タカハシの目 第56回

(初出:第114号 06.10.20)

巷では相変わらずガンダムが人気で、「ガンダム芸人」なる括りまで登場しているのだからエライもんである。本放送が79年で30〜40代が懐かしさも手伝って語り始めた..まあいわゆるリバイバルブームの一事例と言えるが今でも新作が出されるシリーズだから単なる懐古趣味とも言えず。ただ個人的には5年ほど前がブームの頂点で(何の事は無い、レンタルで観たのがその頃だっただけ)、ちょうどガンダムオンリーマガジン「ガンダムA」創刊の頃である。そして「30過ぎてもガンダムガンダムって..どうかと思うねボカァ!」とシャアが放言する、大和田秀樹『機動戦士ガンダムさん』(角川書店)単行本の表紙に一応の共感を覚える。そんな訳でそのものについて語るのはヤメにして、大和田秀樹をピックアップする事に(但しオリジナル作品は未読につき紹介せず(出来ず)。「ガンダムA」11月増刊「お笑い特集号」がネタ元デス)。
「元の作品作風と中身のストーリーとかシチュエーションが、ミスマッチであればあるほど面白い」
蓋し名言である。この言でいくと原画担当、安彦良和自らが描く『GUNDAM THE ORIGIN』の描写を踏襲しつつあらゆる笑いのパターンを提供する、トニーたけざき『トニーたけざきのガンダム漫画』が一番となる。このSF漫画の実力者が如何なくテクニックを駆使した本作はもちろん面白い。面白いのだがしかし..立ち読みでも思わず笑ってしまうようなパワーは大和田秀樹が勝る。
「パロディはカウンターパンチだから、相手がどんなパンチを繰り出してくるか読んでないといけない、相手がパンチを繰り出してきたら、ものすごいいいタイミングで、まったく逆の方向に同じパンチを繰り出すとクリーンヒットする」
これも名言である。(ファースト・)ガンダムの場合ストーリーは完結している訳だから各シーン(の解釈)をひっくり返せば良い。大和田秀樹も当初はいわゆる名場面、名台詞を使ったネタが多かった。シリアスな立ち回りの多いシャアを主人公に立てているのでネタは無尽蔵である。しかし、最近はどうやらキャラが一人立ちを始めたらしく、ヒヨコのシャア(彗星ヒヨコ)との確執などすでにオリジナルの範疇にある。
そして単にギャグ・パロディに止まらないのが大和田秀樹の本領である。ジオン公国を乗っ取ったザビ家を貧乏長家に住まわせ、野心など微塵も感じさせないホノボノ一家に生まれ変わらせた『宇宙島のガルマくん』。これはハートフル・コメディであり一年戦争と(地続きの設定ながらも)無縁の、パロディとなっている。
「ガンダムはそれまでのメカロボットと違う、装着するパワード・スーツみたいなものなんですよ!」(ガンダム芸人)、「人が乗っているロボット(兵器)というのを感じさせる作品」(庵野秀明、カッコ内筆者)と言われているが、外見上はやっぱり人格をイメージしてしまうモビル・スーツ(MS)をそのまま現実社会の典型的キャラクターに当てはめた『隊長のザクさん』。これなどサラリーマン漫画(というより、不良漫画?)に匹敵する、世代間格差や当世気質を見事に描き出した今ドキのストーリー作品と言える。中間管理職にザコキャラ(失礼)のザク、スタイリッシュな?ゲルググやドムを新人(若者)とした配置は素晴らしい(また暴走族ノリの装飾やらチューンナップが敵方であるジオンのMSに合うんだわこれが!)。工房のオヤジに成り果てた旧ザクが歴戦のツワモノとして若者に迫力勝ちする話など、湘爆を彷佛とさせるヤンキー(ツッパリ)・パロディである(例えが古いか..)。
ともかく、かつて4コマ作品(ガンダムさん)をして大和田秀樹を評したが、子供のように駄々をこねるシャアだけがウリではない事が分かった。それで益々好きになった訳である。
ところで余談。先ほど引いたパロディの定義めいた話だが、田中圭一としりあがり寿の対談から取っている(単行本「神罰」より)。手塚調のタッチが近年のウリである田中圭一、実は「ガンダム」のパロディを描いている。同じく『神罰』(イーストプレス)所収の『泥棒』がそれである。一読、二読、三読..と、初出が「COMIC CUE vol.7」の本作、何度か読んでいた話だったのだが全く気付かなかった。手塚、藤子、永井etc...と巨匠のパロディがメインであるから本作もおそらく..という先入観があったのだろう。最近読み返していて、最後のコマでアッ!となった。田中圭一はご存じの通り下ネタ大王であるから内容は割愛するとして..泥棒の、頬被りを引きちぎるその様は..ガンダムの、アムロの初戦ではないか!ロボットに主人公が乗り込むシーンとしては「越えられない!」と庵野監督に言わしめた名シーンがエロパロになっているのである。見返せば「よせ!われわれは泥棒が任務だ!!」「いえ!まだ寝起きでよく動けんようです!」など、およそ泥棒らしくない台詞の応酬(これもオリジナルをアレンジと今では分かる)。コミキューも改めて読むと解説で「何かのパロディなのかなぁ?」と匂わせてある(しかも当号は「ロボット特集」だし..何で気付かないかなぁ?)。
閑話休題。「ガンダム」は傑作である。だからこそ派生作品でもパロディでも、読むべきものは無数にある。しかしそれは、ある程度の知識や興味を持っていないと分からない面白さを持ったものが多い。「ガンダム」でありながら「ガンダム」から離れつつある、大和田秀樹の作品を、30過ぎた大人はガンダムガンダムって言わないで読んでみるといいかも知れない。
(言ってる当人はこの稿ガンガンダムダム書いてますケド)



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