中国縁起図内〜八仙

           萩原 晃一 10.1.20

(キャスト)
張果老=久米(センセ)・・65歳で定年を迎えたばかりの恩師。
李鉄拐=三ツ谷(みつやん、幹事)・・何かで足を骨折中。
藍采和=川口(ぐっつあん、隊長)・・バンドのボーカル。
韓湘子=内池(ウッチ)・・川口とバンドを組んでいる。
何仙姑=高野(彩ちゃん、彩)・・大学からの付き合い。
曹国舅=山田(やまだ、部長)・・高野と今日結婚したばかり。
      *男連中はいずれも高校時代の(演劇部)仲間である。30歳。

呂洞賓=坂田(店長)・・バーの店長。ちょっと気の弱い、27歳。
漢鍾離=吾妻(あづまくん)・・若いだけにイマイチやる気の無い店員。22歳。

参考:八仙
呂洞賓(りょどうひん)・・背中に剣を負った書生姿。天遁の剣法。県令(県知事)だった。
漢鍾離(かんしょうり)・・衣の前をはだけ、頭に2つの髷を結った姿。青龍の剣法。将軍だった。
張果老(ちょうかろう)・・白い驢馬に乗る。もともと人間ではなく、白い蝙蝠の精。
韓湘子(かんしょうし)・・一本の笛を持つ。文学者韓愈(かんゆ)の甥。
李鉄拐(りてっかい)・・片足が不自由で鉄の杖をつく。道士。
曹国舅(そうこくしゅう)・・高貴な貴族の衣装を身に着ける。皇后の弟(国舅)。
藍采和(らんさいわ)・・物乞いで得た銭を紐に通して引きずっている。歌うたい。
何仙姑(かせんこ)・・八仙中の紅一点。女道士。


(本編)
  雨は止んだものの、少し蒸し暑い、6月の土曜日の深夜。
  繁華街の外れにある一軒の平屋の小さなバー。
  (上手側、外。下手側がトイレ)
  いかに週末といって、この不況下、訪れる人は少なく..というか、今日に限ってはまったく客が来ない。
  時刻はすでに3時を回っている。5時の閉店だが、ため息をつきつつ、グラスを磨いている店長である。

(シーン1)坂田板付き。

  「ガラン」(勢いよく、ドアの鈴の音が鳴る)

坂田「うわっ!!い、いらっしゃい!」

  突然の物音に大仰に驚きつつ、引け腰で入り口を眺める店長。
  入ってきたのは同じバーテン姿の男。

吾妻「な〜にビビってんスか店長、俺ですよ俺。」
坂田「なんだよ、紛らわしいなあ。」
吾妻「ぜんぜんダメ!角まで行ったけどだ〜れもいないでやんの!」

  勤務中なのにカウンターの椅子に座り、回り始める。

吾妻「ヒマっスねえ。」
坂田「掃除でもしてよ..」
吾妻「不況なんスねえ。」
坂田「不況っていうか、今日はおかしいよ。雨が降ってるわけでもないのになあ。」
吾妻「谷間ってやつですかねえ。」
坂田「うーん..」
吾妻「あ〜あ、もう4時かあ。誰も来ないっスよ?」
坂田「まだ3時半。閉店まではまだ1時間あるよ。」
吾妻「ほんとに最後までやるんスかあ?」
坂田「レジ締め5時にしないとオーナーが怒るんだよ。」
吾妻「..じゃ俺だけ帰してくれりゃいいのに..今晩ライブあるんスから..」
坂田「4時でも5時でも変わんないでしょ。さあさあ、いつまでも座ってないで、ゴミでも捨てて来てよ。」
吾妻「え〜、今外出たばっかっスよ?」
坂田「じゃあトイレでも掃除して。」
吾妻「ゴミ捨て、行ってきまっス!」
坂田「...」

  カウンター越しにゴミ袋を渡す店長。
  それを受け取り、勢い良く外へ出しに行く吾妻。
  店長はリモコンで有線をBGM(ジャズ)から深夜ラジオ(深夜便。二胡の演奏が静かに聞こえてくる)に変えると、
  ノート(帳簿)と電卓を持ってカウンターに座り、仮清算を始める。
  しばらくして...

(シーン2)

  「カラン」(ドアの鈴の音)

吾妻「て、店長..どうします!?」

  ドアを開けたところで顔だけ出している吾妻。
  店長はのんびり顔を向ける。

坂田「何が?」

  「ガランガラン!!」(ドアの鈴の音)

内池「まだだいじょうぶ〜!?」

  吾妻が押しのけられ(一旦外に消える)、内池が顔を出す。
  一応スーツ姿(礼装)であるがすでにネクタイは外され、ヨレヨレの格好である(バンドマンなのでカジュアルな感じ)。

坂田「おわっ!いら、いらっしゃいまっせ〜!?」

  声を裏返し、慌てて立ち上がる。

内池「あはは、元気いいねえ!よし、ここにしよう!」(後ろに向かって)
坂田「えーと、あの..」

  気勢に押されて歯切れが悪くなる。

内池「ちょっとでいんだよ、主役が顔出したいってんでさ。何時までここ?」
坂田「あ、あの一応ラストオーダーが4時半でして..あと1時間もないんですけど..」

  三ツ谷が顔を出す。こちらはカッチリと、スタンダードな格好。
  ただし片足がギプス状態(これは登場で分かる)。

三谷「どうなの?いけそう?」
内池「あ〜あと1時間無いってっけど大丈夫だべ?すぐ来んだろ?」
三谷「ぐっつあんが今迎え行ったから、5分くらい?」
内池「んじゃいいべ!?(店長に向かい)あ〜はい大丈夫ですんで、お願いします。」
坂田「え〜..じゃ、どうぞ..」

