ビジネスマンの被災ドライブ記

(初出:第270号 19.12.21)


序         矢島 順

年間200日ほど同じ道を行き帰りしていても、路駐の右折渋滞の工事のと様々な要件が重なって日々の道行きは一定ではない。これは曜日回りとかもあるので参考にはならないけれど、それを受けての自分の感情や走り方を観察することでバイオリズムの状態を測っている。
何故なら事故を起こしたくないから。
通勤手段として車を使っていて、先日後記に記した通り、深夜の帰宅時にエンジンが掛からず途方に暮れた。「どうやって今から帰ろう?」答えは見つからないままに、何とかエンジンが掛かり事無きを得たものの。
改めて思うのはこれを使うと徒歩では行こうとしない場所へ行くことになり、結果的に日々「冒険」をしているのだということ。
だからモノグサな私はリスクを伴う運転を一向好きになれないのだ。

さておよそ10年ぶりに登場してもらうことになった佳那氏。雑記を読んでもらえれば分かる通り幸いに腐れ縁は続いている。
私とは違い車好きの走り好きので、ビジネス通勤もさることながら出張においてもかなり遠方まで車で回っている日々のようだ。
そんな対照的な彼から真夜中長文メールが届いた。今年の台風大雨に関する一連のやり取りがあっての報告は、時間、そして内容が久しぶりで懐かしかった。そう、シリーズ「花鳥風月を愛でてみる?」で披露している「詠(うた)」を彷彿とさせる「想い」が詰まっていた。

なので今回、プライベートに関する記述を一部改編した上で、SD誌に掲載させてもらうことにする。
先に言っておくと、彼の行動は決して褒められたものではない。しかしこの経験を綴ったことで未来への布石になったものと思っている。つまり、我々にとっても有益なものになり得ると考えている。


ビジネスマンの被災ドライブ記    佳那 克己

(編注)
これ以前に「しっかり台風対策したものの今回は大したことなかった」(佳那)「それを一生繰り返さないと震災の体験が無駄になる」(矢島)といったメールのやり取りをしていた。

本文ここから

テストに出るか。
それは改めて学習しておかないといけないな。
確かに東日本大震災の記憶と経験はなくしちゃいけないぜ。あの揺れは忘れられんがの。
その後もいろいろ災害発生しとるし、改めて日本は災害が多い国だって思わされるぜ。
とは言え最後に自分の身を守るのは自分じゃけの。
常に最善を考えておかなければ。
「何もなかったじゃん」で良いわけさ。
しかし最近の災害は度を越しとるわな。半端ないと言うか。容赦ないと言うんか。何故にこんなに?と言うのが多いわい。

実は・・・
先週は千葉にいてな。
納車があったんじゃが、酷い目にあったわ。
時系列で教えちゃるが、今度ゆっくり飲みながら話すわな。その頃はもう忘れとるか?
いやいや、さいぜんの「記憶と経験はなくしちゃいけないぜ」はなんやったんや!
全く!

さて。
あの日に戻ってみると・・・

8:30
横浜出発。セダンにて。
横浜は雨が降っていたが、特段普段の雨と変わらない。

10:00
関東運輸局 千葉運輸支局(通称:陸運局 千葉市美浜区)到着。ここで本日納車する車両にナンバーを装着。書類申請の後にナンバープレートを発行してもらう。
この時既に大雨が降っている。風も強く傘を差していても足元から濡れてくる。オレは長靴を履いていたがズボンの裾は既にびしょびしょ。
この日は曜日もあったんか、千葉で車に乗る人が多いんか、陸運局に申請に来ている人は多い。いわゆる混雑状態。
諸々申請を行い、ナンバープレートが出てきたのが11時半。これを自分で装着、係員に封印をしてもらうのだが、ナンバーを装着するには車両の積載されているトラックの荷台に上らなければならない。雨風がひどいのでここで雨合羽を着たが、着ている途中で雨風のせいで既に服は上下共にびっしゃびしゃ。それでも雨合羽を着て荷台に上がりナンバー装着。封印を行う係員はトラックまで来たが、雨風で荷台に上がる気持ちも失ったか、荷台にも上がってこず、封印もオレが自分で行う。
陸運局の駐車場は片側の下がり勾配で、下がった地帯では池のような水溜りができ、くるぶし辺りまで水が来ている。

