北の、大地に立つ

(初出:第174号 11.11.20)


「機が熟す」という言葉がある。四半世紀ぶりに北海道を訪れたことはまさにそれを体現している。20数年前に住んでいたのは札幌であって、今回は函館と距離的には相当ズレているが。
しかも想い出の地に再びという感慨とは程遠い。たまたま学生時代からの友人が現在住んでいて、私は彼が仙台に下宿していた当時から行った先を必ず訪問していたのだ。函館もだから、相当前から行くつもりだった場所なのである。しかし往時同じように行き来していた友人達は真っ当に働いているし結婚して子供がいたり。どうしても、平日休みの独り者では日程が合わぬ。それで気が付けば、10年近くプランを実行せずにいた。
そして観光旅行というものにも無縁の生活を送っていたのだ。東京へは年数回行っているがほとんど日帰りに近いビジネス旅行であったし、自宅と友人宅の往復であってホテル泊も土産探しも必要無かった。ところが昨年辺りからようやく人並みに長期休暇がもらえる身分となり、また盆暮れとは全くズレた期間に取らされるものだから、仕方なくお独りさまで何か日程消化を考えなくてはならなくなった。東京へ行ってスカイツリー見物や横浜中華街へ、なんて行動も取り始めたわけである(昨年書いてマス)。それでいよいよ、一人旅をしようかな、というかしなければならんな、と今年の春先に思い至る。
白羽の矢がこうして函館に立ったものの、まだまだ「機は熟して」いなかった。プランを練り始めた直後の3月11日、あの震災で全てが一旦ご破算になった。いや、休み自体は4月だったので強行は可能だったのだが、まずは東京の面々に無事の報告をしなければならないなと思い直していたのだ。結局は休みの直後に最大余震が仙台を襲い、出歩くどころではなく、ひたすら片付けをして過ごすことになったのだが。
そうなると、次の秋(晩秋..)の休みは東京に出て改めて震災を伝えて終わるな、函館へは来春以降になるなと考えていた。しかし、平穏が戻ってきて余裕が出てくると、新たな動機が私を北へと向かわせる。
とある友人が家を買って、さっぱり訪れないでいるので今さら新築祝いもなあ、と思っていたところだったので、函館から海産物を送りつつ私もお呼ばれして一泊、というのはどうだろうか?と考え付いたのである。正直函館行きは単に友人に会いにとしか考えていなかったので、これで旅の新たな目的が出来たことになる。というのもこの函館在住の友人とは2年に一度くらいのペースではあるが会っていて、今年も5月に出張先からわざわざ仙台へ寄り道してくれて、盛大に飲っているのである。つまりとりたてて会うことに重点は無く、何か別の目的が必要だったのだ。これで昼間は土産漁りに専念すれば良いから、週末に合わせて向かわなくても良くなった。となれば、強行軍ではあるが東京へも出向けることになる。幸いなことに、長期休暇前に呼び出しを受ける形で上京を果たし、被災報告は済ませることが出来た。これで平日旅行、週末お祝いの誰もわざわざ休みを取る必要の無い日程で行けることになった。
もう一つは、高速道路のフリーパスを手に入れたこと。被災証明を持っていれば、東北自動車道は無料で走れる。あくまで復興の為の措置であるからこういう事に使うのはイケナイと思いつつ、それでもこの機は逃したくない。青森までガス代のみでたどり着けるなら、函館は目の前である。かなり節約出来るのでは?とこの時は目論んでいた。後述するがそう甘くは無かったのだが。
ともかく夏前くらいから、「函館に行くつもり」というのは公言するようになった。しかし最大の障壁が、残っていた。函館2泊3日の旅程、その費用面の問題である。
旅行会社がシーズンに折り込んでくるチラシを毎々チェックしていると、目に付くのはどれも「2名様より」という注意書き。春先にネットもずいぶん回ったが、ともかく「お独りさま」はプランに無い。となると、泊りはビジネスの素泊まりでかなり安く上がるが、交通費は正規のお値段で、となる。
東京へは今や片道3千円(バス)で行ける状況である。しかも宿泊代は掛からない。ほんとに「フラッと街へ出る」感覚で行けるのだ。そんなノリに染まっているからJRでの片道14420円というのが相当重くのしかかる。往復交通費3万円+宿泊費がどこまで削れるのか。滞在費にお土産代はどうしてもケチれないから、つまり青森まで車で、は大前提であった。しかしここで旅慣れていない弱みが早速出てくる。どのくらい走るのか、距離が丸で見当付かない。最初にしたのは、古本屋で地図を見る、だった。するとどうやら300〜400kmくらい。ほぼ仙台〜東京間と同じと分かる。過去のかすかな記憶を辿ると、大体5〜6時間といったところか(安全運転&休憩込み)。勿論時間は問題ではなく、つまりガス代は満タン2回で見ておくということ。5千円×2で1万円といったところ。そのまま函館まで行けそうだなと燃費だけを考えると想像が膨らむものの、カーフェリーが片道2万円!ということが判明し、途端に撤回する。人だけでは3千円台も6時間とか掛かってもはや現実的でない。青森から函館までは特急で片道5千円。結果交通費は1万円ほど削れそうだ、と、しかし青森で2日間車をどこに停めたらいいのだろう?コインパーキングではとんでもないことになりそうだし、スーパーに無断駐車というのもかなりの冒険だ。いっそ一泊目は青森泊まりにして、ホテルに頼み込んで車だけ一日置かせてもらう?いずれにせよ数千円は掛かりそう。となると、途端に意気が挫けてくる。JRと比べて数千円しか違わない、それで掛かる時間は倍である。やっぱり車は複数での利用で無いとお得感が出てこない。お独りさまは気楽さも許されないのか..。それでも車で遠出というのも実はしたことが無く(東京〜仙台間は全て助手席ナビ役オンリー)、雪の降る前だから初めての道をロングドライブというのも得がたい経験である。旅気分は否が応にも盛り上がる。最終的にはやはり車で行こうと思って、いよいよ駄目元で旅行会社へ打診に向かう。
初めに駅へ行き、パンフレットを入手。するとあるある、正規の交通費分で宿泊が付いてくるプランが。しかし1泊2日で、やっぱり小さく「2名様より」。気を取り直して駅前の某旅行代理店へ。