  店長はようやく帳簿を手に取り、カウンターに回ろうとする。
  店内に入ってきた内池。中を見渡して。

内池「席どこでもいっスか!?」
坂田「あ、何名さまですか?」
内池「え〜っとね..おい幹事、幹事!」

  三ツ谷が現れる。後に白髪の老人、久米を伴っている。(その後から吾妻が入る)

三谷「なに?」
内池「全部で何人だ!?あ、せんせせんせ、こっちにどうぞ!」

  三ツ谷から老人の手を取り、ひとまず上座(奥の席)に案内する。
  その間に坂田と吾妻はカウンターへ入る。
  吾妻はおしぼりやら準備する。

三谷「えーっと..(内池、久米を指差し)3人に、後から3人来るから、全部でねえ、6人!」
坂田「あ、それじゃそこでいいです..」

  店内奥目(下手側)のテーブル席に、三ツ谷も座る。
  吾妻がおしぼりとコースターを配る。
  内池がメニューを開いている。

内池「せんせ何にします?」
久米「酒がいいな。」
内池「日本酒あるかな?」
吾妻「あ〜、単品では無いですねえ。」
内池「カクテルか〜、せんせ、甘くていいですか?」
久米「何でもいい、何でもいい。」
内池「んじゃカミカゼ、なるべく甘くないようにしてくれます?」
吾妻「えー..はい、畏まりました。」
内池「俺は山崎だな。ダブルのロックで。」
吾妻「はい。」
三谷「俺はジンフィズ下さい。ひとまずそれで。」(メニューは久米の前に置く)
吾妻「はい。」

  吾妻が注文を聞いてカウンターに戻る。
  三ツ谷が川口に電話を掛け始める。

内池「しかしよくつながったな、あいつら絶対出ねえと思ったんだがな。」
三谷「ちょうど起きたとこだったんだってよ。2次会終わって戻ったから、一回寝たんだろ。
    ...(電話がつながり)うぃー、どうよ?来た?
    ..(返答「いや、まだ」)そっか、あのね、俺たちさっきの、あれあれ、あの店に入ったから。
    うん、うん、オッケー、んじゃ来てくれい。」

  などなど、3人でしゃべり始めている。
  一方、カウンターではお酒の準備をしながら、チラチラと席の方を見ている二人。

坂田「大丈夫かな?ヘンな団体じゃないよね?」
吾妻「結婚式帰りじゃないスか。イヤなら断れば良かったのに。」
坂田「断ろうとしたんだけどな..」
吾妻「ビシッと言わなきゃ分かんないっスよ。」
坂田「でもヘンな人たちじゃないんだよね。だったらまあいいよ。6人ならそれなりに..」

  ここでハタと吾妻の手が止まり、腕組み。

吾妻「カミカゼ、どうしようかなあ..甘くすんなったってなあ..」
坂田「何よ?」
吾妻「じいさんが酒欲しいってんですけど、単品で無いんでって言ったらカクテルでもいいって。」
坂田「..いいよ、そのまま日本酒出して。」
吾妻「え?いいんスか?」
坂田「値段同じになりますけど、って一応言っといてね。
    大した銘柄じゃないし、それでいいんならいいよ。」
吾妻「わっかりました。んじゃこっちのグラスの方がいいかな。」

  やがて、吾妻がお酒を運ぶ。
  しゃべっていた3人が一旦テーブルを空ける(よくある光景)。

吾妻「えーっと、カミカゼなんですけどお、日本酒だけの方が良かったんスよね?
    一応カミカゼということで、日本酒お持ちしましたけど、いっスか?」
久米「おお、そりゃ有難い。」
吾妻「お値段一緒になっちゃいますけど。」
三谷「あ、いいですいいです、申し訳ないです我がまま言っちゃって。」
吾妻「いえいえ。じゃ、こちら。」

  銘々にグラスを配る。

吾妻「フードのご注文はよろしいですか?」
内池「あー、特にいらないなあ。」
三谷「あいつら来たらでいいや。後でにします。」
吾妻「畏まりました。」
久米「いい曲じゃの。」
内池「え?(掛かっている曲を聞いて)おー、懐かしい。チェン・ミンだな。」
三谷「珍しいね。中国好きなの?」
吾妻「え?いや..店長!これ..」

  吾妻は上(スピーカー)を指差す。

坂田「あ!失礼しました。ラジオにしてたもんで..」

  慌ててリモコンを取り出す。

坂田「有線なんで何でもありますよ?何か聞きたいのあれば..」
三谷「あーいやこのままの方がいいです!先生、覚えてました?」
久米「覚えてるも何も、わしが薦めたんじゃないか。」
内池「やー、懐かしいなあ。これでよくあんな激しいのやったなあ。」
久米「雰囲気だよ、京劇の音源があるわけでなし..」
三谷「思い出すわあ..先生俺ら以降であの演目やりました?」
久米「いや?あれはお前たちくらいだったな。」
三谷「やっぱし!な!?」
内池「だろうなあ。何しろあの代はベストメンバーだったからなあ..」

  しばし、思い出に浸る。吾妻は程よいところで一礼し、カウンターに戻る。
  曲が終わると定時のニュースが流れてくる。

内池「ん?待てよ?あのちょっと!有線ったら何でもあるんですよね?」
坂田「はい?なんにします?」
内池「えーっとね、たしか効果音チャンネルってあったよな?
    軍艦マーチとか、そんなのばっかりかかるやつ。」
三谷「あるけど、なによ?」
内池「ウェディングのって無いかな?あればさ、来たときに..」
三谷「あー、そりゃいいね!店長、ウェディングソングのチャンネルって無いですかね?」
坂田「えーっと、ちょっと待って下さいね..」

  帳簿類の引き出しから、有線のチャンネル表を探そうとする。

内池「入る前に連絡よこせって言っとけばいいな。」

  内池は携帯を掛けようとする。
  そこへ..

