定期定期的

(初出:第319号 24.1.23)



迂闊『のみじょし』(竹書房)の影響で食に関して興味あるのは日本海。スーパーで目にする機会もこのところ多く、石川ブランド「とびうお」「のどぐろ」のちくわを食す。まあ原材料は海外なんだが..。能登半島「たこのさつまあげ」なんてのも購入。美味い。空旅、行くなら直行便の出ている所かなと考えていたところ。
追記ーこの度の地震で被災された皆さまへ心よりお見舞い申し上げます

今年(編注:年明けたので昨年の話になります)条件が整ったのは九州。知人が1年限りの遠征で春から行っている。あまりにも遠すぎと思っていたら格安航空の乗り継ぎなんて手があるらしく「んじゃ俺も行く!(行ける!)」と。しかし着いた先での足が無いなあ..レンタカーってもなあ..全く土地勘が無いので行って何する?を決めかねていたら。吉野ケ里遺跡で邪馬台国の痕跡が!?のニュースに膝を打つ。これぞ天のお導き、卒論を天孫降臨にした私に「見に来い」と言っている。何を書いたか全く覚えておらぬがともかく。昼の潰しが効けば公共交通機関で構わない、現地のミニツアーなんぞあれば飛び込めば良し。前後を移動メインにすれば2泊3日、上京くらいの予算で九州の一片を味わえるのでは、なんて。


半年後・・
知人を訪ねるのシリーズは、今回九州ということで春先は意気込んでいたのだが、近況を聞いていて暗転。
かなりの多忙らしく「来てもらっても会えるかどうか」といった感じ。
それでも単なる動機付けだからと連休の日程が決まり早速当たりを付けてみる。
飛行機往復にレンタカーの2泊3日スタンダードプランは両手切るくらい。そりゃそうだと分かっていてもこれで「行くだけ」だからやはりお高価い。飛行機、宿と自前で底値を組んで、レンタカーも2日目だけにしたケチケチ旅程で8掛け程度。お、諸々両手で済みそうだと気を取り直すも週の真ん中ド平日では相方とは会えそうにない。
これが「ヒマだから来い!あちこち案内してやるで〜」だったら行って初日に飲み、2日目車で方々連れ回されて帰って「お疲れ〜乾杯!」、最終日は空港まで送ってもらって「楽しかった〜バイバイ!」。レンタカー代、日帰りツアー代等々かこつけて、道中の諸々を浮いた算段で散財して一向苦にならぬのだが。
週末祝日絡めてみれば宿泊費が3倍相場。それで「会えてお茶くらい」では甲斐が無し。本当の底を狙うなら連休明けに掛ければワンチャン初日に飲めるけど、そうは仕問事屋が卸さぬ。
秋のツアー広告には九州半周4日間で両手のプラン..。同額で上げ膳据え膳の楽チン旅が出来るけど観光がしたい訳で無し。567禍で行けなかった鬱憤を、のはずが当時の助成企画を懐かしむことに..。

これに比べればどこへ行こうと割安感があるだろう。そう思っていくつか候補を探ってみるも「宿が高い」「移動時間が」と諸手挙がらず。祝日絡みがアダとなっている。
地元割再開のニュースを聞いて「しめしめ」と思っていたら、とっくに期間を過ぎていた。それでも移動が無いとなると近場がやっぱり安近短。祝日を躱す日程ならビジネス需要も無いらしく相場のまま。かつてなら面白味の無い価格でもこの週に限っては「近場ありがてえ」と感じてしまう。
翌週はさすがに何処かへ。上京すれば間違いないのだけれど、やはり九州を考えていたので旅心。日本海側を漁っていたら鉄旅で時間と価格が妥当ラインに掛かる。問題は宿。駅近は旅館のような名前と内容が並び、聞き覚えあるチェーン宿は想定の倍。需給バランスに拠るのだろう、観光では無くビジネスメインの土地だと会社任せの経費落ち、ホテルタイプは人気で強気にもなるか。ひとまず地元のホテルをマークして予算を組むと何とか片手で2週回せそう。なら上京しなくても良いかな。都内も相場は落ち着いたけど、やっぱりそれなりだし。
そして最後の希望、セール日をじりじりと待つ。