函館プランはパンフレット1枚しか無かったが、底値を発見した。ビジネス朝食付きで23100円。連泊しても28000円、丁度往復交通費ぐらい。2名様よりの記述は..無い。頼む!と勇んで受付へ。すると返ってきた応えが..「1名様ですと一ノ関(岩手県)以北からの出発で承っております」。理由は全く分からないけど、とにかく一ノ関までは自力で往復せよと。電卓を借りて受付のお姉さんとあれこれ画策する。ところが一ノ関から新青森への直通新幹線は無い、盛岡まで行けば新幹線はつながるものの在来線や高速バスを使って3時間以上掛かる、仙台基準からの差額を引いてもやっぱり足が出てしまい、30800円が最安値..。しかも掛かる時間はまたも倍、である。時刻合わせやホテルの空き状況など、色々調べてもらったものの、正直無いな、と思いつつ店を出る。ラスト駅のびゅうプラザで1名様のツアーの有無を確認して、車計画をいよいよ実行しようと考えつつ、受付待ちする。平日の夕方だというのに結構な人出で、1時間以上待たされる。その間にあるだけのパンフレット(2枚)をひたすら眺めていく。すると、明らかに同じプランなのに料金設定が500円違う。そして、詳細欄にはちゃんと「1名様よりお申込みOK」とあるではないか。料金表にはどちらも1名1室の欄があるものの、今までの経験上これはどうせ使えない項目(要するに2人で行って2部屋取りたいという場合の表でしょ)としか考えていなかった。実際500円安い方は2名様よりの受付とあるのだが、もう一方はこの通り、1名様で大丈夫だと。早速隅から隅まで眺め回し、特典や場所など比較していく。すると前泊セレクトなるプランがあることに気付く。前日の宿泊先を変えられる、もしくは「自分で手配」出来るのだ。ツアーの連泊だと25500円+5800円となるが、素泊まりのネット予約を使えば25500円+2400円に。28000円で収まる!さらに海鮮丼の朝食付きやチェックインアウト優遇を踏まえて一つに絞り込む。時間が有り余っていたのでもう一方のパンフレットのプランが1名様から使えたらと想定して2、3候補を立てていたものの、やっぱりこちらは無理でした..。そんな訳でようやく受付へ行き、シミュレーションも完璧に行っていたのでスムーズに予約が進行。ほぼ1月前だったから席も取り放題で窓際、ホテルも眺望良しの場所を確保。ただこれで、一人旅気ままにフリープランではなく、出発時刻厳守の完全パックツアーとなってしまった。仕方ない、函館2泊3日の一人旅の底値は片道4時間の27900円(函館山ロープウェー往復券付きだったので実質−1400円か)と、自分の中では納得した。

早々に切符を取ってしまったので、以来ちょっと興味が失せてガイドブックを開くことも無く1月があっという間に過ぎる..。

出発当日、の深夜、予期せぬ話が舞い込む。旅前のハイテンション(年甲斐も無く..)で寝付けずにいたから何気なく携帯を取ると、週末訪れるはずだった友人から「ばあちゃんが亡くなった。本葬が日曜日。すまぬ」と。済むも済まないもない、こっちはどうとでもなるから構わんでいい、お悔やみ申し上げると、ともかく早い知らせをくれたことに礼を返してから、しばし呆然となる。実はちょっと前に倒れてしまった話を聞いていたので、泊まり計画自体が微妙にはなっていたのだが、つい前日に意識は無いもののだいぶ持ち直してきたと聞いたばかり。急転直下の事態に思考が付いていかず。そうなると..海産物を送ることは無理だな..乾物とお菓子くらいか..あれ?何も、することが無い?

気を取り直し、新青森行きの新幹線へ。
東北新幹線はもはや乗り慣れすぎて在来線にしか見えない。東京で隣のホームにのぞみが停まっていると「これから大阪か!」と旅気分を誘われるが、はやぶさ以外は全く感動無し。もちろんはやぶさには乗れず。とはいえ初めての仙台以北乗車(新幹線)で、普段車で行っている場所までは「おお、ここまで5分か!」などと興奮していたが..。正直言ってそこからは山とトンネルばかり。盛岡は近くに岩手山がそびえ風光明媚な土地柄なのに、見慣れぬ風景に興味無し?海沿いを走るわけでなくひたすら目的地へ一直線に飛ばす新幹線に旅情を求めるのはそもそも無理な話なのか。ホテルでのナイトキャップ用に持ってきた小説に、早くも手が伸びる。帰りは結局寝こけてしまい、電車旅の風情には程遠かった。
新青森は曇天で、特急白鳥も時間1本のペースで走っているからビジネス客が大半。青森から出てきたはずの列車には乗客が一人も乗っていない!と思ったら新青森が始発駅。青森に寄ってから函館方面へ(なので最初は座席の背面が進行方向)。実はホームに立ってこっちが大間か..などと、考えていた逆から列車が来たので「あれ!?青森そっち!?」と方向音痴を恥じていたのだが。
青森から大口観光客が乗車してきて、やや気分がそれらしくなる。ご相伴してビールでもプシッと開けたいところだが近年トイレが近くて移動中の飲食は控え気味。震災直後、コンビニトイレが使えなくて難儀したトラウマからお茶のミニペット1本すら持て余す道中が続いている。今回も青函トンネルを抜けてようやくキャップを開いた。
しかし本州〜北海道はかなり近い位置に見える距離なのに、フェリーで4時間弱掛かる(青森〜函館)のが当たり前であったのだ。今や青函トンネルの所要時間は30分。50kmほども停車駅が無いので逆に一番飛ばせるゾーンになっている。その偉業には感服するものの、しかし長い。内部構造でそうなるのか、音が変わり開放的な雰囲気になると反射的に出口が近いと感じて光を待ち受けるのだが尚もトンネルが続く。最深部は一瞬で通り過ぎるがガイドランプが付いているのでそれと分かる。そこでは自分の上に100mの土と140mの海水がある。閉所恐怖症ならずともグッとくる。いい加減飽きてきたところで、急に光が差し込んだ。北海道側は快晴。仙台以来の太陽に思わず一息漏れる。振り返ると、本州が見える。やっぱりこの距離をトンネルで貫いたことに喝采を送りたい。お陰で日帰りも可能な往来が出来る。
前後の小さいトンネルを抜けた所でいきなり海が間近に現われた。通常なら歓声を心で叫ぶところだが、あまりに近いので反射的に津波の痕跡を探してしまう。湾内なので回り込んでまでは来なかったか、至って普通に家屋も立っている。海沿いの線路が続く。ついこの間までは三陸沿岸にこのような列車が走っていたのだとついつい考えてしまう。正直海岸線を見るのも久しぶりだ。何しろ今年は海水浴も出来なかった。いや、毎年海水浴をしていたわけでなく、海水浴場が開けなかったのだ。それでも夏と言えば海、石巻の港市場で昼飯を食べて、ちょっと岸壁を登って砂浜へ、なんてくらいは毎年の行事である。その、市場が跡形も無い..(無論現在復旧、復興中である)。
