タカハシの目 第60回

(初出:第128号 07.12.20)

今年もまた、相変わらずの4コマメイン。てなわけで新刊は買っても全て4コマの1年でした。唯一西村しのぶ『サードガール』完全版(小池書院)、の8巻(最終巻)のみ衝動買い。「タイトルの意味教えます!」というオビのアオリに乗せられて..いや、確かに完全版というだけの中味ではありましたがね。「コサージュ」掲載分が全て収録されて..あれ?まりをの番外編は入ったのでしょうか?ともかく。完全版シリーズのラストを飾るイラスト集を楽しみにしているのですが刊行は延び延び中..。
話が早くも横道に逸れてしまいました。古本の方も近年は長編になかなか手が伸びず。専ら短編(集)を漁っております。ルートが決まっているのでいささか食傷気味になってはおりますが、1年というスパンで眺めるとそれなりに珍本を手にしております。今回は今年見つけたそんな本たちを紹介しようと思います。探してくれというつもりはありませんが、いつか巡り会うことになれば幸いです。

漫画家による漫画評論が大当たり。今や漫画自体はあまり描かず御意見番となっておりますが、今イチ作品自体周知されていないのではないか。いしかわじゅん氏であります。かつてのリトルメジャーの通り名通り、ファンは多いけれど掲載誌はマイナーばかり。絶版が多く近年益々見かけなくなっておりますが個人的にはすでに一通り読んでおります。しかしまだあった!徳間コミックスシリーズで数作、その内の一つがこれ『なんだかみゆきちゃん』。スカウトされた女子高生が、実はオンチだったにも関わらず「歌がヘタな歌手」としてブレイクしてしまうという、ギャグ作品です。現実の芸能事情を茶化したり、いつものキャラクターが総登場と作者の典型作品と言えるのですが、毎回の扉絵に変化が見られます。デザイン重視のPOP調から、主人公のグラビア風へと本作の途中からシフトしました。3〜4頭身のデフォルメキャラをセクシーに描く、言ってしまえば作者のキャラクター描写の完成形がここに登場するのです。近年再刊されてようやくバブル期を描いた漫画作品としての評価を得た感のある長編『東京物語』(集英社)へと続く、本作は過渡期に当る作品と言えましょう。

亡くなったのは昨年になりますか..「おじゃる丸」は変わらず映っておりますが、原案者たる犬丸りんはすでにおりません。彼女もまた晩年は小説やエッセイがメインになっており、漫画家としての活動時期ははや昔の事。デビュー作(90年)の『なんでもツルカメ』は幻冬社文庫になっており、追い尽したかと思っていたら出て来ました。『ゆびきりげんまん』(講談社)は88年モーニング増刊が初出で..何と、文庫に載っている作者経歴が誤り。真のデビュー作を見つけてしまいました!父と娘の2人暮しを描いたアットホームコメディは、2年掛けて9本とデビュー作らしいペースで、その間に絵柄もかなり変化を見せております。月並みな言い方でアレですけど初期は滝田ゆうの背景にはるき悦巳のキャラクター、と言った感じで借り物っぽい印象。後半に作者独特のウルッとしたどんぐり眼の3頭身キャラが完成します。その変遷が如実に見て取れる逸品。しかし作者は結果このキャラクター=小さい頃の自分、を漫画、小説と一貫して描いて、燃え尽きてしまったようです(創作に行き詰まり、自殺)。いつだって好奇心旺盛な、活き活きとした愛苦しいキャラだけに複雑です..。

4コマではもはや代名詞とも言えるひらのあゆ。芳文社4コマ誌の表紙絵はコンビニで見覚えがおありでしょう。彼女の初期作も近年再版されたので探す必要は無いと思っていたのですが。まだありました。『迷宮書架』(雑草社)は2003年に出された、まだ全然新しい単行本ですが掲載誌がどマイナー。定期刊行されている漫画情報誌としては、一番古くて唯一の生き残りである「ぱふ」の派生誌、「活字倶楽部」が初出。毎号の新刊レビューのジャンル毎に1本づつ描いていたカットイラスト兼の4コマを改めてジャンル別にまとめた本作は、つまりSF、純文学、BLなど小説をテーマにした4コマ作品集。ですが漫画誌に作品を探すことはあってもここに手が伸びる可能性は薄い。特にサイクルの早い近年の新刊書店において、本作はだから出会えなかったのも道理。もちろん当誌の読者にとっては待ちに待った新刊だったでしょうけど..連載9年でようやく1冊にまとまったのですから。次の刊行はあればまた9年後..とのこと。現在も連載中であるかは申し訳ない、確認取れず。だって近所の書店に置いてないんですもの!

とまあ、どれも作者の経歴なりを詳細にまとめたページでも調べれば立ち所に知ることが出来、ネットショッピングで数日後には読める程度の代物なのでしょうが。そうやって読み進めていくとキリがなさそうなので、あくまで出会いに期待して来年もチマチマと本屋に通うことでしょう。単行本リストも亀の歩みで進めて参ります。



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