目当ての宿は2割引対象、ならず。これで諦めがつき、近場を予約。旅先はというと本腰を入れて吟味していくと当初予定より安い宿も候補として見えてくる。もちろんナンアリで風呂トイレ共同..。大浴場と称した家族風呂は経験済みなので構わないが、トイレ行くのに部屋出ろってか..。しかし朝食が付いて片手違うならトイレくらいの面倒は..。チェーンホテルとは倍違う。迷うこと無し、不便さを買う。
宿取って日程決まり、移動のシミュレートへ。予約完了画面にて、高速バスの文字が目に止まる。そうか、これもあるか。初めての場所で道中もそれなりの興味があって鉄旅に引っ掛かったが高速でも風景良さそうだ。調べてみると同程度の時間で4割安い。帰りに使えば直行片道料金で鉄バスと経路を変えて往復出来る!
とここまでは絵に描いた餅。実際は「平日のみ運行」。行きにバス(直行)か..チェックインまでの時間どうしよう..。そして帰りの鉄路、行きと同じ行程が探せないんですけど..週末だから?じゃあ仕事明けの即移動で気が乗らないけど平日〜平日の2泊3日に切り替えるか、前後に予定があるで無し。スライドさせようとするも宿の予約時、「残り1部屋!」だったから..自分の予約で埋まってしまって出て来ん..。完全に詰んだと思った。

直電、キャンセル、手はあったろうがそこまでの話でも無い。出発地、目的地、点結びのビジネスライクな旅行として新幹線往復のホテル泊で見積もって妥当としていたから「諦めれば」済む話。面白いのはここから有り余る時間を駆使してどれだけ削れるか。宿代を踏まえると日程はズラせぬ、バスは平日しか出ておらぬ、となれば帰りの新幹線をどこから乗るか。案内ソフトはあくまで目的地に着く手段を示しているだけで、そこに「これくらいの料金で」「このくらいの時間で」というこちらの意向を加味してはくれぬ。そこで「この辺から新幹線で」という意志を「経由地」に加える。それが間違っていた。地理不案内だから巨大中継地が入ると思っていたらそのルートは適切では無かった。あれこれ変えていくと段々見えてきて、ついに「行きで使いたかった乗り換え」の経由地を入れてみたらビンゴ!
週末でも(復路でも)、行きと同じ料金のルートが出て来る。さらに「ここから新幹線」の駅からずっと普通列車でも到着が夕方。移動時間はバスの倍だが、料金はほぼ同額。そして帰り道、昼過ぎに着いたところで用事は、「ぬ」。

蛇足。ここのところは決めてからも最後まで迷い所であった。差額と掛かる時間が釣り合い取れていないというか。新幹線は時間1本のペースで走っているので途中下車しても良さそうなので優雅に昼飲み&土産でも買おうかと。しかし観光地でも無いから数時間って過ごせるか?そうこうしていると運賃の矛盾に気付いてしまった。直行よりも途中下車の方が料金が安い。バグだろうと思いつつも念押しで公式で調べてみてもそうなった。どういうこと?推測するにルートが複数あるから距離換算で直行は高い方を選ぶのではないかと。経由地で決済すれば単一ルート料金で結果(初乗りを含めても?)安くなるようだ。新幹線でも同じで、改札通って改めて切符買えばワンカップおまけで付いてくる。その程度と言ってしまえばそれまでなんだけど、新発見だったので記しておく。素人でごめんなさい。

行きのバスの到着時間とチェックインまでのタイムラグも考え方一つ。チェックインドンピシャの移動手段を踏まえれば差額は片手できかぬ。駅で荷物をロッカーへ。これはワンコイン(1/10)で済む。寧ろ滞在中観光など一切考えていないから(目的は別にアル)、この数時間で土産を確保せねばならぬ。荷物を置いて街を徘徊すれば良し。望むところじゃないか。