(シーン3)

  「ガランガラン!!」(ドアの鈴の音)

川口「はい主役登場〜!!」

  川口が飛び込んでくる。内池より、さらに派手な格好。しかもすでに、だいぶ出来上がってる状態。

三谷「ぐっつあん!ちょっとストップ!」
川口「(全く意に介さず)何よ何よ!?お!貸し切りじゃん!げへへへ〜、はい、入って入って!」
    (奥に向って手招き)
三谷「あ〜!(坂田に向って)ムリ?ムリ?」
坂田「すいませんちょっと..!」
高野「どうも〜。」
山田「ヨーッス!」

  川口に招かれて、高野がそーっと入ってくる。その後ろから山田。
  二人はすでにホテルに戻っていたので、私服姿。
  内池が突然、立ち上がってラッパを吹く仕草をする。

内池「パパパパーン!パパパパーン!パパパパン、パパパパン、パパパパン、パパパパン、パパパ」
    (こちらは座ったまま、三谷も加わり)
   「パーン!パーン!タラッタッタッタ、ターン、タラタン、タンタタン、ジャカジャカジャカ、
    パーン!パーン!...(以下大笑いしながら川口も交ざる)。あはははは!!」

  恥ずかしそうにしながら、高野と山田はゆっくり奥に向かい、久米の前に2人揃って立つ。

高野「今日はどうも有り難うございました。」
久米「いやいや、おめでとう。呼んでくれて有難うよ。」
山田「ずいぶん遅くまで付き合ってくれたんですね!2次会で終ったんだと思ってたら..」
久米「ハハハ、何だか久しぶりに楽しいよ。定年になってからどうもヒマでな。久しぶりの夜更かしだ。」
山田「まだまだ若い証拠ですよ!」

  久米の隣に高野が座り、はさむ形で山田が座る。
  その後も3人でのやり取りが続く中。
  笑い転げている川口の方では内池と三ツ谷。

川口「アーッハッハッハ!何だよ今の!」
内池「有線で掛けてもらおうと思ってたらさ、間に合わなかったんだよ。しょうがねえだろ!」
三谷「タイミング悪いんだよ!ストップって言ったろ!?」
川口「訳分かんねえ!最高だな!パパパパーン、パパパパ−ン!かあ!」

  吾妻がやってくる。
  最初手前の川口の方におしぼりとコースターを置こうとするが、笑い転げていて邪魔になる。
  少しイラッと、なりながら、ひとまず山田と高野の前に。

吾妻「あのご注文いッスか?」
山田「ああ、どうしよっか..な。」

  (久米の前にあった)メニューを取り上げ、高野に見せつつ、テーブルを見渡す山田。
  その内、川口がひとまずトイレにと立つ。(トイレは下手側外の設定)

山田「乾杯じゃなくていいんだよ..ね?」

  川口が吾妻の背後を通り様、バシンと叩く。

吾妻「イテッ!?」
川口「兄ちゃん!俺ターキーね!」
吾妻「は!あのお客さん..」

  銘柄だけ告げると、とっととトイレへ去っていく。

山田「バーボン、か..どうする?」
高野「私は軽いので..」
久米「何でも好きなので構わんよ。わしもホレ。」

  久米、空になりかけのグラスを上げる。

山田「ああ、日本酒、いいですね。何ですそれ?」
久米「知らん。カミカゼとか言っとったが..」
山田「カミカゼ?ったら、カクテルじゃ..店員さん、これ銘柄何ですか?」
吾妻「あ、えーっと、うち日本酒、単体では置いて無いんですけど、
    カミカゼ用の特別にそのままで出したんスよ。」
山田「へえ、そんな事してくれるんだ。いいなそれ。同じのやってもらっていい?
    せんせ、せんせもどうします?同じのでいいですか?」
久米「おお、頼む。」

  久米、一息に呷る。

吾妻「畏まりました。」
高野「あと、キール下さい。」
吾妻「はい。」
内池「こっちも頼むわ。メニューいい?」

  それぞれ飲み干した内池と三ツ谷。
  内池が高野からメニューをもらう。

三谷「ビール頼んどく?」
山田「もうさんざん飲んだし、いいだろ。」
三谷「んじゃ銘々好きなので乾杯な。」
内池「どうすっかな、山崎でいっかな。」
吾妻「飲み方は同じで。」
内池「はい。」
三谷「俺もウィスキーにしようかな..」