ちょっと、感傷的に眺めていると、海岸線が緩やかなカーブを描きだし、函館の街がいよいよ見えてきた。その長く連なる建物群はなかなか壮観で、同じような港町、長崎を思い出す。あくまで第一印象のみで言うと本州の最北端と北海道の最南端の違いが見えたというか。天気のせいもあるけれど。
ところが降りてみれば函館駅は懐かしの乗車口案内が吊り下げのプレート式だったり、ステンレス台に駅弁を載せて売っていたり。あー駅ってこうだったなあと、昭和を感じる情景。そしてちょうど隣のホームには札幌行きの北斗星が待ち合わせていて、かなり混雑していたのに、にぎやかに降りていった我が白鳥の観光客は早速一服してから改札を通ってみればすでに影も無し。
北の大地に降り立って、まず思ったのは「あら寒くない」次いで「あれ人少な」であった。というか、ガイドブックの地図で見ていたイメージが札幌のそれで、高層ビル群が立ち並ぶ、迷子になりそうな都市、であったのだ。実際はと言えば6階建てのデパートが2棟。あとはホテルと公共施設、のみ。以上で駅前終わりである。振り返れば駅舎があり、その奥はすぐに海(岸壁)。まつまりは典型的な港町。シャッター通りは在りし日の石巻を思い出す。海岸沿いの高架道路は釜石が目に浮かぶ。どうも、マイナスイメージが大きい。追い討ちをかけるように、駅前には海抜1.5mの表示。
そんなわけで駅前の裏通りにある本日の宿もすぐに見つかる。何せ視界が広いから迷いようが無い。
すでに昼過ぎだが本来なら早速朝市へ行って宅配が翌日配達出来るか確認するはずだった。翌々日しか届かないのであれば今日買うしか無かったから。しかしもう、その必要は無い。それでも仕方なく朝市へ向かう。閉店間際もあって閑散とした中、さかんに声を掛けてもらい、試食も値引きも向こうから掛けてくる。思案のしどころなのだが..半笑いで「また来ます」。買わないんですよ、買えないんですよ。
その代わり非冷商品の前を通ると真剣になる。珍味の常温可能品を勧められ、試食も確かに旨くて買いだと思ったのだが、量が結構ある。そこを店主は勧めてくれるんだが、何せ友人と俺しか酒飲まんのでね..。一人では持て余すであろうと。結局色々摘ませてもらったものの、20分ほどで一つも買うことなく出てくる。生鮮品が要らないので、明日以降で良いのである。
さて、後はチェックイン(3時)までどうするか。時刻はまだ1時手前、飯を食ってから算段しよう。名物海鮮丼を眺めながら、何故か「回転寿司にしよう」と考え付く。というのは、朝から何も食べていないのでお腹が空いていたからと、夜に友人と会う段取りが付いていたから。7時待ち合わせにしたので、ここでガッツリ食べても問題無い、となると、海鮮丼一杯では物足りなそう。チェーン店でもいいや、仙台のと比較出来るし、と軽い気持ちで駅前を発つ。全ての誤解を産む原因だったのだが、ともかく市電沿いに行けば拓けているのだろうと考えて線路を辿っていく。ところが(歩道のみの)アーケードを抜けて大通りに出てもチェーン店の回転塔が見えてこない。喫茶店は駅前デパートにドトールがあったきり。コンビニはあちこちにあるものの、休憩出来る(時間の潰せる)場所が見当たらない。そこで裏技を使う。パチンコ屋の休憩スペースだ。1軒目は結構お客さんが入っている上に休憩スペースが小さかったのでトイレだけ借りて出る。10分後見えてきた2軒目がビンゴ。閑散としている割に休憩スペースが大きいし、新聞が備え付けてある。ようやく気兼ねなく一服しながら新聞をじっくりと読む。ナップザック1個で収めた荷物が物を言う。あくまで地元の利用客を装っている。だからさすがにガイドブックを取り出して情報収集、は出来なかった。していればこの日、確実に回転寿司にありつけたのだが。
北海道新聞、函館新聞と地元紙を眺める。テレビ欄は民放5局。テレ東系も入るのか、ちょっと羨ましい。夕方のニュースを眺めていたら全て札幌発で、そうか北海道で一括りなんだと気付く。そりゃ首都圏並みで当たり前だわと。そして社会面では今朝家で読んできた河北新報と全く同じ記事が出てくる。配信記事ということが分かる。後は..訃報欄で1面が割かれていてちょっと驚いた。これもまた対象が北海道だから自然こうなるのだろう。決して事件事故が起きたわけではないと気付きながらもつい、一時期こうだったなと思い至ってしまう。嫌でも震災とつながってくる。
30分ほども居て、ようやく人心地つく。さて、今度こそ飯だ。結局駅前東側のブロックを2時間弱歩き回ったが、見つけたのはファミレス1軒..。頼みの綱とデパ地下もゆっくり見て回ったものの、ホテルに持ち込んでまで食べたい物は無く。チェックイン10分前でついに白旗。もう大丈夫だろうとホテルに向かった。
のっけから昼食にありつけないという椿事に見舞われたがここからはちゃんと予定が立っている。4時過ぎの日没前後を狙って函館山の夜景を見る。戻って余裕があれば谷地頭の温泉に行って、7時に五稜郭集合を目指す。荷物を置いてスッキリ身軽になり、早速函館山まで歩いて向かう。何しろどこに居ても函館山は見えている。そして市電沿いに行けば間違い無い。馬鹿の一つ覚えと今では思う。もはや食事処は諦めていて、しかもやっぱり店は無い。というか、人影もまばら。平日午後の港町は行き交う車の数は多いものの歩いているのは私だけ。観光客がつまり、いない。私はフラフラ歩いている不審なオッサンである。不審が付くのは長の休みで不精ヒゲを伸ばしているから。今回は口ヒゲにも挑戦し、みすぼらしさは堂々の合格点..あまりにもイケて無かった。
北海道と言えばお馴染み雪対策の縦型信号機。そして歩道には黄色い消火栓。マンホールの柄はイカ、とこの辺りは路上観察者としては誰もが気付くところ。通ぶれば交差点に「停止線」の標識があるのが目に付いた。バイパスでは「中央分離帯」という標識もあった。これもまた雪対策、雪が積もって見えなくなるから標識が立っているのである。
函館山までは徒歩15分くらい(2km)。ところでちょっと気になっていたのが「物産展出品につき休業中」という店がチラホラある。函館の、どこかイベントスペースでやっているのであろう物産展に店員総掛かりで行っているからって本店を休んじゃうの?とばかり思っていたら、看板をじっくり眺めて仰天。そこには全国のデパートを行脚しているスケジュール表が。つまりワイドショーでよく見る、著名デパートの大物産市に店員総出で回っているのだ。これはさすがに観光地ならではの店舗経営だなと感心しつつ、ただそうするとわざわざ現地を訪れた我々がデパートに出品するほどの有名店のお土産を買えないじゃないか、と複雑な思いに。オフシーズンに訪れてそれは我が儘というものか。
