機会読みの真骨頂。昨年末放送され、見ようと思って結局見られず、あまり気にも留めていなかったら深夜の再放送をたまたま見ることが出来た。「TR(トップランナー)」、西原理恵子の回である。内容は勿論のこと、それ以上に衝撃的だったのはずいぶんと彼女(の作品)から離れていたこと。
極めて個人的な読書遍歴だが、エッセイをパタッと、ほんとにパッタリ読まなくなって6年ほど経つ。理由は不明、ただそれまで10年ほど、図書館で借りる7〜8割がエッセイだったので飽和したのかも知れぬ。さておき。いつの間にか、作者の作品も自分の中ではエッセイに属していた。いわゆる企画ものの比率が高くなっていたからで、絵(西原)と文のスタイルは正直読みづらく、単行本で読むことは無くなっていった。従って記憶にある最後、「アジアパー伝」辺りで、徐々に壊れていくカモが描かれていたが、まさか亡くなられていたとは知らなかった。そう、長年のファンであったのが知らなかったのだ。
そこで今年はサイバラの作品を読もうと、意を決して漁ってみたところ。ピッタリのシリーズが出ていました。数ある企画ものの中から西原画のみを集めた『サイバラ茸』(講談社)という全集が(実は今のところまだ2冊しか入手していなくて、チョコチョコ「できるかな」とかも買ったりしているのだが)。未だFXで1000万投資とか、無茶なことをやっている作者の、本当に身も心も削っていた頃の作品をようやく読み出している。すでにロングインタビューで現在の達観した心境を見ているから、..無論今後どうなるかは、不謹慎ながら正直死んでからでないと断言は出来ないけれど。最低最悪の結末(オチ)でないことが分かっていて、破茶滅茶な言動を心から楽しめている。
一方まるきり運任せの出会い買いの方は、今年は何だかベテランの作品に偏っている。花輪和一『刑務所の中』(青林工藝舎)を見かけた時は思わず興奮してしまった。10年ほど前、改造モデルガン所持で受刑の憂き目に遭い、出てきて書き上げられたこの体験ルポを、私は新刊では買わなかった。吾妻ひでおの「失踪日記」は発売日に買ったほど、この手の作品は好きな方であるのだが、作者にあまり思い入れが無かったからかも知れない。しかし読みたいな..とは思っていて、ようやく巡り合えた訳である。これが買い応えあった。何しろ情報量が圧倒的である。風呂場や作業場の絵などは時に俯瞰で描かれていて、まるで資料写真を写したかのようなのだが、もちろん受刑時にスケッチなど許されるはずもなく、全て記憶に基づいて描かれたらしい。挿絵画家の系譜に連なる作者の細密な絵柄は、隔絶された閉鎖空間を見事に表現している。内容がまたものの見事にストーリー性がなく、刑務所という非日常の、ある意味での異世界を淡々と描き出す。業の深い、オドロオドロしい古典作品など漫画にしている作風は正直苦手な方だったのだが、年を経て少しは味わうことが出来るようになったかも知れない。
青林工藝舎刊でもう一つ。平田弘史の時代ものがシリーズで刊行されており、ようやく古本屋に出回ってきた。そんな一編、『血だるま剣法・おのれらに告ぐ』(青林工藝舎)は長い間封印されていた作者最初期(貸本時代)の作品と、そのリメイク作。現在の洗練され尽くしたタッチと違い、やや朴訥とした初期作、リメイク版は荒々しさの残る筆致の作品で、古さを感じながら読み進めていたのだが。内容はとにかく物凄い。ひたすら敵に勝つことのみに執着した、いわゆる邪剣、妖剣を使う主人公というのは剣豪小説、伝奇もので読み慣れているはずが、こうしてビジュアルになってみると圧倒的な迫力と面白さを伴ってくる。少年漫画の、読み出すと止まらなくなってしまう魅力、その原点を見たような気がする。リメイク版はページ数も少ないせいか、ややその中毒性が薄まった感があるものの、こちらは主人公の行動の根拠を深く掘り下げていく過程などあって、大人が読んで納得するような展開になっている。抜き打ちを仕掛ける師匠の体の極め具合など、同じ構図ながら見事に進化しており、まさに読み比べが一興を伴う一冊となっている。
最後は宿願、叶ってようやく手元に置くことの出来た、永島慎二の「漫画家残酷物語」シリーズ『黄色い涙』(マガジンハウス)勿論復刊ものである。どうも数年前に映画化されたらしく、その流れで復刻されたようだが、本シリーズはずっと、読みたくて仕方なかった。オリジナルはもはや手が出る存在ではなく、このずっと以前に「漫画家残酷物語」本編はふゅーじょんぷろだくとの珈琲文庫シリーズで刊行されており、古本屋だけでなく書店でもそれとなく探していたものの。一度も見かけることは無かった..。さておき。本作は駆け出し漫画家の住処にいつとなく集まった若者たちの青春とその終焉までを描いた連作である。やっぱり無限の可能性を信じて無軌道に生きる彼らに共感を抱かずにいられない。もはや思い出話に遠ざかってしまった日々が、ここにある。
長年活躍している(きた)漫画家の作品は、いつ読んでもその力量を充分感じることが出来るなと、今回はそういう話でした。