  メニューを手渡され、眺める三ツ谷。

山田「何だ洋酒派か、日本酒いかねえの?」
三谷「日本酒?ああ、ま、日本酒でもいいけど..」
川口「ターキー来た!?ターキー!」

  舞うように走りこんできた川口、どっかと椅子に座るとテーブルを見渡す。

川口「無いじゃ〜ん!何、早く持ってきてよ!」

  吾妻を見上げて責める。

三谷「今全員の注文してたんだよ、いいからちょっと待ってろ。」
川口「一杯づつ注文するから時間掛かるんだよ!ターキー、ボトルドンと、ホラ持って来る!」
吾妻「ボトルで、よろしいですか?」
川口「いい、いい!とにかく、持って来なって!」

  吾妻、不承不承の顔つきでひとまずカウンターへ。

内池「ぐっつあん、飲み切れんのかよ?」
川口「みんなで飲みゃいいじゃんよ!」
三谷「そうすっか。俺もターキーでいいや。」

  吾妻、ターキーのボトル持ってくる。

川口「グラスと氷は?」
吾妻「今持ってきます!」
内池「あ、さっきの山崎、いいです。」
吾妻「はい!」
内池「俺もこっちもらうわ。」

  坂田が気をきかせて入れ違いに、氷とグラスを持ってくる。
  吾妻はカウンターに戻り、キールを作り始める。

坂田「お待たせしました。グラスは人数分でよろしいですか?」
川口「おおありがと、ありがと!来た来た!さあ、誰が飲むんだ?」

  三谷が早くも作り始める。

内池「3つでいいな。」
川口「あれ?部長は?」
山田「俺はせんせに付き合うわ。日本酒で。」
久米「すまんが、日本酒も瓶ごともらえんか?これ(グラス)だとすぐ、無くなるでの。」
坂田「は、あのえーっと、未開封のは無いんですけど..」
久米「何でもいい、値段は任せるから。」
坂田「..はい、それでは。」
川口「んじゃ日本酒な。こっちターキーで。彩ちゃんは好きなの頼めばいいや。」
坂田「あの、フードのご注文よろしいですか?」
三谷「そうそう、何か食う?」
山田「いや特にいらないなあ。ナッツかなんかあればいいや。」
三谷「んじゃ何か、盛り合わせみたいなの、てきとーに。」
坂田「かしこまりました。」

  空いたグラスをもらい、引き下がる坂田。
  カウンターで、キールを持っていこうとする吾妻に日本酒の瓶も渡す。
  それらをテーブルに置くと、逃げるようにさっさとカウンターに戻る吾妻。

  山田が高野にうながして、久米に日本酒を注がせる。
  瓶を譲り受け、久米が山田に日本酒を注ぐ。
  その間すでに川口と内池はグラスを舐めている。
  それを三ツ谷が制しつつ、一同グラスを持つのを待って。

三谷「それじゃ改めまして。部長、彩ちゃん、結婚おめでとうございま〜す!かんぱ〜い!!」
一同「乾杯!!」

  ワッとばかりに盛り上がる一同。それぞれに山田と高野に杯を合わせる。
  川口など、早くも二杯目を自酌で注いでいる。

(シーン4)

  つまみ(かきピー、ブロックチョコ程度で良い)を用意しつつ、そんな彼らを恨めしそうに眺める吾妻。
  坂田はウキウキしながら伝票を書いている。

吾妻「騒々しいっスね、全く!」
坂田「やっぱり結婚式帰りだね。多少うるさいのはしょうがないよ。」
吾妻「タチ悪ぃっスよ!めんどくさい客だな!」
坂田「そんなことないでしょ、い〜いお客さんだよ。値段は気にしないし、相手しなくてもいいんだし。」
吾妻「どうスかねえ?(あごで指して)あいつ、なんか絡んできてましたよ?」
坂田「ああ..でもま、危ない人じゃなさそうだし。愛想良くしてれば大丈夫だよ。」
吾妻「ちぇっ、調子いいんだから。」

  一方、一渡り乾杯が済んで、銘々席に戻り酒を飲んでいる一同。

三谷「そういやさっき、チェン・ミンかかってたんだよ。」
山田「チェン・ミン?おー、懐かしい!」
内池「よくあれで京劇なんてやったよな〜!?」
川口「中国ものは音が無かったからなあ。今考えれば俺がギター弾きゃ良かったんだ。」
山田「あえてよ、あれがいんだよ。ね、せんせ!」
久米「雰囲気だよ、雰囲気。」
三谷「そうそう!」
川口「え、今聞けないの?ちょっと!ちょっと!!」
坂田「は、はい!?」
川口「チェン・ミンかけて!」
坂田「あ、あのさっきのはラジオでして..もう終わってますねえ。」
川口「何だそうか。」
内池「有線で中国ものって無いですかね?」
坂田「え。ちょっと、待ってくださいね..」

  坂田、再び有線のチャンネルを調べ始める。

吾妻「ほら、めんどくさいことになってきた。」

山田「ウッチとみつやんさあ、覚えてねえの?あん時の立ち回り。ほら、水滸伝の。」
内池「あー、虎退治?えー?どうかなあ?」
三谷「俺は覚えてるよ、さんっざん練習したもんな。」
山田「みつやん怪我してっからなあ。見たいけどなあ。」
三谷「おっ!やるか!?俺はいいぞ、どうせもう(足は)くっついてんだ。」
川口「十何年経ってんぞ?出来るか?」
三谷(力強くうなずく)
内池「んじゃちょっとやってみっか?」