ロープウェイで函館山頂へ、着いたのが午後4時ジャスト。すでに夕日は沈みかけていたものの、夜の闇に沈むまでは1時間ほど掛かった。ここだけが強風で寒さにひたすら耐えつつあちこちから麓を眺める。途中やっぱり耐え切れず、中のお土産コーナーをじっくり眺めつつ暖を取る。この時間になると函館中の本日の観光客が全て集まったのではないかと思われる人出に。今までどちらにいらしたのか?結局は自分が一人だけ観光地から外れたところをひたすら動いていただけだったのだが。日暮れから点灯を始めたオレンジ色の強い光が道路沿いに伸びていく。さらに観光スポットのライトアップ、人々の生活の灯りが両側を海に挟まれた函館の街を彩っていく。百万ドルの夜景は幼少に訪れた印象で残っていて、今も変わらぬ美しさ。ただ個人的に見てきた晩秋の函館があまりに寂れていたのでどうしても、空虚に映る。この日はちょうど満月で、函館の街の右上に浮かんでいたのだが、海に月光の筋が走っていた。この光は百万年先も同じように海を照らすだろう。こちらの方が強く印象に残った、いい夜景であった。
まあぶっちゃけ一度暗くなればあとは同じ。考えは一緒で帰りは大混雑の中を下界へ舞い戻る。時刻5時過ぎ、一風呂浴びれそう。ともかく市電沿いに歩けば谷地頭まで迷い無し。完全に住宅街を、市電にも乗らず黙々と歩くのは私一人。ガイドブックによれば公衆浴場があると書いてあったので、その記憶だけを頼りに辿り着く。ありがたいことに四つ角に地図があり、すんなりと目的地へ。見えてきたのは外見豪華中身ボロのいかにもな市営浴場。しかしお湯は硬派な熱め。源泉は熱すぎて埋めているのだそう。露天湯温は42℃。これが実に最高だった。冷え切った身体がどんどん溶けていく。函館へ来て5時間、初めてのこれがご馳走である。もう充分、待ち合わせもあるし15分ほど浸かったところでサッと上がる。階段を下りて(風呂は2F)一服していると携帯に着信アリ。「仕事終った、7時半だな」と。市電で五稜郭までは30分ほど、ちょっと余裕が出来て休憩所で大の字になる。夕方のニュースをぼんやり眺めながら、風呂は頂いたものの久しぶりに凹んだ腹をさする。旅行に来てすきっ腹を抱えているなんて、一人旅ならではの気侭ではなかろうか。結局昼飯は取れなかったが、今晩はガイド付きで夜の函館だ。
定刻通り7時半に五稜郭公園前。ところが待ち合わせ場所のデパートが、何と閉まっている。咄嗟に場所違うんじゃないかと不安になる。まだ札幌のイメージが払拭出来ていない。こんな潰れたかどうかも分からない場所を目印にするだろうかと。その懸念をメールで送ったところ、程なく折り返しの電話が鳴り、本人が目の前に。「よお、来たな!」「おお、来たよ!待ち合わせここで良かったの?デパートって、閉まってんだけど!」「早いよ閉まるの」7時閉店のデパートって..(仙台市内のデパートも7時閉店のところありマス。あくまで個人的な思い込み、ね)。
では早速ということで、リクエストを聞かれ「海鮮系へのこだわり無し!」と即答。居酒屋なら何でもいいんです、一人で飛び込みで入るより全然マシ。というのは、平日なので遠慮して金曜(2日目)の夜だけ案内してくれれば良いとしていたから。仕事早く終われそうなので連日付き合うよ!と言ってくれただけで充分なんです。これで昼のようにあれこれ彷徨った挙句お預けを喰うことが無いんですから。
「よっしゃ、そしたらくつろげる所にしよか」ときて、入ったのが大衆居酒屋。確かに広いスペースながら込み合っておらず、座敷の2組目の客として上がる。まずはメインの活イカ刺が、本日無し。ムムムッ。ま明日ということで。友人が函館に来て最初に感動したという「タチ(たらの白子、青森ではキクという)の揚げ出し」、ほんとは天ぷらがいいって話だったが充分旨いっス。おかわり、しました。そして旬の鮭ハラス、これがキングサーモンので本当にデカイ。朝食の切り身を三段重ねたくらいの大きさで、ハラスだってんだから脂ノリのいいこと。この辺りではすでに日本酒、いってましたね。北海道はしかし、あまり銘酒を聞かない。男山(旭川)、くらい?ここへ来て宮城の地酒ってのもなあ..と眺めていたら、ビビッときました。田酒(青森)が置いてあるじゃないですか。これはもうさすが隣町。海を隔ててもあるもんです。青森に実家がある友人も嬉しそうに付き合う。そしてやきとりを頼む。何故これをわざわざ書き出すのかと思われる向きは残念ながら函館(北海道?)あまり詳しくない。やきとりと言えば豚串が出てくるのが函館の常識。メニューにもやきとり(精肉)としか載ってない。翌日行ったやきとり屋でようやくやきとり(鶏肉)という欄が出てきた。開拓当時鶏がいなかったので豚で代用してたら普及した、ということらしいです。書きたかったのはウンチクだけで、まあ普通に美味いです。それから刺身..は食べたな、ああ、マグロ旨かった。そしてフグ唐揚げもあった。ウロ覚えなのは酔っていたからではなく、会計でレシートがもらえなかったから。すでに1週間以上経過しているので記憶が不鮮明なのは歳のせいではないはず。
とまあ、話自体は今年会うのが2回目ということもあって、近況やら今日の行動など報告している内に2時間あっという間。明日も(仕事も夜も)あるし、今日は軽めに10時で。と最初に区切っていたのですが、そこへラストオーダーが来たもんだからじゃも一杯だけ、と。こちらは無制限なんでニヤニヤしてましたが、ラスト=閉店間近ということで宣言通り10時半に店を出る。
市電で帰ろうかと停留所に行ってみれば、丁度10時半が終電で行ったばかり..いや、酔眼を凝らしてみれば駅前方面は21時半でとっくに終っている。じゃあバスは?もっと早い?いいからホレ、タクシー!じゃまた明日!と気が付けば有無を言わさず放り込まれている。ホロ酔いだし、歩いても良かったんだが。市電沿いの道は車窓から見れば真っ暗人通り無し。やっぱりこの帰路が正解か。駅前に戻って、一服。さて呑み直すか、と思ってみても独り。やっぱり一人旅で夜の街は私には難しい。ラーメン屋が開いている。函館名物塩ラーメン、は、明日でいいか。明日は駅前で函館一美味いやきとり屋に連れて行くと言っていたし、締めに来よう。コンビニでコーヒー、お茶とパンを買い(一応朝食用にと思ったらしい。何でよりによってコンビニパン!)、ホテルへ戻る。あ、雨トーク始まるなとテレビを付けたところであっさり即寝。
