呑み鉄日本海(序)

(初出:第224号 16.2.20)


人心地ついて10年来、いや、余裕が出てきたここ5年ほどか。日本海を見に行こう、とまでは何となく思っていたのだが、具体的なビジョンがなかなか見えてなかった。
行って何をする?新潟には小学生時代の友人、菅原氏(おそらく本人も覚えていないであろう昔のPN)がいて、年始のやり取りではいつか訪れるが常套句になっていたが、すでに家庭持ちであり突然の訪問は迷惑かも知れない。そもそも本人とも10数年会っていない。
北陸新幹線の開通。昨年のこの出来事がチャンスと思った。新しい新幹線に乗って日本海へ。なかなか魅力的だ。しかしよくよく調べてみれば、新潟はすでに上越新幹線が通っている。そしてどちらも東北とは直結していない。わざわざ東京(大宮)に出て、そこから旅のスタート?身体にも懐にもしんどすぎる。目的地も浮かばない。
そんなあまりに漠然とした旅行イメージが急に明確になってきたのは、昨夏菅原氏が出張で仙台入りし、一夜の歓待が出来てから。「次は俺が、新潟を訪問だな!」が決定項になったのである。
新潟泊で接待に与る。では前後をどうするか。ここでまたも折良く訪れたのが、日本酒ブーム。新潟と言えば酒処。土産はこれで良い。さらにたまたまBSで目に留まったのが、「六角精児の呑み鉄」。鉄ちゃんである六角氏がローカル線に乗りながら方々で飲む番組。なるほど、道中から飲みまくりか。真似しよう。
つまり新潟までローカル線を乗り継ぎつつ、通り掛かる山形、新潟の地酒を嗜みつつ、土産にして、新潟からは同じく日本酒好きの横浜の佳那氏を訪れよう。これで新潟を往復するだけの旅ではなくなる。
5年前の函館の際は海産物を漁りにという目的にしたが(前回参照)、今回海の幸は夜に堪能させてもらうとして、日本酒を漁りに行くという目的で日本海を旅することにした。


年明け早々に訪れた年に一度の10連休、行くならここしかない。
しかし折からの人出不足で10連休は無理と..。5連休を2週連続で取ることになった。水〜日の面白くも何とも無い連休である。いつもならダラダラと無為に消化するだけの休み。しかし今回は平日に祝日が絡んでいる。仕事終りに呼び出して慌ただしく飲んでまた明日あるから、と別れることは無い。夕方くらいから出てきてもらえば、早めに切り上げたとしてもゆっくり過ごせるはず。ただ本人スキーが趣味なので、休み、もう予定入れてるかな、と恐る恐るお伺いを立ててみると「OK!」と即答。これで新潟行きは出来た。そこから横浜へ、週末にかけて伺うとはいえ、昨年第3子が誕生し乳飲み子がいる家へお邪魔して良いものかしら?こちらもダメ元で打診してみると「ええぞ!」と有難いご返答。しかも「金曜から来て2泊していけ」と。ん?水金で新潟、金日で横浜、5連休みっちりと埋まるスケジュールじゃないか。
月曜の仕事始めがかなりしんどいが..まあその前にいつものダラダラ休みが入っているわけだから..この機を逃してはまた1年後、ちょっと張り切ってみる。