このように考えが切り替わったところで一波乱。某日。駅前に久しぶりに行きたい用事があってついででバスの券売所へ。路線、日付と打ち込むとんん?ずいぶん便が出ているじゃない。数時間置きに便がある。1本後の便だとのんびり昼に出て夕方ドンピシャ着。こりゃいい!と選択してみれば「販売していません」と出た。つまり臨時便ってこと?なんだ、期待させやがって。結局調べた通りの便に、見た通りの料金で予約完了。早割無かったな..やっぱり上京便と違って需要少なきゃ料金下がらんか。座席も昔ながらの両側2列シート、ただし選び放題である。最後尾の片側2席だけが埋まっている。寛ぐなら後ろだわな..しかし最前列で車窓を堪能も手だぞ。真ん中辺りなら最後まで横に人来なそう。窓側は勿論として列に迷うも結論は「背もたれ倒すのに遠慮が要らぬ」最後尾。で、思ったより充実していそうな運行状況にダメ元で帰りの便も探してみる。週末はやっていなかったはず、なのにこちらも数時間置きに便が出て来る。着時間が適当な昼発の便を押してみると「んん?買えるぞこのチケット!!」
えーどういうこと?ネットの情報ってほんとこれだから..計画が狂う。帰りバス直帰出来るじゃん!
後ろに人が並んだので一旦券売機を離れ、沈思黙考。行きのバス、隣の窓口で即キャンセルして行きは鉄路にする?当初予定に戻れるが、鈍行一本鎗のプランに変節している。向かうにはかなりの苦行である。往復バスなら移動費は最安値まで下がるけど、鉄分無し..。そして出発時間と到着時間の中途半端さ。チェックアウトしてから数時間潰さねばならず、即乗ってしまえば昼過ぎには着いてしまう。金額より時間、お茶1本分で倍の移動時間、これとどう折り合いをつけるか。
結論としては「帰りは気分次第で」。行きが良かったら帰りもバスで良い。その場合は向こうで直前に買えば良い。席が埋まっていて相席になるようなら鉄旅で良い。土産が充実していて荷物が増えていたら、でも良いか。天候が穏やかかどうか、初日飲んでの2日目の体調で決めても良いな。いずれにせよ新幹線含め選択肢が増えたと前向きに捉えて行きはバスで変更なし。

土地の名物はラズウェル細木「酒のほそ道」(日本文芸社)で、居酒屋での飲み方は「ケンコバのビジホ泊」(BS朝日)を参考に予習成る。イメージは仕上がった。
予算は当初予定の6掛け程度まで削れた。浮いた分を踏まえれば連日飲み歩き出来そうな豪遊旅になりそうだが、遣うのが自分独りではいつも通り「とは言っても」でショボく終わるのだろう。
イメージより小さい街を目的も無く彷徨い大した収穫も無く、結局部屋でテレビを見ながら晩酌して..これまたいつも通り。しかしこうやって行く前にあれこれ膨らませ、旅先で理想とのギャップを感じて、帰ってメモ書きをまとめていく。前週の近場など、もはや常の休みと変わらぬテンションである。そこへ行くと旅は前後とセットで楽しめる。目論見とは遠く離れて(距離的には近くなって)しまったが、やっぱり旅は良い。

 


良いとは言ったけど..
常の休みが終わっていよいよ遠出の始まりは一日置いての準備万端。ここでため息一つ。近場より荷物を少なくせねばならぬ苦渋。
イヤホンなど可愛いもので、買い物も面倒と4コマ誌から酒にカップ麺、果ては枕が変わると眠れぬ、ならぬツボ押しマットまで持ち込む、さながら自室移動。バックがいくつあっても良い、何故なら車に積んでのドアツードアだから。
遠出はそうはいかぬ。まして電車移動では土産も含めてバック1つに収めたい。なのに備品が年々増えていく。充電器、防寒グッズ、エコバック。このエコバックがかなり厄介な代物である。大きいから便利、ならぬ、あれこれ詰めていくと重く、移動には不向き。近所での買い物用であって荷物を詰めて旅回るのに最適ではない、ことにようやく気付いた。しかし全てを一つに、のキャリーバッグを購入するほど旅づいてもいない。まだ海の内側をウロウロしている段階である。

