『あなたならどうする』
設問。あなたはコンビニに来て買物をしています。もしあなたが、買おうとして手に取った商品や棚に並んでいる商品を、不注意で壊してしまったとします。
さて、あなたはどうしますか。
こと細かに答えるのも馬鹿らしいくらいの設問である。故意でやった訳ではないし、壊してしまったことを店員に告げて、自分の不注意であったことをひとこと言えば良いだけの話である。店の方も、壊したからといってただちに弁償しろなどと大きく出ることもない。余程の高額商品であるとか、例外的なことは多少あるにしても、店の方でもそういった商品の事故については見越している訳で、返品するなりの処理方法はいくつか用意している。
だからお客様は、そういうときは心配せずに、
「すみません壊してしまいました、ごめんなさい」と言ってくれれば、こちらも
「ああいいですよ、片付けておきますからそのままにしておいてください」
という訳で、店員とお客様で相互に気遣ってその場は丸く収まる。ちょっと偽善ぽいが。でもこういうときに変に悪ぶっても誰が得する訳でもなし、これでいいのである。私は偽善といわれようとなんだろうと上記の解答が模範的、いや一般的だと思っていた。ところがこの設問の解答を机上ではなく実地で集めてみたところ、別解がごろごろ出てきたのである。
店に入って来るなり、「電池どこ?電池」と聞いてきたおじさん。乾電池の並んでいる棚にご案内すると、「ああ、これこれ」と単3乾電池4本組をおぼつかない手つきで(どうも酔ってるらしい)つまみだそうとしていたのだが、一番手前のものを落としてしまった。当たりどころが悪かったのか、4本を束ねていたビニールが壊れてしまい、ばらばらである。乾電池の棚はレジのすぐ前なので、落としてばらばらになった電池を拾いに駆け寄ったのだが、私が散らかった電池を拾い集めているのを横目に、「ああ、それじゃないや、こっちが欲しかったんだあ」と隣に並んでいる、単2乾電池2本組を取り上げ、まだ電池を全部拾い集めていない私に向かって「これ、いくら?」
そうですか、入用はそちらでしたか。で、この売り物にならなくなった単3乾電池4本組についてはどうなのだろうか。そのことをこそ、おじさんに問いたかったのだが、落としてばらばらになった乾電池なんか関係ないという顔で、買物を済ませてそそくさと立ち去るおじさんであった。
別解1。店員が全部始末してくれるから何も問題もないし、もともと買うつもりのものじゃなかったので関係ない。
時々やってきては、ヨーグルトやプリンなどをいくつも買って行く女性のお客様。30後半位とお見受けするので、家族の分まとめ買いだろうか。この方はかごをいつも使わず、両手に持てるだけのヨーグルトを抱えてレジまで来ようとするので、そのうちやるだろうなあと思っていたら案の定、ある時一番上に載せていたプリンを落としてしまった。パキッ、と破壊音をさせつつ床を転がるプリン。レジで待機していた私が、このあとどうするんだろうと考える間もなく、お客様は持っていたヨーグルトの山をレジカウンターに置き、私に「ちょっと待ってね」と言うより早く、転がったプリンをすばやく拾って棚の方へ舞い戻る。再びレジにやって来た彼女は、明らかにさっき落としたものとは違うプリンを手にしていた。
そうですか、で、落としたプリンはわざわざ棚に戻していただいたんですね。などと口に出しても仕方のないことなので、黙ってレジ打ちをする私。結局、落としたプリンについて彼女は最後まで言及することなく、店を出て行った。
別解2。店にはたくさん商品があるんだから、取りかえればいいだけのことだ。
店には酒類は通常置いてないのだが、年に数回は期間限定でビールやワインやウイスキーの小瓶を並べることもある。そういう時は、ビールとつまみを大量に買ってくださるお客様も多く、なかなか好評らしい。そういう盛況のさなかにやってきた、おそらく女子大生であろう三人組。洋酒の棚の前で瓶を手に取りつつ、わー私ワイン好きーとかカルアミルクおいしいよねーなどと言っていたのだが、そのうち一人が手を滑らせてカルアミルクの小瓶を落としてしまった。
瓶は底が割れてしまったらしく、中の酒はあらかた床に流れ出てしまったようである。その時私はレジに入っており、他のお客様の応対をしていたのですぐには出て行けなかった。それが済んだら出て行って始末しようと思っていたのだが、三人組は私が出て行くより先に、ほぼ空になった瓶を元の場所に置くと声をかける間もなくわき目も振らずに店から退散した。もちろん、何も買って行ってはくれなかった。
別解3。逃げろ。
これがお客様でなかったら全員零点、追試は免れないところなのだが、試験管の監督不行届きという指摘もあり、意見の分かれるところである。それより、別解がこんなにあるということはそもそも「設問ミス」ではないのだろうか。