  内池、三谷が立ち上がり、(上手側の)フロアスペースでごにょごにょと打ち合わせ始める。

山田「高3の時にさ、文化祭で京劇やったのよ。
    俺らあん時ハマってたから、ほんとは西遊記やりたかったんだけど。」
川口「キャストもスタッフも足りなくてなあ。結局あの二人だけ立ち回りで水滸伝だったなあ。」
山田「俺らは酒屋の従業員でな。」
高野「水滸伝..て、中国の?」
山田「そう、その有名な一節ね、武松の虎退治って。
    えーっと、どういう話かっていうと..何て言えばいいんだ?」
久米「武松という暴れん坊が、峠に出る人食い虎に酔っ払って出くわして、
    素手で倒してしまうという、豪快な武勇伝だ。」
山田「さすがせんせ、覚えてますか?」
久米「当たり前だろ!去年まで現役の教師だぞ。」
川口「その峠の麓で酒屋をやってたのが俺らさ。
    武松はそこで大酒を飲んで酔っ払ってな、俺らが止めるのもロクに聞かんで峠に行っちまった。
    案の定虎が襲い掛かったってわけだ!な!?」(内池たちにむかって)
内池「えーっとね、ちょっと、外で合わせてくるわ。少々お待ち下さい?」
川口「おーっ!本意気だよ!あっはっはっは!」

  内池と三ツ谷、一旦外へ出る(退場)。

久米「詳しく言うと、麓の酒屋で「三杯飲んだら峠を越えられない」
    という強〜い酒をしこたま飲んだんだな。
    それで「虎が出るからこの峠は昼間集団でしか越えちゃいけない」
    という看板も読まんで武松は峠を登り始めたんだ。
    ところが頂上の辺りで眠くなって、寝てしまった。」
山田「あー、思い出してきた!よし、俺ナレーションやったろ!」
川口「そうだ!こいつの夢って何だったか、彩ちゃん知ってる?」
高野「え?っと、たしかアナウンサー?」
山田「はいそうです!アナウンサー志望なのに放送部に入らんで、
    演劇部に入って役者もやろうとして、結局どっちも出来ずに今じゃ普通の会社員..」
久米「そんなもんじゃ、立派なもんじゃないか。」
山田「まあ、それはいいんですけどね、
    てきとーに遊んでたぐっつあんとウッチが今やミュージシャンだもんなあ。」
川口「何があるかは分からんもんだなあ。」
高野「高校の頃はバンドとか、やってなかったんですか?」
川口「全然。ウッチはアクションにハマってたし、俺も音楽は聴く専門だったしなあ..」

  そこへ吾妻がつまみを持ってくる。
  さっきのように、置いてすぐ去ろうとするところ、
  吾妻の指先を眺めた川口が急に立ち上がり、呼び止める。

川口「おい!」

  振り返った吾妻の手を取ろうとする川口。
  慌てて手を振り払う吾妻。そのまま短い間、手の取り合いになる。

吾妻「なんスか!」
吾妻「なんスか!!」

  川口は酔っているので説明する言葉が出てこず、無言のまま。
  川口、ようやく吾妻の手を取る。

川口「いや、手、手見せてくれってのよ。..タコなってんじゃん、なに、ギターやってんの?」
吾妻「はあ、まあ..」
川口「え、どっかでやってる?」
吾妻「えっと、ローズガーデンとか..」
川口「ローズガーデン!なつかし!まだやってんのあそこ?」
吾妻「え、なんスか。」
山田「こいつ週イチでやってたんだぜ。」
吾妻「え、マジスか。」
山田「サンダーアームってな、ぐっつあん。」
吾妻「サンダーアームっスか!?」
川口「お、知ってる?」
吾妻「え、超有名じゃないスか!」
山田「おー!さすが!」
川口「あはは、まあまあ。」
吾妻「え、ぐっつあんって、もしかして隊長さんですか?」
川口「あーまあ。」
吾妻「うわー!マジっスか!」

  握られている手を逆ねじにして、握手を始める。

吾妻「いやもうサンダーアームったら伝説っスよ!え、じゃあ今日は(地元に)戻ってきたんスか?」
川口「ほら、同期の結婚式でさ。嫁さんも大学ン時から知ってるから。」
吾妻「うわー、マジっスか!」
川口「おーちょっと、マスター元気なの?」
吾妻「いやもう、元気っスよ!」

  二人、急に打ち解けてカウンター(席)へ。

山田「やっぱ有名なんだなあ。」
高野「ねえ、すごいね。」
久米「つくづく、お前たちの代は変わっとったの。」
山田「変わってた、そうなんでしょうねえ。俺たちは最高だと思ってましたけどネ。」

  吾妻、わざわざテーブルに戻ってボトルとグラスを持っていく。
  川口、吾妻にも注ぐ。

坂田「あ、すいません、勤務中なんで..」
川口「まあいいじゃんか、もう終わるんでしょ?あんたも良ければどう?」
坂田「あ、私は..」
吾妻「店長、飲みませんから、ダイジョブダイジョブ。」

  言いながらあっさり飲み始める吾妻。
  首を振りつつ、山田に向かって。

坂田「中国チャンネルってのがありましたけど、かけますか?」
山田「お、ちょっと、お願いします。」

  偶然、チェン・ミンがかかっている。喝采する一同。

(シーン5)

  ようやく内池と三ツ谷が戻ってくる。

内池「お待たせしました!」
山田「お!来た来た!俺もナレーションやるわ!」
川口「ほれほれ、チェン・ミンあったぞ!」
三谷、内池「おー!」

  山田も立ち上がる。

  上手側、スペース中央に寝そべる内池。
  上手袖で背を向けている三ツ谷。
  中央で立つ山田。
  さすがに坂田、カウンターから出てくる。

坂田「あの、何をなさってるんですか..?」
山田「あーいやちょっと余興を。」
坂田「えーと、騒々しいのはちょっと..」
川口「他に客いないじゃんか!」
坂田「いやあの、一応営業中なんで、そういうの困るんですケド..」