電気煌々、テレビ付けっ放しの所謂いつものパターンで夜中に起きる。服は脱ぎ散らかしTシャツトランクスの状態で布団も被らず。電気消してテレビ消して..再び意識が無くなる。習慣恐るべし、それで7時には起きてしまった。

ホテルの難点で挙げられる強烈暖房だが、お陰で夏以来の状態で全く寒さを感じず。テレビを付けたら関東は雨。こちらは快晴でかなり冷え込んだようだが日中は15度くらいになる予報。仙台と最低気温以外は変わらない気候。これで助かった。
服装を、どうしようか迷った末に、東京と同じ装備で行った。週間予報を見る限り、フリース2枚を重ね着で対応出来るはずと。そして下着はともかくそれで、3日間乗り切ろうと思っていたのだ。他に部屋着用にフリース1枚とジャージズボン。ナップザック1個でおさまる量に。ガラガラと旅行ケースを引きずるのがとにかく嫌。お土産は全て配送にしようと思っていたし、寒ければジャンパーでも現地調達すれば良いと。しかしここで行き詰まる。友人と3日会わないといけなくなってしまった。嬉しい悲鳴だが、さすがに服装が全く同じってのは大人としてどうか。そして想像よりあまりにも小さい街で、同じところを同じ服で徘徊..ますます、不審者だ。起き上がって全ての服を眺めながら、コーデネートを考える。部屋着用の1枚が最終日に回せる。今日も..暖かいって、話だよな..。昨日の昼間に上着のフリースを持て余したことを踏まえて、仙台での休日の服装、ロンTにフリース(上着)、で過ごすことにする。これで一応、3日間違う服装になる(ズボンが同じなのはご愛嬌)。会ったのは夜なのでさすがにこの時期で中1枚!?と、引かれたのだが。酔いも手伝って一向に平気。やっぱりフリースは最強である。
当然のように朝になってみれば菓子パンなど要らず。これは習慣の缶コーヒーを飲みながら、今日の段取りを決める。目的は決まっていてまず湯の川温泉へ行き日帰り入浴。その後五稜郭で、もはや悲願となった回転寿司を。次のホテル(JRツアーの正規宿泊先)のチェックインが13時なので一旦函館山(十字街)へ戻る。駅前へ出て土産物購入。ホテルに戻って7時再び駅前へ。ともかく市電を行ったり来たりする行程。しかし時間的に、午後が長すぎる。淡々と実行すれば3時くらいにはこなせてしまう。土産物を午前中に買って、湯の川温泉方面を後回しにする?これは荷物が邪魔なので却下。やっぱりまずは風呂だな、とシャワーを浴びつつも優先事項がそこに至る。
10時ギリギリまでテレビを見てウダウダし、ようやく外へ。確かにそよぐ風は冷たいが日差しが暖かい。一日乗車券を買って市電の終点、湯の川温泉を目指す。ところが湯の川温泉は終点の一つ手前。乗り切りたいところだが目的地が温泉なのでともかく降りる。早速足湯があり、テンションが上がる。そこから海へ向かって転々と温泉宿。「日帰り入浴」の看板をひたすら探してゆっくり散策。ところが一向に出てこない。昼前のホテルは閑散としていて、中へも入りづらい..。日帰りって、やってないのかしら?とちょっとあきらめモードに。ガイドブックには銭湯は載っていたのだが、正直温泉といっても私の目当ては露天であって、お湯は循環沸かし湯でも構わないのだ。内風呂入ってもなあ..と、早々に目的を見失いトボトボ歩く。岸壁があったのでしばし景色を眺める。はるか遠く、苫小牧方面が望める(とばかり思っていた)。こちらは外洋側で波があるけど、津波大丈夫だったんだなあ..などとまたも考える。しかし日帰りやってないとは何だかなあ..。この夜この話をしたら「何言ってんの!どこもやってるって!堂々とフロント行けば良かったんだよ!」だって。いや、こっちは日帰りは大抵看板出てるもんで..怯んでる場合じゃ無かった。ともかく聞けば良かったんだ。
再びうろつき始めると、ラーメン屋があった。「一文字屋」は確かガイドブックにも載ってたはず。やっぱりあった!今回はチェックイン前なのでガイドブックを持参している。さすがに地元顔も限界が出てきて、地図やらガイドブックやら出している。何しろ一日乗車券で市電に乗っている身分だし。夜に食べるつもりだったが、丁度昼時、何杯食べてもいいや、と。
目当ての函館塩ラーメン、初実食。えび塩?を使っている?えびそばって感じで海鮮の香りがやはりすごい。なので海苔がさらに磯の香りを引き立てて抜群に良い。その代わりチャーシューがあんまり嬉しくないような..海鮮で統一した方がいいのでは?例えばかまぼこ、じゃチャンポンか。じゃあエビしんじょみたいな、やっぱり練り物だろうな、しかしそれじゃラーメンと言えなくなるか?蒸しウニなら高級感も出せるぞ。
などと考えつつ、美味しく頂いた。これも夜に報告したら、一文字屋は新味の部類なんだそう。元祖函館塩ラーメンは、結局食べるチャンスが無かった。
さてこれで、腹は一杯風呂は無し。回転寿司はしばらく入りそうも無い。やることが無くなってしまった。無無無。そこで思いつく。市電はフリーパスじゃないか。今から十字街まで戻れば少し早めだがホテルにチェックイン出来るだろう。荷物を置いて身軽になって、改めて五稜郭まで出直そう。あるいはまず駅前に出て土産物を買ってからまたホテルに戻ってそこから回転寿司の手もある。市電を使い回せば時間も潰せるし、ともかくホテル移動の時間調整は出来たことに気付く。
だいぶ歩いてきたので、終点湯の川駅を目指した方が良さそうと地図を確認し、方向だけ覚えて店を出る。地図を見たんだが..。
どうも距離感が掴めない。昨日は線路沿いに歩いたせいか時間の割りに近く感じたのだが。大通りを選んで曲がったつもりがどうも不安になる。環状線だというのにやたら電線が目に付き、ついつい市電の電荷ケーブルを想起してしまうので停留所が出て来ず、道間違いが払拭出来ない。この角を曲がって見えなかったら、もう一度地図を見よう。そこまで追い詰めたらようやく案内板に表示が出た。結果としては間違っていなかった。