前週はシミュレートを兼ねて最小限の荷物にしてみた。季節外れの暖かさで下着類のみ。充電器もスマホのみ。加熱式タバコ、このところ旅でも使わず実は最初の一箱が未だ無くなっていない。仕事中喫煙不可の縛りが功を奏して外出中は吸わなくとも苦にならなくなった。本も携帯プレイヤーも、ネット環境充実の宿をリピしたので持ち込まず。スカスカのバック一つで2泊3日、どうなるか。
とはいえ普段の休日の延長線上、普段向かわぬ古本屋は巡回。するとたまたま欠番だった巻があったり、「これ出てたんだ!」という意外な作品を見つけたり。こうなると爆買いモードで気になっていた作品もいいや、買っちゃえと。思わぬ収穫とは言え早くもメインバックは満杯になる。そして宿入る前から土産を漁る。そこに適当なものがあると知っている地元民。ただ最近の傾向は「とにかく皆さん良く食べる」。物価高の影響か「貰えるものは何でも」で選り好みが無くなった。センスが問われないのは助かるけど、つまり「質より量」。名産品など無い近場で価格重視も「量は確保」せねばならぬ。某都会の有名ブランド(笑)で手頃な量の一品がある。今までなら「え、ここ行ってきたの?」「いやまあ(行ってないよ)」のやり取りを想定して即決だが、現在は一瞬で無くなって「えーもらってない!」の声の方が聞こえてくる。そこでクッキー詰め合わせという土産とも言えぬ大容量菓子折りを選択。ノルマがすんなり済むのは嬉しい限りながらサイズがデカいんよ..。これでエコバック1つ埋まる(詰っ込めばまだまだ入るけど)。
そして晩酌の買い出しは酒の持ち込みを入れてなかったから消えものだけどエコバック1つパンパン。宿に着いた時にはボストンバック1、エコバック2..(土産は異常気象で溶けそうなので車に放置出来ず)。翌週はこれをNOTマイカーで行わなければならぬ。

グッと寒さが深まるようだけど、まだ雪は降らない、よな?でもやっぱりフリースもう一枚..いや要らん!本、ナイトキャップ用と帰りの鉄路用で2冊..いや1冊で間に合う!を繰り返して何とか必要最低限に。物凄く心細いが行ってしまえば無いものは無いで支障は無かろう。コンビニ、100均、何でも揃う街中泊まり。要るとなれば買えば良い。
今回は慣れてしまった近場旅では無く、宿は寝に帰るだけだ。そして荷物も本当に面倒になるのは帰り道だけ。土産は個人用も含めて買いまくる。飲みも今回はチェーン店ではダメだ。少なくとも地元の名産品を食わねばならぬ。二度と訪れない可能性の高い土地、悔いの無いように、そのための格安交通手段にした。贅沢して良いのだ。
言い聞かせるように寝る前にネットでマップを眺め回し、シミュレーションを重ねる。「行ってきました、で良いじゃない」からテンションを上げたのは、近年珍しく飲み食いに関しては充実している土地に見えたから。呑み鉄もしよう、飲み食い三昧の旅だな..と決めていたこの直前の気分、今読み返すとフラグ立ちまくりで微笑ましい。

普段より早い午前中の出発で直前バタバタ。寝起きでフト思い出す。「あれバッグの底に肩ひも入ってたな」。前週見た。買って最初に使ったのが近場だったから不要の物として突っ込んだまま、勿論前週も使わなかったけど、付ければ肩掛けで移動出来るじゃない。で荷物をひっくり返して付けてみるとおお、両手空いて便利。そういえば..上京した時手に持って駅まで行ったっけ。車移動じゃなきゃ荷物が面倒という感覚が生まれたのがまさにこの時だった。愚かな..超便利な付属品をバッグに入れたままで抱えていたとは..。出掛けにはあまりのポカポカ陽気に急遽フリースを脱ぎ置き、ジャージに切り替えたり。荷物増えるけどフリースは持っていかねばならぬ。どちらも前開きタイプで道中目まぐるしく変わる気温状況への対応に便利だった。
バスは乗客10名乗らず、快適この上なし。先客だった最後尾の2席は無人。取り敢えず取っとけ、という(おそらく)ネット利用者の行動にこちらは振り回されているというのに..。しかし絶好の行楽日和のドライブ旅も見慣れた景色を過ぎると山とトンネルばかり。新幹線といい、目的地へ最短ルートの高速は山を貫いていくから退屈だった。その下を単線が通る。こちらの方が趣ありそう。高速を降りるところで遠くに巨大風車。日本海側だなとようやく実感する。