  いち早く、吾妻がカウンターから札を取り出し、ドアへ。

吾妻「店長、ダイジョブ!貸切の札出してきましたあ!」
川口「おー!ナイス後輩!」
吾妻「はいい!」
坂田「吾妻くん..」

  久米が静かに立ち上がる。

久米「店長さん、勝手な話ながらこの子たちは皆、私の教え子でしてな。
    今回結婚式ということで、10数年ぶりに集まったんですよ。
    それで当時の思い出に、浸っておりましてな。
    誰と言わず、私のこれは我がままでやってもらうんですよ。
    もちろん、絶対に、物を壊したりとか、ご迷惑は掛けません。
    そうなったら私が全ての責任を負います。
    ここはこの、年寄りの一存で、やらせてもらうわけにはいきませんかね?」
川口「せんせに責任なんざ取らせませんよ。何かあったら俺が取る!」
山田「バカ言うな、責任なら部長の俺だ!」
内池「立ち回りやんのは俺らだぞ!俺らの一存でやらしてもらう!」
三谷「そうだそうだ!」
高野「店長さん、お願いします..!」
吾妻「店長!」
坂田「..分かりました。すいません、ジャマしちゃって。..どうぞ。」
一同「よっしゃあ!!」

  坂田がカウンターの奥へ戻り、再び3人は板付きに。
  川口と吾妻は舞台中央奥のカウンター。
  下手テーブル席に久米と高野(久米は立ったまま)。

久米「さあ、それじゃ本番いくぞ!気合いれてやれい!」
内池、三谷「はい!」

  久米が腰を下ろす。

山田「ううん!(のどをひと鳴らし)
    峠の頂上で居眠りをしてしまった武松。目覚めれば、すでに月はてっぺんに昇っております。
    驚き入った肝っ玉
    ひとり登った景陽岡で
    拳固一つで虎打ち殺し
    武松これより名をあげる!
    水滸伝、武松虎退治の一節、はじまり、はじまり〜!!」

  山田、邪魔をしないように高野らの席の後ろでしゃがみ込む。

高野「へええ!すごーい!」

  目覚めて、座り込んだままぼんやり辺りを眺め回す武松(内池)の背後から虎(三ツ谷)が忍び寄り..
  突如、襲い掛かる。
  間一髪交わした武松はたちまち起き上がり虎と対峙。
  虎は両前足を上げて振り下ろす。
  牙を剥いて抵抗する。
  尻尾を振り回してくる。
  これらの攻撃を避け、掴み、最後は虎を股に挟んで馬乗りになり、
  拳骨で耳の後ろを三回、痛打して倒すのだが、何しろ酔っ払いの上に虎の三ツ谷は現在、片足。
  結局酔拳の立ち回りのようになりながら、しかし意外と迫力ある一場となる。

  ラスト、倒れ伏した虎をまだ用心深く眺めながら、足で恐々つついてみる。
  ようやく死んだことを確認すると、置いていた荷物を肩にかけ、堂々と胸を張って山を下っていく風。
  (京劇的動線、その場で左右に振れて移動する様子)

(シーン6)

内池(立ち止まって)「お粗末様でした。」(お辞儀)
山田「ぃやった〜!!」(拍手)
川口「あはは、やったやった!」(隣の吾妻の肩をバンバン叩く)
吾妻「かっこいっスねえ!」(酒を注ぎながら)
三谷「あははははは!」(寝転びながら大笑い)
内池「いや〜ボロボロ!何だよ今の!」(山田と二人で三ツ谷を助け起こしながら)
久米「いや、ようやったようやった!」(立ち上がり拍手)
高野「すごーい!二人ともすごいですう!」(こちらも)

  山田たち3人が席に戻るのを久米と高野が拍手で迎える。
  川口もボトルを手に戻ってくる。

山田「ようしかし当たらずやれたな。途中ほんと危なかったぞ?」
内池「いやもう必死必死!こいつフラフラしてるし、気ぃ使ったわ〜。」
三谷「やっぱ足めんどうだったわ。しゃがめないからどうしても倒れこんじゃうんだ。」
川口「すげえじゃん!酔拳みたいだったぞ?」
内池「いやもうだいぶん飲んでっからなあ。」
久米「いや〜懐かしかった。あの時以上の出来じゃったな。」
三谷「ありがとございまーす!」
川口「さあ、飲め飲め!」

  川口が二人を促す。内池と三ツ谷、それぞれ自分のグラスを取り、グーと飲み干す。
  すぐさま川口が注ぐ。

三谷「濃いよ!濃いって!」
内池「あははは!おまえ、あんだけ動いたあとにこんなの飲んだら死ぬって!」
川口「そしたらこれちょっと飲んで、水ガバガバ飲んどけ!あはは!」

  川口自身はもうボトルに直接口を付けている。
  山田たちの方も、山田が飲み干したグラスに高野が日本酒を注ぐ。
  流れで久米も頂く。
  何を思ったか、その瓶を自分の空いているグラスにも注ぐ。
  そしてグーと一息に飲み干す高野。

