と言って良い。逆に、4コマからストーリーへの進出もファンタジー主体でなかなか注目はされないが見かけることが多くなった。デビューを目指す選択肢として、とりあえずは4コマで..と考えるのは存外居るようである。反対にかつての人気ストーリー漫画家が、終の住処として4コマを選ぶ例も挙げられる。
このように、様々なジャンルからそれこそ老若男女が集う4コマはまさに取っ付き易くて奥が深い、懐の広さを示している。そんなわけで今回は作者の前職にも着目してみた。
青沼貴子
少女漫画家としてギャグテイストのラブコメで一時代を築いた。出産後は育児の経験談をエッセイコミック化しこれもまた大ヒット。「ペルシャがすき!」「ママはぽよぽよザウルスがお好き」とアニメにもなり、往年のヒットメーカーな作者はその後4コマ誌に活動の場を移し、優雅な執筆活動を送っている。『ぐ〜すかうめ美さん』(ファミリー)は当初ショート作品で紹介するに至らなかったのだが、いつの間にか4コマスタイルにマイナーチェンジしていたのでようやく挙げることが出来るように。
いわゆる「ママぽよ」の続編といった内容で、ヒゲ面の旦那、一男一女の4人家族の設定はそのものズバリである。ただ本作はタイトル通り母親に焦点が当たっていて、そこがエッセイコミックと違うフィクションの本領が発揮されているところ。驚異の出前注文率を誇る、つまり夕食の支度をサボるのが頻繁に出て来るネタで、この辺り意外と職業・漫画家である作者の等身大であるかも知れないが。忙しさにかまけておろそかになってしまった家事全般を有閑主婦のグータラぶりに転化して、普遍的なネタに仕上げる手腕は見事。
自伝的作品を描くなど、家族というテーマがライフワークになった感のある作者だが、本作はその集大成と言っていい、完成されたアットホーム4コマと言える。もちろん今後のさらなる活躍は期待するところ。
安田弘之
テレビ・メディアによって作者の手から離れてしまったと言わざるを得ない「ショムニ」を産んだ時代の寵児は、そのスタイルを貫くため活動の場をマイナーに求めていった..。そういう評価にしたいこの奇才の持ち主は、何年か前に4コマ誌に進出。うさぎそっくりの容貌をした小心者な旦那と、S気質な美人妻の夫婦ものは結局続かなかったが不人気故ではない、と信じていた。
そして今、隔月刊誌「マンガ・エロティクスf」(太田出版)にこの『ラビパパ』は連載中なのである。「まんがくらぶ」所収分も同社刊の単行本に収録されている。やはり駄作では無かった!改めて久しぶりに本作を読んでみると、8コマ進行のネタが割に登場する。この辺り4コマ誌での掲載は難しかったのかも知れない。
そして4コマ誌には新作にて再登場。『うたうめ』(くらぶ)はスレンダーな美少女(ちょい不思議系?)とおデブなお人好しのデコボコ二人組が織り成す友情コメディ。作者の真骨頂、エロとは無関係ながらこちらでもS気質とM体質との組み合わせが相性よく描かれている。
マイノリティに対する慈愛の眼差し、や感情の起伏に関する独特な視点。もちろんギャグセンスなど、特長は他にも挙げられるが一番は何と言っても女王さまキャラクターの見事な立ちっぷりであろう。4コマにおいて、いじわる(いたずら)好きな女性キャラとしては吉田戦車の「みっちゃんのママ」という偉大なる先達がいる。その後継者がここに誕生しているのは間違い無い。
岩崎つばさ
SFラブコメを描いていた頃は、正直特徴の無い絵柄と思っていたが、4コマ誌で見かけた近年には何だか線の強いデフォルメキャラを描くようになっていた。ゲームのキャラデザとか、出来るのでは..?と感じていたから先日家電メーカーの宣伝キャラクターを描いていると発見した時は思わず合点。
その、『30girls.com』(白泉社)は掲載がネットサイトであり、概要説明は少々複雑になる。そもそもマスコットキャラとして生まれた主人公と相方、猫のジョーズ。は企業ページにてPR活動をしているのだが、独立ページでは合わせて彼女たちのメーカーとは直接関係の無いオリジナルストーリーが掲載されているのである。そして単行本化もされた。当初は双葉社刊であったが程なく白泉社で再刊、現在はこちらで続刊されている。版型がワイド版からコミックサイズになり、正直読みづらく..移籍の経緯も気になるところ。そして実は原作付きの作品である(原作/脚本カワイシンゴ)。どの程度のウェイトかは分からないのだが、そのせいか従来の作品と毛色が違う感じがする。各キャラクターの紹介エピソードから始まった構成とか、主人公が決してメインではないストーリー展開とか。作者の魅力を損ねるものではないが。ただ、本作はコマ割の均一なショート作品と言えなくも無い、4コマとしては非常に微妙な定義泣かせの作品でもある。そんなわけで紹介が長くはなったが内容に関しては触れずに置く。