となると善は急げ。確約を頂いたその足で旅程を組む。新幹線を絡ませないので今回はツアープランを眺めることはなく、全てネットで済ませる。ローカル線の旅、ということで青春18きっぷが出てれば良かったんだが..残念、出ておらず。それでも仙台〜新潟〜横浜の値段は仙台〜横浜の新幹線代ほどだから無問題。観光を考えていないので、立ち寄り先での滞在時間を確保する必要が無いからローカル線、寧ろ都合良し。のんびり海を山を、雪景色を眺めながら時間潰し。「呑み鉄」のイメージに魅かれた訳だから車の選択肢もハナから無い(雪道を走る度胸も無い)。ということで単に乗り継ぎ案内でチェックインに最適な時刻を探すだけ。
ところが意外と接続悪く、直接新潟入りするルートだと14時に出て20時に着くのが唯一。昼過ぎにしたのは前日の帰りが何時になるかわからないから。仕事明けで6時間電車に揺られるのに、午前出発はちょっとしんどいと思った。まあ当日は行くだけにして、翌日じっくり観光、というかお土さ産け漁りを..と、ここで困ったのがチェックイン、アウトのタイミング。連泊でも良いのだが少々面白みに欠ける。ということで大浴場(温泉)付きの宿を2軒ピックアップしたところ、11時〜15時まで、荷物込みで街中に放り出されることになる。そして何より懸案が、当日の夜と翌朝の食事。さすがに2晩友人を連れ回すのは気が引けるし、といってガイドブックを読みながら結局夕飯はどこぞの居酒屋へ、朝昼は兼用で回転寿司辺り?まあこの程度になるのは経験上間違いない。ただそれは、新潟でしか味わえないものなの?だからって、1泊だけというのも慌ただし過ぎる。
実はルートと宿の検索をしている最中にとんでもないものを見つける。「ふるさと割」。昨年かなり話題になったお得クーポンだがここに至るまで自分と縁があるとは思っていなかった。新潟、はすでに完売。途中の山形、の、お一人さま対象のクーポンが翌日販売開始とな!?1万円以上で5千円引き、すなわち宿代が最大半額になるクーポン也。これを使うとですよ、素泊まりプラスアルファの値段で晩朝2食付いてくるんですよ!!
しかも直接新潟入りする半分の時間で宿到着、山形もまた、地酒の宝庫であります。新潟観光が目的ではなく、日本海を見る、呑み鉄する、酒を土産にする、のが目的ですから、途中下車大歓迎。さらに直接新潟入りするには内陸部を通るので、日本海を見られるのは新潟に着いてから。駅前で完結すると海を見ないで帰るという羽目にもなる。そこで1泊目を日本海、の手前鶴岡にすると、翌日そこから新潟入りする羽越本線は海岸線を走るルート!
期せずして新潟素泊まり酒浸り旅行と全く同額で温泉三昧2食付き日本海経由で新潟入り出来ることに。チェックインまでの時間もローカル線乗り継ぎで14時〜15時の1時間を潰せば良くなる。それこそ函館の例に倣えば着いてパチンコ屋の休憩スペースで新聞を読みながら一服すれば良い時間。さらに新潟も「天然温泉」付きの宿。こうなると、早起きはしんどくともチェックイン前に着いてすぐ宿に入り、温泉でまったりしてから酒を調達に掛かるべき。
翌日発売開始と同時にクーポンを使って予約完了。仙台〜新潟の旅程が決まる。

水曜、10時に仙台を出て羽前千歳〜新庄〜余目〜鶴岡と至り14時半着。鶴岡1泊。
木曜、同じく10時鶴岡発村上〜新潟に13時半着。新潟1泊。

次に横浜へのルートを調べると、まずもって感じたのは「新幹線」って、便利だなあ。夕方に出て夕食時に到着、というルートが続々と出てくる。まあチェックアウト後に新潟で半日もいる用件は無し、昼頃出て佳那氏の帰宅頃に着くルートは、と。12時に出て18時半に着く、こりゃいいじゃないか。「高速バス」かあ..。確かに、乗り飽きたとはいえいつもの東北道では無いので新鮮かも知れないが、バス移動で呑みというのはちょっと考えられない。しかしローカル線乗り継ぎでは同じく12時に出て到着は20時前。しかもラストは高崎線を完全乗車。これもまたキツイなあ。料金はほぼ同じ、どうする?
まだプランの段階なのでどうとでもなるから保留していたところで、例のバス事故報道。うーん、当日の天気も分からんし、バスよりは鉄道の方が..。でここまできたら金云々よりも体調次第であろうと。温泉三昧で元気ハツラツなら全旅程ローカル線を完遂すべきだし、連日の深酒で体力の限界!とみたらテキトーに新幹線に飛び乗れば良い。