高野「はーっ!おいしっ!」
山田「おい何飲んでんだよ!」
高野「興奮しちゃって!日本酒おいしいわー!」
山田「お前、やめとけって!」
高野「何よ〜、いいじゃない!」
久米「あんたも飲みなさるか?」
高野「はい、一時期ハマりましたあ。」
久米「そりゃうれしいのう。(山田に向かい)まあいいじゃないか。」
山田「ダメですよ、酔うとメチャクチャになるから..」

  山田は高野の右側(右手側)にある瓶を取り上げようとする。
  高野は身を挺して瓶を守る。その内に、もみ合うように狭い空間で瓶の奪い合いを始めてしまう。
  山田の背後を取り、ちゃっかり自分や久米のグラスに注いだり、久米と乾杯したりして、
  とうとう高野は日本酒を空けてしまう。

高野「あ、無くなっちゃった〜。」
山田「無くなったあ?」
高野「あ、ここにまだある。」
山田「そりゃ俺の!」

  このやり取りに途中から気付いて、眺めていた内池たち。
  3人で急に山田を囲むと、そのまま抱え上げて自分たちの席へ連れて行く。

内池「彩ちゃん!それ飲んじゃっていいからね〜!」
高野「はーい!」
山田「なにすんだよ!」
三谷「お前はこっち、はい、どうぞ!」

  三ツ谷が山田の前にグラスを置くと、川口がドバドバ注ぎだす。

山田「おい!濃いって濃いって!!」
川口「はい、飲んじゃって〜!」
内池「ぜいたくだなおい!トリプルどころじゃないぞ!?」

  内池が氷を入れてやる。
  山田、仕方なくこちらで飲みだす。

三谷「そっちもう無いんだよね?追加頼もっか?」
川口「おい後輩!こうは〜い!!」
吾妻「はいい!」

  カウンターで飲んでいたのを、坂田にたしなめられてカウンターの中に戻っていた吾妻が
  嬉々として出てくる。

川口「追加!なに!?」
三谷(メニューを取り出し)「なんにしよっかな〜?」
川口「あ、ターキーもう一本ね!」
吾妻「はい!」

  吾妻は早速戻っていく。
  暗い顔で眺めている坂田。

坂田「吾妻くん吾妻くん!」
吾妻「はい?」
坂田(腕時計を指して)「ラストオーダー!ちゃんと言っておいて!」
吾妻「え〜、めったに来ないんスよあの人たち。」
坂田「君にとっては有名人だろうけど、店にしたら単なる一見さんなの!これ以上のサービスは無し!」
吾妻「堅いなあ店長。
    (カウンターに置いてあったグラスを差し出し)これでも飲んで、ゆっくりしてて下さいよ。」
坂田「ちょっと!吾妻くん..!」

  吾妻は無視してターキーを持ってテーブルへ。
  店長、ため息一つついてグラスを飲み干す。ちょっとむせる。

山田「せんせ、どうします?」
久米(立ち上がり)「もう何でもいいわい。ちょっとトイレに..」
山田「あ、どうぞどうぞ。」

  吾妻と入れ替わりで久米がトイレに(退場)。

川口「あー、きたきた!俺はこれで良し、と。」
山田「俺も今んとここれ(グラスを上げ)でいいわ。」
三谷「彩ちゃんはどうする?」
山田「こいつはもうダメ!」
高野「えー、ケチぃ..」

  文句を言いながらも高野は一升瓶を抱え椅子に転がってしまう。

川口「あはは!嫁さん可愛いなあ!」
山田「そうそう、寝てりゃいいの。」
三谷「どうすっかなあ..」
内池「ちょっとさ、見せてもらっていい?」
吾妻「え?」
内池「メニュー、なんか目ぇ回って読めねえからさ、直接カウンター行って銘柄見してもらうわ。」
吾妻「あ、いっスよ。」
川口「そうそう、このさ、吾妻くんって俺らの後輩よ。ローズガーデンの。」
吾妻「あの内池さん、っスよね?」
内池「へええ!何やってんの?」
吾妻「一応ギターっス。」
内池「おお!ジャンル何?ハードロックか?」
吾妻「一応。」
川口「おやじさんまだ生きてるってよ。」
内池「マジで?顔出してみっか?」
吾妻「あ、行きますか!?」
三谷「明日にしろ明日に!それよりほれ、見に行こうぜ。」
内池「おう、そうだそうだ。」

  3人は吾妻に連れられカウンターへ。

吾妻「店長!直接銘柄みたいって!いっスか?」
坂田「いいですけどあの..当店そろそろラストオーダーで..」
川口「えー?もう閉まんの?」
吾妻「店長いいじゃないスか!貸切札出してんだし、別に何時に閉めたって。」
坂田「いやレジ閉めなくちゃならないし..」
内池「あーんじゃ会計だけ先にしてもいいすよ。」
坂田「いや、でもまだお飲みになられてますし..」
川口「言い値でいいって!何ぼでも俺ら払うから!」

山田「何だ会計なら俺も払うぞ〜!?」

  高野の横でグラスを舐めながら、高野を軽く叩いて(?あやして?)いた山田が呼びかける。

三谷「なに、いーって!お前ら主役なんだから!」
山田「足りなくなったら言えよ〜!なんたってお前らから頂いた金がホテルにあんだからよ!」
内池「つーわけで、金ならあんのよ下世話な話。」