市電で再び駅前方面へ戻る(谷地頭〜湯の川間はこれでコンプリート。もう1系統の函館どっくには結局行かずフルコンプは成らず)。何だかんだで40〜50分掛かり、バスと同じような速度、道程なので結構な距離があることに気付く。昨日3〜4駅分を歩き回ったが、なかなか無茶だったなと。まして五稜郭から駅前まで歩こうとしていたんだから。市電に揺られながら、何故函館で市電が生き残ったのだろうかと考えていると、到着地〜宿泊地〜観光地の全てを結んでいるからだと思った。市民にとってはそれほど重宝なものでは最早ない。実際乗降客の大半はお年寄りか観光客で、市電沿いに町が広がってはいない。観光ルートがイコール市電ルートであって、観光客需要が途切れなかったからではないかと。特殊な条件が整わなければ、やっぱり廃れていく交通手段だろうなと、交差点で車とせめぎ合いを繰り広げる度に感じてしまった(右折車が線路に入るかどうかで、直進する市電は信号が青でも止まらざるを得なくなる。蛇足、市電が右左折する場合は専用信号がある)。
本日のホテルは同じビジネスながらシティホテル風の小洒落た雰囲気。昨日函館山への徒歩で存在を確認していたから迷い無し。途中に「ラッキーピエロ」がある。ご当地ハンバーガーショップ全国一を獲ったこともある、函館の名物チェーン。かなり、気になる。寿司への執着が若干薄れる。どこかのタイミングで寄ろうと思いつつ、まずは荷物から解放されたい。
フロントで入浴剤を配っていたので、昼から温泉ならぬユニットバスに浸かり疲れを取る。というか疲れがどっと出て、まったりしてしまった。15時前くらいになってようやく出る。何しろ生鮮品買い漁りという大きな目的を喪失しているから、あれもこれもという気が起きない。ただ今度は荷物を置いて、再び地元顔。
回転寿司の有名店、その五稜郭公園前店は、地図上では市電から少し歩いた先にあるようだった。もちろんガイドブックその他は置いてきている。函館山ロープウェーでもらった、汁物サービスのチケットしか持って来なかった。五稜郭の外側の道路をゆっくりと歩く。そろそろゆるやかに右に折れて、その先に出てくるはず。交差点に入るたびそう思ってキョロキョロするのだが、影も無し。している内に、結構な繁華街が終わりを告げ、バイパスみたいになってくる。どうもおかしい。行き過ぎたかしら?チケットを見ても中央図書館向かい、と住所しか載っていない。まずいなこれは。10分20分歩いているぞ。必死でガイドブックの地図を思い出す。五稜郭公園付近にあったのは間違いない。つまり、五稜郭公園の外周を回れば必ずたどり着けるはず。意を決して右に折れ、五稜郭公園にぶつかることを願う。タワーはもちろん見えているが、結構な距離だ。ところが公園にぶつかる前に、電柱の住所がずばり店の住所と一致した。ただし番地がまだ、遠い。次に現われたプレートは、数字が1つ近くなっている。まだ先なのか!と意外に思う。行き過ぎも充分視野にあったのだが。番地が順当に近くなるか、まだ半信半疑ながら、程なく公園が見えてくる。考えてみれば公園と言っても五稜郭は幕軍最後の城塞であったのだからその広さ推して知るべし。帰って地図で確認したら、まさしく市電駅と店は五稜郭公園の端と端。市電から五稜郭公園を散策してようやく店にたどり着く、というくらいの距離があった。図書館も出てきてようやく確信に至ったものの、この向かいという案内に惑わされる。公園側に向かい合うことはあり得ないのでひょっとして裏手か?とわざわざ裏道を行ってみたのだが丸きり住宅街。建物が途切れた先に、目的の店が現われた。四方どちらに隣接していても、向かいは向かい、である。それにしても気を揉ませる。さらにいずれのピークにも属さない時間に来てしまい、お客さんの流れが無い。またぐる寿司らしからぬ奥まった入口で、恐る恐る近づき「営業中」の看板にも自信なく中へ入る。すぐに店員さんが来て案内してくれたものの、回るカウンターコーナー(ここは奥に座敷席もある)、何と客は私一人、である。
もちろん回転台に商品は回っていない。板さんの、対面に座らされてしまった。まこちらもいい歳だし、そんな経験も無いではない。普段タッチパネルでする注文を、板さんに直接言えばいいことである。とは言え何を頼むべきか..。単純に、ボードに手書きされた「本日のおすすめ」から「おすすめ5貫セット」を注文。いいんです、何たっておすすめなんですから。昨夜食べたタチの、天ぷらが軍艦で出てくる。おお、こっちの方がおすすめと言われてたやつだ。一番に塩をかけ、それだけつまむ。うん、旨い!ビールだな、と思ったがお茶を啜る。酔ったところで独り、どうも味気ないから止す。寿司の方は全くそんな事は無く、結局貝と炙りのそれぞれ3貫セットと、これだけは単品で活イカ(この時期はスルメか?)を注文。旨いのはもちろんながら、普段食べている均一寿司が冷凍の切り身であることを痛感する。ふわっと盛り上がった厚みが堪らない。一昔前はこの手のちょっと高級な寿司を食べてたなあ、と思い出す。要するに均一でない回転寿司である。いつの間にか100均寿司が当たり前になって、気兼ねないからひいきにしてるけど、たまには「寿司」って気張らないと駄目なのかも知れない。などと独りで感激しながら、均一寿司ではあり得ない皿数(と値段w)でサッと切り上げたのは、通ぶったからでも肩肘張ったからでもなく、「ラッピ」が気になっていたから。この後は土産物を物色して、夜の街に繰り出すだけである。時刻4時、待ち合わせまで3時間もある。しかも今日は駅前集合で、こちらのフィールドであり移動時間が掛からない。つまり、待ち合わせ前に「ラッキーピエロ」でお茶出来るな、と思いついたから腹6分で収めた。
帰路はせっかくなので五稜郭公園の外周をブラブラと。行ったらタワーの下に大きな土産屋さん。これはもう無意識に立ち寄りぐるりと舐め×→眺め回す。すると何だか具合がいい。お菓子類はデパ地下の方が揃っている感じだが、生鮮品は朝市と品揃えが違う。要するに冷蔵冷凍品が弱い分、非冷品が充実しているのだ。そして前日、実はアンテナショップに行ってそこで買おうと思っていた、がごめ昆布が売っている。納豆のように粘り気のある、この道南特産がごめ昆布は旅番組で製造過程まで観ていたので是非もので欲しかったのである。あ、ここで全て揃うな、と思った途端、一気に購買モードへ。