無論、日曜の帰り足は新幹線である。ローカル線はあり得ない。

さて、行く前の仕込みについて一章設けたい。要するにいかにして「呑み鉄」するか。そして土産をどう持っていくか。
番組では景色を眺めながら遠慮なくプシッ!と缶ビールを開けていたわけだが、平日昼間の通勤列車にてワンカップをパコッ!と開けられるだろうか。まして地酒呑みが主題、ワンカップではなくせめてミニサイズの瓶を求めたいところだが、ますますラッパ飲みするわけにいかず、お猪口に注いでなんて以ての外。いやしかし、昭和の車窓にはコップ付きのお茶があったわけで、水筒ってのはアリか?思い付いたのがマグボトル。学生のように移動途中でお茶を一口啜る、の体で中身酒、ってのはイケるんじゃない?
ちょうど今回は乗り継ぎの待ち合わせが結構あるので、キオスクにて地酒購入、コッソリ水筒に詰める、列車内で堪能、再び乗り継ぎ駅にて地酒購入(あるいは入れ替え)、を繰り返せば宿着く前に2〜3銘柄試せるのでは。
勿論到着前からベロベロになるつもりはなく、トイレ問題もあるのであくまで試飲の範疇で、それもあって飲み干さなくてはならないワンカップではなくキャップ付きの瓶が良いなと。
そして空き瓶や飲み残しを持ち歩くため、紙袋(エコバック)には間仕切りが欲しい。最終的にそこに眼鏡に適った地酒がお土産として入る。
移動中はこの土産袋とバックを抱えることになるため、服をね、もう3日間くらい同じでいいやと。温泉宿に泊まるわけだから滞在中は上げ膳据え膳なわけで、下着だけ持っていけば寝間着もいらない、防寒も観光しないから出た時の格好から脱ぎにいく方向で。横浜には事前に土産とともに衣服は送っているから山形、新潟と移動するだけで着替えは..気兼ねは..いら、ないよね。一人旅の気楽さ、全開。
おっと、忘れちゃいけないのが携帯にSDカードを挿す。佳那氏もまた鉄ちゃんであるので、道中の列車を写真に収めないと。ほぼ1年前に寿命を全うした携帯に入れたままのカードを初期化して新しい携帯へ。ちなみに写真を保存する前に、アドレスのバックアップを取る。これを怠ったために、未だこちらから連絡が取れない方々が大勢いる。閑話休題。
新潟へは鶴岡土産、横浜へは酒、帰って職場の土産は..東京駅でいいか。まあせっかくの日本海なのでピンとくる物があればそれぞれの土産に追加、修正ということで。

出発ギリギリまで仕事なので、前週の内に準備を完了させなくてはならない。
諸々のアイテムを揃えるべく、まずは100均に飛び込む。エコバックは普段から重宝しているので何となく目星が付いており、すんなり決まるが中に仕込む仕切り板みたいなのが見当たらない。段ボールで広げるだけ、みたいなの、引っ越し準備品として無いかな?ホームセンターとか行かないとダメかな?探し回っていると、エアクッション(プチプチね)がある。安定はしないけど、大きさが自由なのでこれでもいいか。包むというより間に挟む感じで使うことに。とはいえ諦めきれず店内をウロウロしていると別件で天啓が下る。ペットボトルに、付けるキャップ。マグボトルを購入するつもりでいたが、引っ掛かっていたのはこの旅行終わったら使わない代物ではないか、ということ。言っても数千円の商品を使い捨ての感覚で買うべきかと。スポーツ用のプラボトルでもいいかなと思っていたら、これ!中身が見えなければいいわけだから、アルミ缶のボトルに入れればこのキャップで済むんじゃないの!?隣にはちゃんとペットボトル用の巾着袋まで置いてある。つまりこちらの希望する用件(中身見られず、お茶飲んでます風を装える)が216円で手に入るのである。ん?マグボトルに引きずられてしまっているが、巾着袋の時点で目的は達成している??
しかし日頃活用しているようにみえても買うものは決まっているから店内をあれこれ眺めることが無く、気が付くとトラベル用品というのは目に見えて豊富になっている。確かに、日常の必需品を旅は一つにまとめなければならないから、ニーズに応えていけば続々と商品が産み出される。インナーをまとめる小袋、貴重品入れetc...いやいや、ビニール袋で充分、バックのポケットは何のために付いているんだ、とついで買いの誘惑に耐えつつ、それでもマスクにカイロに、つまみにガムにと一通り買って店を出る。あれ?あと買うものは無い、な。スーパーやホームセンターまで回るつもりが100均にて下準備、終了。

家に帰って衣服を揃えれば、旅支度も終わり。これが前日であればさあて、明日が楽しみだ!で寝るだけだが、行くのは来週の半ばである。何だか落ち着かない。当日飛び起きて電車に駆け込む、寸前までの準備を前週に整えるというのはなかなか想像がつかない。この稿も、前日まで書き込む余裕が無いのであとは事後報告になる。忘れ物ありませんように!

(この稿続く)



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