予定通り早く着いてガッツリ街歩きを堪能。駅ビルの土産物屋を一通り。量は望めないが手頃なのがいくつか見つかる。あれこれ買っても良さそうだが帰り鉄路だと中継地でも買えるので一つに絞る。個人的な土産も見つける。「これで部屋飲みでも良いかな」早くも日和る。レトルト、缶詰、つまみと買えば酒はよりどりみどりのお土地柄。ざっくり見積って、さて外飲みとどう違うか。駅ナカはやはりそこそこ。駅前はさすが「郷土料理居酒屋」がズラリ並ぶ。しかしまだ昼過ぎ、メニューも出ておらず相場が分からぬ。簡単に片手いくようならスーパーで地物総菜でも買い足せれば..と部屋飲みに傾くもスーパーが「ぬ」。デパ地下は地物より都会のテナントで埋まっている。ここまで来て都会のトンカツなどしょーもない。再び通りに出て下見を続けていると、チェーン店の店頭メニューに「名物コーナー」が。肉、魚、肴。お、一通りある。値段を重ねていくと..酒込みで3000円〜でいけるじゃん。あれこれアリじゃない?
おやここは、どこにでもあることに気付いた「地物オンリー」のチェーン店。ここ行けば間違い無いのだけど、こう順調だと「個室で」「喫煙出来て」と欲張ってしまう。ん?このラーメン店有名どころ。ここ本店?誰も並んで無いけど..。昼飲みやっている店も平日昼間で誰も居らず、今入ったら最高の贅沢じゃないかとソソられるも夜何もすることが無くなってしまう。誘惑を跳ね除け彷徨い続けていたら、宿の近くまでやって来た。記憶のマップ上ではそろそろ出て来るハズ..。道中「予約サイトで見たけどお話にならない相場」のチェーンホテルをいくつも見た。いずれも「かつてのホテル」を買収した中古ビルで「これであの値段かよ」と鼻で笑っていた。目の前に現れた本日のお宿は「え?これって廃ビルじゃなくて?」という格が違い過ぎるオンボロビル..。
分かっていた。中身を踏まえるとここはかつての合宿所。何せ風呂トイレ別、隊長の某施設、高校時代の部活のソレであると。しかしこれは..これはいよいよ「外飲み」しか無いな。飲んで寝るだけに帰ってくるしかない。風呂も朝シャワー使うくらいで精一杯だろ。入口を横切ると1Fに居酒屋が入っている。最後にここでヘベレケになって布団に潜り込むしかない。
立地は駅から遠いが幸い歓楽街の入口。まだ開かぬ飲み屋街を冷やかしつつ駅に戻る。居酒屋はズラリ並んでいるが地元より酷い寂れよう。軒並み「テナント募集」の看板が並ぶビルばかり。場末感が物凄く、私のレベルではここは立ち寄れぬ。