うにかにいくら、これら生鮮品の代替品を、ひたすら探す。缶詰瓶詰めレトルトパウチを狙うのだが、これと思ったものはやっぱり冷蔵品。あるいは、ロシア産だったりカナダ産だったり。それなら地元スーパーでも買えてしまう。そして乾き物。いかさき貝柱etc...先も言った通り酒飲みは友人一人であって、これらは持て余す。お菓子もご当地限定バージョンは残念ながら函館ものはほとんど無く、よく見れば夕張メロンや札幌とうきび味。がごめ昆布は狙った通りの品が買えたものの、他はどうしても生に比べると格が落ちる。それでも何周も回って一つ一つ吟味して、気が付けば結構な量をお買い上げしてしまった(それでも初日に持ちかけられたカニ一杯分にも満たないお値段)。お菓子系はやっぱり明日の午前中にデパ地下だな、と考える。この帰りに寄っても良いのだが、何しろ大きなお土産袋を抱えてしまったから地元顔は最早出来ず、一刻も早くこれらをホテルに押し込みたい。程よく夕闇の迫った街を足早に通り抜け、市電に飛び乗った。
ホテルに戻って一仕事終えたくつろぎが、新聞を開いたままの転寝に変わるのは必然。6時頃に連絡があり、「ちょっと掛かりそう、目処付いたらまた掛ける」ときたのも夢うつつ、7時過ぎにニュース映像になったテレビに気付いたのも半開き。7時半に再び電話。「ようやく終わったわ。悪いんだけど8時半集合で、昨日と同じ五稜郭でいいか?」「はいはい、何でも結構」。となると、8時に市電に乗ればいいな。そんじゃ今から出てラッピに寄ろうか..と思っていたらまたも半落ち。結局眠気が消えるまでに、いい時間になってしまった。ラッピは潔くあきらめて(どうせこれから飯だ)、停留所へ向かう。昼間は10分置きくらいで、ひっきりなしに通っている市電。返す返すも時刻表まで持っておいて何故チェックしないのかと不思議に思うのだが。時刻、8時台は19分、43分発のみですと!?信号待ちの間に出たさっきの便に乗れていれば..。20分ほど、待ち惚けを喰らわされる羽目になったらめげずにラッピ立ち寄り案が浮上する。ハンバーガー一つ買って、待っている間に食べればクリアじゃね?と。急ぎ足でラッピへ向かう。幸い先客はおらず、すんなりメニューに目を通し、カレー丼物から風変わりバーガー(チャイニーズチキンバーガーという、たれ漬け唐揚げが入ったのが一番人気らしい)まで目移りする中で、結局選んだのは「ラッキーチーズバーガー」という至極真っ当な一品。話の種にというだけなので、無難な線を選ぶ。そうしたら注文を受けてから作ります、いつでもできたて!がウリなんですって。ちょっと、急いでるんですけど..などと言えるわけもなく、気を揉みながら待つ。あと15分は大丈夫、あと10分..待っている間にオリジナルグッズのエコバックに魅かれる。土産物をナップザックに入れようとして(着替えを土産袋へ)、見事に収まりきらなかったので大きくて丈夫な袋が欲しかったのだ。しかもラッピのロゴというのがなかなかスノッブではないか。と店員さんに声を掛けようとしたところで踏み止まる。待てよ、今からじゃこれを持って夜の街じゃないか。函館市民にラッピのエコバック抱えた姿はどう写るのかしら?やっぱりダサいか?何しろこのチェーン店はお洒落な雰囲気がウリではなく、寧ろ真逆でパートのおばちゃんが頑張っている、気さく過ぎるファストフードなのだ。いかんいかん、事は慎重を要する。出発10分を切って、ようやく出来上がる。たった1個のハンバーガーなのに、紙袋がズッシリ重すぎる。値段を気にせずに買った、というのが誤算だった。これはこの夜もう一度喰らうことになる。停留所が待ちきれず道中開けてみれば390円も大納得、だってパティならぬハンバーグがバンズにはさまっている!チーズはダダ漏れの大盤振舞。これは食いでありすぎる。女子高生の待つ側で、チーズの匂いをプンプンさせながらムシャ食いする中年男。何か函館に来てどんどん怪しさを増している。旅の恥は何とやらと唱えつつ何とか食べ切って、市電へ。
15分遅れでほぼ9時に、丸一日ぶりの再会。今晩は本当なら駅前で函館一のやきとりのはずが、やっぱり日常に勝てず五稜郭で2番手のやきとり屋へ連れて行くとのこと。その前に今日こそ活イカ刺を、と海鮮居酒屋へ。ここはどデカイ水槽を擁していて、これから食べるであろうイカも元気に泳いでいる。待つ間に先ほどの顛末を話すと、友人も月イチくらいで買うとのこと。ただエコバックなどのグッズは知らなかったし興味も無いと。危なかった、失笑を受けるところだった。
さて念願の活イカ刺はそりゃもう透明でコリコリブニブニと歯応えが違う。イカゴロ(わた)も生で出てきて、すり潰して醤油で溶く。全般的にネットリとした感じは新鮮ならでは。ウーンこれを仙台でも体験させたかった。カマ焼き、大根サラダとこの店はどれもボリューム満点で、肴は以上でも酒が進む。今夜は奥さんにも付き合ってもらい、話題はやっぱり震災へ。こちらも完全に語り部になっていますから、実は映像でしか見ていない津波の様子もたっぷりと(その後を見ているから経験として語れます。勿論警鐘を込めて)。函館も、朝市周辺は波を被ったというのはこちらも映像で見ていて承知済み。しかし友人は東北で青春を過ごしたから津波の恐さは身に付いているものの、同僚会社が丸で無頓着。海から遠い自宅は気にならなかったが、とにかく会社が海の前だから自分は出先からすぐ高台に移動した。そしたら会社から電話があって「何してんだ」と。「津波が来ます、そこにいたら危ないんですよ!」と訴えたが結局戻らされたと。「うん、それはかなりマズイね」「分かってないんだよなあ」経験してから、想像出来るから言えること。同じ規模なら本土と函館島(函館山)がつながって出来た函館の街は津波に横断されている。これは決して誇張ではない。タラレバはキリがないけれど。
ところでメインディッシュはこれからと、早々に切り上げて向かった函館ナンバー2は、満席..さすがに花金、昨日とは出足が違うのか、向かった先が歓楽街だったからか、夜の函館、賑わいを見せております。仕方が無いと、支店へ向かう。コッソリ言えば、ここは単純に3番手とは言えぬとこぼしておりましたが、正直言って違いがよく、分からない。確かに昨晩の居酒屋と違って種類があるし、やきとり(鶏肉)部門もあります。ぼんじりが鶏テール串と部位で書かれていて、異端扱いだったのが面白いと印象に残った、くらい。それよりも、つまみがあって熱燗をのんびりと飲れば、どこに居たって羽化登仙の心境であります。話題もいつしか思い出話に。その内の一つ、私は昔から一定量飲むとそれ以上飲めなくなる(吐くか寝る)タイプ。友人は潰れた後で復活しまた飲み始める特異なタイプ。青春時代は宵っ張りの私としてはずい分重宝する相方(潰れた連中を帰した後で飲み直せるから)でした。友人は今もどれだけ飲んでも最後にビールで締めるそう(昨晩のラストオーダーもそうだった。