12:30
全て終わって陸運局を出たのが12時半頃。この時更にも増して尋常ではない雨模様。
この後納車先の東金市にトラック共々向かう。

12:45
穴川ICから京葉道路へ。この辺りも雨はひどいが、冠水するような状況ではない。
京葉道路を走り、千葉東JCTを経て千葉東金道路へ入る。
千葉東JCTの案内板には千葉東金道路が通行止めになると出ていたが、この道を通るしかないので、そのまま千葉東金道路へ。
千葉東金道路へ入った途端に想像を絶する、今まで体験したこともないような雨が降り始める。車にはオートワイパーが装着されているのだが、最速で動いても前が見えず。雨のたたきつける勢いと、ワイパーでかいた飛沫とが重なり、前方は飛沫越しに見る形となる。視界は10m程度か。
京葉道路は100〜120kmで走っていたが、ここでは一気にスピードダウン。60kmぐらいでのノロノロ運転となる。追い越し車線を走る車はなく、皆一列になって進んでいく。あたかも戦時中の軍艦に護衛をされている輸送船のよう。

この辺りの件は国見峠で積雪を見たときの、いつかの光景と重なる部分である。懐かしかろ?あの時も、それまで誰に抜かれることなく先頭を爆走していたのが、雪を見た途端に急にノロノロ運転になって、それまで追い抜いた車に次々追い越されたもんだ。
なんてことを考えながら走っていたが。
先頭はカーキャリアが走っていた。間に1台乗用車があり、オレは車列の3番目を走っていた。

「!!」突然先頭のカーキャリアが急ブレーキでスピードを落とす!オレも慌ててブレーキを踏み込む。何事かと思いつつ、ゆっくりと通過した所は左の斜面から、いや斜面自体から水と泥が流れ出ており、道路上を泥川へと変貌させていた。
あそこはあの後どうなったのであろう。土砂となって崩れ落ち、道路を塞いでしまったのだろうか。しかし止まることは出来ない。前に進むしかないのだ。
途中のIC出口手前に設置された電光案内板には「この先通行止め この出口で降りろ」と必ず書かれていた。他のドライバーもそうであったろうが、オレも困惑するままに進んで行くと、いつしか反対車線を通る車はなくなっていた。そう、上り車線は通行止めとなっていたのだ。
それでもオレは構わず進み、終点の東金ICで千葉東金道路を降りる。

この時既に、ここまで来たことを後悔し始める。帰りのことを考えたら、何故日にちを変えるという勇気がなかったのかと。せめて陸運局から引き返さなかったのかと。
しかしここまで来たら仕方ない。前進あるのみ。

13:15
東金ICを出て、目的地までの距離は約3km。普段ならば鼻歌を歌って通り過ぎるところだが。。

「!!」目的地直前のホームセンターの前の道が冠水!片側1車線の道であったが、こちら側は完全に冠水。泥池のよう。反対車線を車が来ないタイミングで通り抜けて行く。片側封鎖した工事現場の交互通行のよう。ただし決定的に違うところは、秩序を作り出す警備員がいないが。

13:30
目的地到着。広大なヤードだが、ほぼ冠水している。地面が見える所が少ない。屋根付きの倉庫に乗用車を入れてトラックの到着を待つ。待つ間に先程脱ぎ捨てた雨合羽を再度着用。服も雨合羽も濡れていて着づらい。そして倉庫内は屋根を叩く雨音がやかましい。
やがてトラックが到着。すぐに降ろしにかかる。途中ドライバーに話しを聞いたところ、先程のホームセンターの前は更に冠水が進み、両車線とも冠水していたとのこと。