フロントは階下の居酒屋を推していて、クーポン券をくれる。使えば実質宿代が更にお得になるわけだが、メニューがベーターに貼ってあって「これは無い」と。ウインナ焼きなんかで飲んではイカン。
外観と違って中は小ぎれいで、宴会予約など入っており現役の集会所ならではの安心感。何より混んでないっポイのが良い。予約は満室だったはずだが。「風呂に入る時カギどうすりゃ良い?」と聞いても「え..そのまま持ってて大丈夫だと..」といったお気楽ぶり。部屋は予想通り大部屋にTVと冷蔵庫置いときましたという簡素さ。大勢で来ればこれぞ合宿所、ワイワイ楽しいだろうが..一人荷物を置き、近場なら早速シャワーでも浴びて着替えるところ、外着のままで一服して先付けの一杯。何せ手洗うがいすら部屋を出ねばならぬ。ここまでを書き出しておいて、1時間ほどで再び駅前へ。
平日とはいえネオンが光り出したら歓楽街もなかなか魅力的。しかしすぐに飛び込んでしまっては勿体ないと、駅までこれまで眺め回ってきた店を確認していく。出した結論は「チェーン店でいいか」。名物を一通り食べられると分かっているから明朗会計、抗えぬ。全室個室、喫煙可と貼り出したうってつけもあったのだが、呼び込みのお姉ちゃんが立っていたので逆効果。ボッタ店と主張しているようで、却って入り辛いですって..。
勝手知ったるチェーン店をくぐれば、個室に通され灰皿もある。「勝った!!」とこの時は確信した。
おすすめを説明され、メニューを眺めるも頼むのはとっくに決まっている。お通しにサラダが出て来た。よしよし、これで葉物は要らぬ。肉と魚とハイボールを頼む。追加は肴と日本酒、〆も決めてある。これで名物コンプ、お得感のある刺身と酒のおまかせセットも頼んじゃおうかな。ウキウキで一服していると店員さん空手で来た。「すいません、肉と魚本日品切れでして..」「あ、そう..」
あるあると言ってもお粗末過ぎる。ご当地メニューを掲げといて「無い」ではサギだろう。憤慨しつつも「名物は地元で食わぬ」もまたあるある。居心地は良いから腰を据えたかったがもはや興乗らず、頼まねば出られんのでプランを進めて肴と刺身のセットを頼む。ハイボールをサラダで飲み干し、刺身で酒(おちょこ一杯サイズだがそこそこのやつだった)を飲んで「しまう」。肴が一向に出て来ぬ。「あれ注文聞こえなかった?」と思うほど待ち、「じゃあ一本吸ったら出よう」と決めたところで出てくる。要するに「滅多に注文無いから仕込んでませんでした」の逸品なのだろう。酒のアテとしては最適な肴を素で頂くと、そそくさとお会計。認めよう、完敗である。
やっぱりチェーン店は地元の若者の使う店だ。名物の地酒のを堪能する場所じゃ無い。

残りをどこかでやっつけねば..周辺をぐるぐる回ってみるも先ほどとは見る目がちょっと違う。名物セット、お食事つき、小腹が満たされた現状に合わぬ。主に金額が。昼なら全乗せ海鮮丼が食べられる額でなんちゃって?酒もすでに一通り飲んだし要らないが。貧乏性というより、名物を頂くのと酒を飲むが噛み合っておらぬ。発作的に出した答えはラーメン屋。地元じゃ常に行列の店が並ばずに入れたから。汁まで飲み干し、酒飲んでラーメン食ったと満足して出る。
もう明日は何でもいいや、回転寿司でマグロでも、ファミレスでワインでも。日本酒から離れると日本海も興が湧かぬ。大体名物が希少過ぎるんだよ、某地鶏みたいに全国展開したり、地元じゃ朝食に必ず出るような大衆魚じゃ無いんだもんなあ..それでいて必ずしもここでしか食えないレアさも無いし..なんて遠吠えしながら、ホロ酔いで腹も満ちているから気分は良い。
宿もまた然り。戻って風呂に行けば良し良し、無人である。これもまた、合宿所の薄暗い蛍光灯、広いだけの沸かし風呂でもゆっくり浸かれただけで大満足。
近場と違い部屋に娯楽は無いが、何より有難いのは深閑とした無音状態。繰り返すが予約は満室だったはず..皆さん大人らしい。お陰で高速バス移動から数時間歩き詰めた旅の疲れは癒せそうである。