一通り飲んでまたビールかと不思議に思いつつも付き合ったが、なるほど)で、飲めずに帰った時は家で缶ビールを開けるそう。ということで、常連客がまだ悠々と居座っているのに店を出され、少々オカンムリの友人は締めにそば屋を選ぶ。そば屋で一杯とはまた粋だねと、こちらはもう何でもよろしい。締めとなる瓶ビールを傾けながら、さて蕎麦の前に「軽く」アテはと、何気なく頼んだのが「つみれ焼き」。吸い物でなく焼き物とは香ばしくて良さそうだな、と「またも」値段を見ずに決めたのだが、出てきたのが所謂お魚ハンバーグ、しかも馬鹿デカイのが2枚!「まだこんなの食うのかよ!」呆れ顔の友人だがこちらも開いた口が塞がらない。だってつみれ汁のつみれだよ?なんでこんなボリュームで出てくるんだよ?値段を見たら840円と他のに比べて倍以上の値段。絶対間違ってる。半値で1枚で充分。これは罠だ。誰かが異人の私を陥れようとしている。何を言っても「お前どうすんだよ」「付き合いきれねえ」と失笑の止まらない友人。ったって、食いきれないよ..。もはや蕎麦どころではなく、ほぼ2枚とも残した状態で情けで包んでもらい、持ち帰ってもらうことに。いやいや、寿司もハンバーガーも飲み屋も、値段に比例したものが出てくる、函館というのは良心的な街だと言うことが良く分かったよ。やきとり屋での思い出話で、知的で通してきたと思っていたら「いや、お前天然だって」と言われてまたまたと返していたのに、早速今回も天然なネタを提供してしまったようデス。
入りが遅くて3軒ハシゴだから、あっという間のようでも気が付くと午前2時。お陰で要らんおまけ付きで函館の夜を堪能出来たよ、と憎まれ口を叩いて別れる。明日は休みなので「起きれたら」昼に朝市で海鮮丼をと約束するが、まあ学生時代は何しろ時間を守らない奴だったからなあ..こちらも待ち合わせ時刻に家を出るレベルだったけれども。ともかく友人のガイドがあって、一人旅としてはあり得ないほど充実した食生活だった。土産で買えない分自分が堪能した感じで少々後ろめたくもあるが、それは来た以上楽しんで構わないだろう。帰路のタクシーでそんなことを思いつつ、ホテルに帰るなりまたも爆睡。そして7時に起きる。

この時間なら谷地頭の温泉にもう一度入れるな..とぼんやり考えるが、足がさすがに筋肉痛で棒のようになっている。函館の街をほぼ縦断するほど歩いたからなあ、と地図を見て悦に入る。しかし広域地図で函館の街を見ると、北海道の点を回ったに過ぎないことに気付き、唖然となる。やっぱり北海道は広い。昨日岸壁で苫小牧方面を見たつもりが、北海道のネックからは見えるはずもないのであった。徒労に似た感覚で動きたくなくなったが、朝食を食べ終えると2時間ほど暇になる。しかたない、土産漁りにでも行くか。
店の開くだろう10時ころホテルをブラッと出て、赤レンガ倉庫へ。そこで見たものは修学旅行を始めとする、バスで乗り付けた大口の観光客の数々。週末だからなと思っていたら、何と赤レンガから朝市(駅前)まで連綿と店が立ち並んでいるではないか。しかもその中に回転寿司屋が。
何のことは無い、ずっと市電沿いを歩いては寂れているだ人がいないだ言っていたが、つまりメインストリートを完全に外していたのだ。ホテルに戻ってガイドブックを見れば、そこに回転寿司屋があることもちゃんと載っている。それさえ読んでいれば、初日に昼飯にありつけたろうし、2日目にホテルから徒歩10分で寿司が食えたのだ。何より事前チェックを怠った罰が函館の真の姿を最終日に見るという..。ただ何とか間に合った。じっくりと土産物をまたも一通り見て買い足しを一つだけ。これが後日、渡した友人宅で争奪戦にまでなったという逸品となったのは何よりだった。お菓子は気になっていたものが無く、チェックアウト後、歩いて駅前に向かいながら、お土産屋に立ち寄っては物色。チョコレート系がどうやら道中の暖房に耐えられないことが分かり(持ち込んだ駄菓子のチョコが溶けていた)、ガイドブックでの一番人気が「チーズスフレ」(これは残念ながら冷蔵品)だったのでバターチーズ系に絞る。一応、函館の会社のものか確認して購入。最後にデパ地下でそこにしか置いていなかったお菓子を買い、これで職場への土産も確保。ナップザックには到底収まりきれず、買い物バック大1、中1を抱えて列車に乗ることになった。
友人はきちんと予定時間に駅前へ。ビジネスマンに、なったものである。結局地元民としてはマトモに踏み入ったことが無いという朝市の、有名店で海鮮丼を食す。いい値段だけど器は思ったより小さい。とはいえ上にどっさり海産物が乗った状態ではご飯はいくらあっても足りないだろう。つまり函館海鮮丼は、ネタを食べるのが眼目ということ。そうなればここで、ビールの登場でも良かったのかも知れない。友人は車だったので相伴出来ないけれど、こちらは旅の身遠慮は要らなかったはず。しかし全く考えもしなかった。この旅行中、というか近年は本当に昼酒の感覚が抜けたなと再確認。素面で休暇を楽しめるようになったのは一人旅(一人観光)の賜物かも知れない。
友人に見送られ、帰り道。結局3日間とも晴天の小春日和が続き、全く北国を感じなかった。しかし翌週の函館は初雪&氷点下の朝がお出迎え。ギリギリ交わした旅程であった。行きと逆で青森方面を眺望する、風光明媚な海岸沿いも車窓から日光が降り注いであっさり寝入る。新幹線ではすでに日暮れており、またもグースカ。

ハンデ付きの初めての一人旅は終わった。日中は何かしらイベントが作れるというのが分かったし、そこで例えばひたすら歩き詰めに終わったとしても気を遣う必要が無いから気楽なものである。段取りを決めなくて良いのは自分に合っていると思う。ただ夜は駄目だ。相方がいないとやっぱり間が持たない。ホテルの朝食はバイキングで、普通なら必ず2周目(和→洋、あるいは逆)に向かうはずが早々に立ってしまったのはすぐに昼飯というだけでなく、間が持たなかったから。新聞でもあればそこは乗り切れたが、居酒屋では..どうやったって1時間だろう。結果ホテルで普段のテレビを観る羽目になる。それではわざわざ大枚はたいて旅をする必要が無い。しかし例えば、ツイッターで料理の写真を公開しつつ、オンタイムで誰かと語り合えれば。もしかしたら意外と一人でも苦痛に感じないかも知れない。今回の旅行でも携帯は肌身離さずの必需品であった。スマホに切り替わった時、身寄り無しの日本海側、関西方面からのレポートを、記す可能性はある。


「過去原稿」ページへ戻る

5年ぶりに旅へ。。