「!!」車両を降ろしている途中で急に倉庫内の電気が消える。誰かが間違えて消したのかと思いきや、停電の開始(?)。幸い倉庫とは言え、外に向かってシャッターが開いているので暗くはなかったが。車両を降ろし、書類を渡して本日は終了。本当は取扱い説明を行う予定であったが、一刻も早く帰ることとする。
そう、これが悲劇の始まりとも知らずに。。。

14:00
客先を出発。既に千葉東金道路が通行止めになっていることは周知のとおり。高速を使わずに横浜を目指す訳だが。来た道を戻ってもホームセンターの前は通れないので、逆方向に出発。顧客に言われたとおりの道を通っていく。言われたとおり1本目のT字路を右折したのだが、左側は既に冠水。更に2トントラックが水没した無残な姿を晒していた。車はみな右折しかできず。
しかしこの道も右折した後に真っ直ぐ進むと、雨合羽を来たおじさんに車を止められる。住民の方だそうだが、聞けばこの先は腰まで水が来ているとのこと。慌ててUターンをし、先程のT字路を左折、元来た道を戻りながら他の道を探す。既に教えられたルートが通行不可と分かり、帰れるのかどうなのか、微妙な空気となってくる。しかし今日日のナビ技術は素晴らしい。ちゃんと正確に道を教えてくれる。技術の進歩に感謝。
しかしながら最先端の技術でも、冠水情報までは入っておらず、この後ナビどおりに走ったところで今度は消防士に止められる。止まった先には軽トラが水没している。消防士からも「ここは無理ですよ」と言われ、再度Uターン。そのたびにナビはいそいそと新しい道を探してくれる。
そしてこの辺りから、下り坂を下ることに不安を覚えるようになってくる。下に下って行く程水が出る可能性が高くなるからだ。
途中川が氾濫している所を見つける。川沿いの田んぼには水が多量に入り込んでおり、再生までには時間がかかるだろうことが予想される。幸い刈り取りを終わっているようなので、作物に直接の影響が出なかったことが唯一の救いか。しかし雨は一向に止む気配がなく、氾濫は次の田んぼ次の田んぼへとどんどん広がっていくのだろう。

ついに国道126号に到達!という手前からまた不安が。脇道から国道への合流地点が低くなっているのだ。合流地点は既に冠水。しかし渋滞しながらも車は動いている。国道に面した家(商店?)は既に家の中への浸水が始まっている。まるで無人に見えるようか家屋であったが、住人はどうしたのだろうか。
そして。。。国道を突っ切った反対側。国道より低い反対側は更に冠水がひどく、またも軽トラが水没していた。

渋滞の国道を走り、渋滞していてもまだ周りに車がいるという安心感を保ちつつ走っていたが、途中で国道から離れなければならなくなった。この先をナビで見たところ、京葉道路は通行止めになっておらず、蘇我ICから高速に乗れるようなのだ。蘇我ICから京葉道路に入れば、アクアラインを通って横浜に帰ることができる!
その為にオレは国道を離れ、蘇我方面に向かうこととした。こちら側は渋滞がなく、しかもいくらか交通量はある。しかし反対車線はなぜかとんでもない大渋滞。
これは、、、
嫌な予感が頭をめぐる。そう、この先が通れなくなっており、みなUターンをしてきているのではないか?と。
そして嫌な予感ほど当たるものである。
ここで最大のクライマックスが!