作者ならではの作品、と言えるのが『突撃!第二やまぶき寮』(タウン)で、「タウンオリジナル」誌の休刊を生き延びた(失礼)人気作。18才の女子寮管理人がクセのある住人たちと喧々諤々の大騒動..が、一段落したと思ったら会社の御曹子が副管理人として乗り込んできた。男嫌い(慣れてないだけ?)の主人公と、このちょっとトボケた感じの坊ちゃんの微妙な関係がメインになりつつある。このようにあくまで主人公を中心に話の進むのが作者本来の筋書き。最新情報として、「まんがタイムファミリー」誌(芳文社)にて今月発売号より『恋はお熱く』がスタート。男性恐怖症ならぬ異性と恋愛話になると拒絶反応が起きてしまうという..それで派遣レディをやっているんだから問題が起こらないわけがナイ。本作もまた主人公がパワフルに周囲を振り回してくれることだろう。
ところで作画上の特徴としてはもう一つ、手書き文字の多さが挙げられる。吹出による台詞はある程度制約を受ける4コマにあって、この補足的な文章は使い方を間違えるとゴチャゴチャした印象を与えがちだが、そこはデザイン巧者。このキャラクターを取り巻く文字が逆に作者独自のスタイルとなっている。
佐藤両々
前回の続きになるが、4コマ誌は定期的に個人の特集号を出している。人気作の多い、時代を代表する漫画家が対象であり、これが出ることで「看板」作家のお墨付きをもらった感じになるので読者としても取っ付きには最適である。それはともかく、個人誌と言ってもページ数の都合か他の漫画家の作品もいくつか収録されている。言ってみればお試し版で、2〜3回分程度の分量なのだが続けて読めるからそこで新たに注目することも多くなる。まさに出す側の目論見通り、と言ったところ。
前置きが長くなった。作者は『天使のお仕事』(MOMO)という産院を舞台にしたルポものを長く続けているが、タブーの多い業界にしてはちょっとアクが強すぎるキライがあって敬遠しがちであった。ところが舞台代わってゲーム会社になった途端、このノリが大ハマリ。これがつまり特集号に併録されていた作品になる。その、『そこぬけRPG』(タイオリ)はゲーム開発を志望しながら広報に配属されてしまった新入社員が濃いい先輩にオモチャにされ翻弄するコメディなのだが、業界の、裏方の裏方にスポットを当てたところに新鮮味がある。詳しいはずで作者前職がまさにこの仕事だったそう。『こうかふこうか』(くらオリ)はOLもので、物事が悪い方にばかり転がってしまう薄幸な主人公に対照的な運のいい社員、幸も不幸もまるで無頓着な同僚などが絡む。これこそ本音(裏の顔、毒舌etc...)をメリハリに多用する作風にマッチした設定と言いたい。
返す返すもルポものは向きではないと思っていたのだが..。改めて「天使のお仕事」を読むと婦長が妊婦として通院する身になってから人情話も多くなって..あらま名作じゃないですか。
鈴麻らむね
少女漫画志望であったが、私生活では普通のOLに。そして執筆活動は4コマに流れ着いた、いわゆる二足のわらじ状態の作者である。『しあわせのトリコ』(ホーム)はその経験を活かしたOLものだが、キャラ、ストーリーとも普遍的で及第点といったところ。同時掲載の1Pもの『おしごとのトリコ』がこの仕事と漫画の両立生活を綴ったエッセイもので、個人的にはこちらの方が興味を覚える内容。めでたく「まんがタイム」誌で連載となったが残念、先ごろ終了した。単純に短期集中であったと思いたい、創作活動におけるヒントやノウハウが詰まった有益な作品である。
身近な経験を題材にした作品は4コマの原点であり、近年は投稿ものがその主流となっているが、これらはどうしても描き手そのものが見えづらい散発的な娯楽作に映る。提供する側にもなれるという点は大いにメリットだし、交流性が強く多様な価値観が一瞥出来る楽しさもあるが。やっぱり読み捨ての悪習がつきまとってしまう。事実は小説より奇なりとは言うけれど、加工された面白さというのは作家性が現れる部分で、一人の、プロの、体験談に基づくエッセイ4コマにこそ再読の効く作品となる可能性があるのではないかと思う。
無論、想像力を駆使した完全フィクションの作品も期待しつつ。作者には現状ならではの経験を活かした話を求めたい。