  言いながらカウンターに踏み込む内池。

坂田「あ、あの困ります!」
川口「まあまあ、店長は俺と閉店時間の話しよ!」

  坂田の手を引っ張り、川口がカウンターの外へ連れ出す。
  三ツ谷と吾妻が入れ替わりでカウンターへ。
  川口は坂田を強引に座らせ、ターキーをグラスに注いで坂田に渡す。

三谷「おー、さっぱりしたのもいいなあ。カンパリとか、出来る?」
吾妻「はい、作りますよお!」
内池「スコッチかあ..俺やっぱり山崎でいいかな。」

  各々、酒を引っ張り出してはちょっと味見などしつつ。
  それを見て立ち上がりかけては川口に止められる坂田。

坂田「困ります、困るんですよ..」
川口「だから全部付けてくれていんだって!なに、店長明日早いの?」
坂田「普段どおりですけど..」
川口「じゃちょっと遅れてもいいじゃん!どうせ帰ったってすぐ寝るわけじゃないっしょ?」
坂田「あの、皆さんこそ結婚式で..疲れたんじゃないですか?もう朝の5時ですよ?」
川口「よゆーよゆう!みつやんは?明日っつうか今日なんかあんの?」
三谷「今日日曜だろ?」
川口「だろ?俺たちも明日中に帰ればいい話だし。」
内池「別に月曜の朝イチでもいいしなあ。」
吾妻「そっスよ!ローズガーデン遊びに来てくださいよ。俺明日入るんで、よかったら、是非!」
川口「おー!行ったる行ったる!」
三谷「お、オレンジある!これ絞ってもらっていい?」
吾妻「いっスよお!」

(シーン7)

  カウンターで盛り上がる彼らを眺め、坂田はついにターキーのボトルに手をかける。
  そしてそれを直接ラッパ飲み。
  口を離し、太い、太いため息一つ。

川口「おーっ!店長いい飲みっぷりだあ!」
坂田(腕時計を眺め)「いやいやダメだ..ダメなんだ..」

  フラリと、カウンターから離れると、先ほど水滸伝が披露された空間へ。

坂田「吾妻くん、ちょっと..!」

  低いが張りのある声で呼ばれ、吾妻がカウンターから出てくる。

吾妻「なんスか店長。なんだったら店閉め俺がしときますんで、帰ればいいんスよ。」
坂田「お前が命令すんな〜!!」

  突如大声を上げ、坂田は吾妻のボディを物凄い勢いで連打する。
  (ジャッキーの???ばりに)
  吾妻は打たれるままに舞台隅(上手)へと押しやられ、倒れる。
  坂田は突っ立ったまま、ユラリユラリと揺れている。

  そんな坂田へ川口、三ツ谷、内池が襲い掛かる。
  4人とも、酔拳のそれぞれの手合いで応酬。

坂田「お客さん!もう!閉店なんですよ!5時に!閉めないと!オーナーに!怒られるんです!」
坂田「お酒は、店の、宝物なんですよ!それを!勝手に!触らないで下さい!マナー違反ですよ!」
    (立ち回りの合間に、ワンセンテンスずつでよい。)

  吾妻に手を出してからは非日常の空間になっているので、
  坂田の心の叫びが独り言として出されるのみ。
  他の人は立ち回りのリアクションこそあるものの、全くの無言。
  やがて川口、三ツ谷、内池が吾妻の近辺に倒されていく。
  (やられたというより、おとなしくなってその場に座り込む感じ)

  カウンターに戻り、再びターキーをラッパ飲みすると、テーブル席に近づく。
  先ほどのやり取りを見ていたはずの山田だが、もはや酩酊しており酒を飲んでは深い息をしている。
  ゆっくりと、近づく坂田を目で追っている。

坂田「お客さん!店で寝ないでください!」

  坂田は寝ている高野を起こそうとする。
  それをジャマする山田と立ち回りになる。
  山田もまた、上手に追いやられ倒れる。

  再び転がっている高野に近づいた坂田。
  無理やり起こされた高野が坂田の手から逃れようと動き回る。
  高野もまた、上手に追いやられ倒れる。
  彼らを見下ろしながら、またもターキーを飲む坂田。

  トイレから出てきた久米が、一瞬、立ち止まり倒れている皆を見る。
  坂田と目が合い、ゆっくりと坂田に近づいていく。
  坂田もまた、久米に近寄る。
  接した途端に始まる激しい戦い。
  しかし久米もまた、坂田に倒される。

坂田(パンパン、と手を叩き)「皆さん、宴もたけなわですよ!」
一同「はーい。」

  倒れていた一同がその場に座りなおすと..。
  ユラリユラリと立ち尽くす坂田が一番奥で、
  客席からはまるで絵画の八仙図を見ているような構図で一同が舞台上に並んでいる。
  (スポット、拍子木のチョーンという音)

(カーテンコール)
  それぞれが立ち上がり、自己紹介をする。(ポーズなり、手合いを披露しても良い)

三谷「一すじの鉄がせ抱え仙郷へ入る、李鉄拐」
吾妻「三巻の金書袖にし城を出る、漢鐘離」
川口「拍子木叩いて世間に遊ぶ、藍采和」
久米「驢馬に背負われ天へと上る、張果老」
山田「家財投げ打ち宮殿を騒がす、曹国舅」
高野「霊薬服して神通、大、何仙姑」
内池「牡丹を咲かせてその名香ばし、韓湘子」
坂田「鐘離師父と出会い、得道仙を成す、呂洞賓。以上八仙、ここに揃いました!」

誰か「本日はご来場〜〜」

(了)ありがとうございました。

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