そこは橋であった。ちょうど谷間に川があり、そこにかかっている橋。特に特徴もない、どこにでもあるなんでもない橋。晴れていれば記憶にも残らないような橋。そして帰るためにはこの橋を通るしかないのだ。坂を下り橋を渡る、そしてまた坂を上がる。文章にしてしまえばなんということもないことだ。
しかし川は、、

川は、橋を飲み込んでいた。

何台もの車が手前で行くか戻るか躊躇していた。ファーストペンギンには誰もなりたくないのだ。
そして戻ればあの大渋滞。
それでもオレは帰りたかった。なんとしても帰らねばならなかったのだ。
のろのろと川、いや橋に近づいて行くと、レントゲン車のような大型のバスタイプがまずペンギンとなった。こういう時は大型の後ろを走るに限る!レントゲン車がゆっくりと橋に向かって行き、続いてミニバンが1台、その後にオレも続いた。ディーゼル車なので、空気の取り入れ口に水が入ってしまえばエンジンはストールしてしまう。電装系も多量に水がかかったら、いや、それよりも水深が深く、万が一車体が浮いてしまったら。。。
しかしこの道は左右にガードレールが設置されており、もしも流されたとしてもガードレールが止めてくれるだろう。と淡い期待も抱きつつ車を走らせる。とにかく走らせる。ゆっくりと、そして大胆に。
途中フロント部分に水が来た際には肝を冷やした。どういうことか言うと、車で走っていて、ボンネットの上に掻き分けた水がかかる、というイメージ。これがそのままエンジンルームに入ったらアウトだ。左からは水がばしゃばしゃ流れてきている状況で、普通ではいられないわな。
途中エンジン回転が下がった(ような気がする)を経て、なんとか無事に渡りきったぜ。
結局後続車はなし。3台抜けた後にはまた雨音だけが橋の周りを占拠していた。

なんだか息苦しいと思ったが、走り抜けていた際、どうやら息を止めていたようだ。水の中ではないので、息を止めても仕方ないのだが。。
悪夢のような数秒が過ぎ、無事に通り抜けられた興奮が覚めやらなかった。ひょっとして大したことではなかったのか?
しかし川の流れる橋の上を通った事実は如実に現れた。ブレーキ機能の低下として。そりゃそうだ。ブレーキシューも下手すればブレーキパッドまで濡れてるわけだから。摩擦力は落ち、しばらくは効きが悪くてドキドキしたもんだ。

その後は何事もなく進んだかというと、そうでもない。
橋を渡った辺りはいくらか小康状態だった雨が、鎌取辺りでまたひどくなったのだ。
先程の高速と同様、一般道でも、いや一般道にもかかわらず、ワイパーを最速にしても前が見えない程だった。
そのせい?なのか鎌取周辺は突如、本当に何の前触れもなく、いきなり停電が発生した。
信号機が突然消えた。まるでスイッチを「パチン」と落としたように。昼を食べていなかったので、コンビニに立ち寄ろうとしていたのだが、コンビニも真っ暗。東金と同じ状況だ。横を線路が走っていたが、電車は走っていたのだろうか?しかしそれも1km程度。少し走ったらそこはまたいつもの明るい町だった。

鎌取近辺を過ぎた後にはまた雨も小康状態。蘇我ICに着いた頃には雨も上がってたわ。
そのまま連絡道を通りアクアラインへ。アクアラインは風が強かったが、夕焼けなんて出てたな。

17:00
横浜着。
横浜は何事もなかったかのような普通の日常だった。事務所内も何も変わることなく。
そしてオレがこんな大冒険(?)をして来たことも誰も知らない。
とにかくクタクタに疲れた。なんせ疲れた。
結局成果としては、ナンバープレートを取得して置いてきただけ。
それなのに1日仕事、しかもくたくたというおまけつきの1日だったわ。

結局顧客先の停電はしばらくして復旧したとのこと。トラックも無事に会社まで帰れたとのことで、実質的な被害はなかったか。。
最近の千葉はひどいな。狙われてるな。
それと災害の内容もひどくなってきているし、数も増えている。
まさしく以前のことを教訓として、学習せねばならんな。
しかし、もうこんな経験は2度としたくない。
猛烈な雨、いやいや、命を脅かす雨だったな。


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