帰り一軒、二階で様子は分からんが賑わっている雰囲気ビンビンの店を見つける。これぞ名店といった感じ。店名を見たらあれ、近くにもあった店だ。名物は望めなそうだが是非どちらかに立ち寄りたい、と思っていたら翌日は予報通りの荒天で、雨はともかく風がヒドい。折り畳み傘が何度もひっくり返り、呑気に飲み歩きなどと言っていられぬ状況。この状態でわ..とにかく飯だけは食って帰ろうと思うも昨晩承知のように名物セットのお食事で良いのか。
「今欲しいのは何だ」「肉と野菜とボリュームです!」「酒は何でも構いません!!」
足は自然とファミレスへ。メニューを見れば酒もつまみも飯も全てがワンコイン以下。これの何が問題なのだ。勿論名物とは無縁の洋食也。しかし気の向くままに頼んで昨日より安い。先に入っていた背広のご同輩、出張だからと居酒屋入らずともこれで良いのだ、なあ?しかしリッター瓶は飲み過ぎですゾ。
もうどこへ行っても「ファミレスで良い」「部屋飲みならコンビニ(あればスーパー)で良い」と実感する。今回の旅のお供に持ち込んだ本はうってつけの一人飲みの流儀みたいな内容で、エピソードは面白かったけど残念、私はナポレオンをコーラで割って喜んでいた部類だから共感出来ぬ。地酒と地物で「これよこれ」と感激する人種では無い。いつものコンビニ総菜がアツアツで出て来ただけで「プライスレス!」と思ってしまう人間である。
宿の風呂も相変わらずの無人。もう「誰か来るまで出ない!」と決めて、ほんとに1時間誰も来ず、ただ湯に浸かる、出るを繰り返した。まあ観たいテレビも無く、本も読み終えて娯楽無かったからだが。前週の日帰り温泉とは雲泥の満足度。温泉も露天ももはやどうでも良いのだなあ。広い風呂を独り占めに勝る入浴は無い。

この展開に夢見心地でいたら、腕の輪がどこかに消えていた。
もしかしたらこの旅で何かを失ったのかも知れないなあ..と勝手にこじつけつつ、安物なのでまあいいやとバタンキューで翌朝は日の出前に起きるも気分スッキリ、実に良い宿でした。(再びこの地を訪れるとは思わぬが)
帰り道は導かれるようにローカル線乗り継ぎで予定通り。
前夜は旅先に未練無しの気分でバスでとっとと戻ろうと考えていたら、朝刊に運行状況が載る地域で乗りたい便は満席になっていた。昼便は乗れるようだが察するに相席必至、では論外。ローカル線も実は運悪くイベント列車運行と重なっていて、大盛況とニュースで見ていたので、新幹線ですっ飛ばすつもりでいたのだが雨は上がり体調万全で立ち乗りでも良いかと気分は軽い。都内を乗るのに比べると楽なもの。
土産は狙いを絞っていたのだがどこで見たのだろう、メモにはちゃんと書いてあった代物が探し出せず。店の場所も書いておかなければならなかったか。衰えたものだ。
缶コーヒーの差額で実に倍掛かるローカル線は5本乗り継ぎで逆にかなり楽。全て小一時間で乗り換えるので眠気も嫌気も訪れず、イベント列車での立ち乗りも良いス気ト分レ転ッ換チになった。景色は正直単調、中継駅は見事に何も無いド田舎で、ここで数時間遊んで新幹線で、なんてレベルでは無かった。しかしこういうところで放浪も良いな、と駅前ホテルを眺めて思うあたり、懲りてナイ。
呑み鉄は実行せず。一応ペットボトルカバーを持っていったが無用だった。もうトイレが不安で水すら口にせず。ホームにはもはや喫煙所も無く道中ひたすらガムを噛んでいた。ので着いて早速喫煙所で一服、コンビニ寄って久々に歩き飲み。人心地付いて思うのは、朝まで別天地に居たのに夕方いつもの帰り道を歩いているギャップ。そして交流はしないけど道中色々な人の会話を聞いた。近場では感じない、いつもの娯楽を置いてただ音を拾う醍醐味。知らない土地を地元面で彷徨って、普段と同じような行動で戻ってくる。これで楽しめるのだからどこでも行ける。まだまだ行ける。

そう言えば何処に落としたかと思っていた腕の輪は脱ぎ捨てた上着をめくったらポロリと出て来た。
大事な何かを捨ててしまった旅では無かったようだ。


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近場を開拓。。。